眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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それからのこと ③

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「あの赤い石のついたペンダントはなんなんですか?先日、父の形見として受け取りました。でも、それを身に着けたら変なことが起こって、信じてもらえないかもしれないんですけど。なんか過去に起こった出来事を不思議な形で見せられたんです。その見せられた過去も事実なのか、夢だったのか実際のところは俺にも分らないんです。」

「あの赤い石は。「守人石」と呼ばれるもので、代々、守人の任に当たる者によって受け継がれてきたものです。最後の所有者はあなたの祖母の安芸です。あの石は守人を導くと言われています。あなたが見たという過去の出来事は、石があなたに見せたのでしょう。普通なら、前任者から仕事を受け継ぐ際に、いろいろと教えられるのですがあなたの場合、祖母が無くなった後に生まれた為に、それも出来ませんでしたから。あなたの父親は、残念な事に守人の任ができる程、体が強くはなかった。もう守人の任務についてはご存知ですよね。」

「東門(ウエスト・ゲート)を守ることですか?」

「そうです。今もゲートを守っているのは安芸です。正確に言うと安芸の亡骸です。」

「それは、どういう事、、ですか、、?」

「安芸が亡くなった後、その遺体を我々が葬送の儀として持ち去ったのはご存知ですか?」

「はい、過去で見ました。」

「貴方のご家族には、申し訳ないことをしたと思っていますが、ゲートを守るには仕方のない事でした。安芸が死んだ後、我々が、その亡骸を祭った社(やしろ)を建て、ゲートを一時的に封じたのです。緊急を要する事態でした、守人の後任が育つ前にその役目の者が死んだのですから。幸いな事に、安芸の力が並外れて強かったお陰で、封じ込めは成功し、ゲートは今も安定しています。」

「本田さんには、言っておいた方が良いと思いますので、お話しますが、貴方のおじい様も安芸と一緒にその社で眠っています。」

「え、じいさんの墓は市内の墓地に、、。」

「いいえ違います。安芸の社が出来た後我々は、あなたのおじい様に、事実をお伝えしました。ゲートの事、社の事。おじい様は、人間や社会を守るために安芸が戦っていたことをよく理解しておいででした。それで、安芸の亡骸はここに埋葬するのが良いだろうと。でも、自分が死んだら自分も安芸の側に埋葬して欲しいと希望されたのです。ですから、おじい様が亡くなって、埋葬された後、我々が市内の墓地から秘密裏にこちらへ移動させました。」

「そうですか。祖父と祖母が一緒に眠ることが出来て。俺も嬉しいです。」

「他には?」

「事件の後、白神はどうなったんですか?」

「あの男の行方は、あの夜の以降、不明です。我々も手を尽くして探したのですが、彼を見つけることは出来ませんでした。残った白神家の者は任を解かれ、既に存在しません。」

「もう一つ。里美さんは、今どうされているんですか?」

「里美は健在ですよ。安芸が亡くなり眷属の契約が解かれた現在も、本人の強い希望で、安芸に使えています。」

「えっ。どういうことですか?」

「貴方の父親、幸雄が子どもの頃。里美が安芸の母親代わりに幸雄を育てたのはご存知ですね。」

「はい。」

「幸雄が大人になって、その手が必要なくなった後。安芸と勝也さんが眠る社の管理人になりたいと里美から申し出があり我々は、それを了承しました。もし、里美に会いたければ帰りに社の方による寄ってみるととよいでしょう。他には?」

「じゃ、俺が見たのは、間違いなく、祖父母の過去ということですか?」

「そうだと思います。我々が実際に見たわけではありませんから、確実にとは言えないのですが。おそらくは。」

「最後に、今日俺がここに来るの、なんで分かったんですか?」

「それは、、、、。我々が、貴方をずっと見守っていたからです。」

「見守っていたって、どういうことですか?」

「安芸が亡くなった後、幸雄を当家で引き取りたいと申し出ましたが、貴方のおじい様が安芸との約束だからと固辞されました。それから、我々はあなたのお父様、そしてあなたを見守っていたのです。あなた方の私生活に立ち入ることはしないよう、注意しておりました。」

(ただ見ていただけって、、、。まぁ、そうだろうな。でなければ、無職になることも、あのボロアパートで暮らすこともないはずだ。)

「それでは、我々のお話を聞いていただきます。先ほどお話した通り、安芸が亡くなって社が建てられてから、東門は50年経った現在も、魔の者を封じ込めています。ですが、それも未来永劫とはいかないでしょう。」

「はい。」

「もし、東門の封印が弱まったり、封印そのものがなくなった場合、魔の者が侵入し、日本はあっという間に彼らの手に落ちることになるでしょう。そうなれば、、、、。」

「そうなれば、なんなんですか?」

「人間社会も、秩序あるヴァンパイア社会もなくなるでしょう。」

「秩序ある、、、ヴァンパイアってなんですか。」

「我々ヴァンパイアは、吸血と言う罪深い行為でのみ生命を維持することが出来ます。だからこそ、秩序が必要のです。はるか昔にこの日本の地に流れ着いた我々は、その当時から、秩序を重んじ、生き物の命を奪くことなく己の命を維持してきました。あるものは家畜を飼育し、あるものは自然を守り、その恩恵によって得た血液で命を繋いでいるのです。これは、現在の日本で暮す全てのヴァンパイアがそのように暮らしていると言えます。その大切な秩序が失われた場合、ヴァンパイアはまず、日本に一番多い生命体の人間を襲うでしょう。そして人間をせん滅し終えたら、家畜や野生の生き物たちを、日本からヴァンパイア以外の命が消滅します。そして最後はヴァンパイア同士の殺戮が始まり、結局は日本からすべての命がなくなるのです。」

俺は、あまりの話に言葉を失う。

「先の、人間とヴァンパイアの戦争ですが、あれは、近年の日本の民の行動への警告でした。環境破壊が一気に進み、野生の生き物たちが減少し、山に暮す民から我々に、何年もの間。苦情と改善の要求が上がっていたのです、世界規模でヴァンパイアが環境破壊を続ける人間に対し反旗を翻したことを受け、我々も立ち上がったというわけです。ただ世界のヴァンパイアの民は、人間のせん滅ないし、人間の数を極限まで減少させることを目的としていましたが、我々は、最初から人間と共存を目的にしていた為、1年後に日本政府に和平の協定を申し込んだのです。これは、日本人が昔から、八百万(やおよろず)の神を受け入れる柔軟性を持ち、和を以て(もって)貴(とうと)しとなす、という気質があったから成しえたとこかも知れません。後は、貴方のご存知の通りですよ本田さん。人間とヴァンパイアの共存する社会の誕生です。まぁ、理想通りの社会と言うわけではありませんが、道半ばと言う事でしょうか。」

「それで、なぜ俺が、、、、。」

「それは、貴方が安芸の孫で、守人の任を引き継ぐものだからです。」

「そんなの、俺には無理です。おれ、今、眷属やってますけど、ヴァンパイアはおろか、人間にだって勝てる気がしませんから。それを、魔の者なんて。ムリです。謹んでお断りさせていただきます。」
それは即答した。

「貴方が、刑部家の当主の眷属になったのは存じています。あの娘も、好き好んであの仕事をしていると思いますか?あなたも同様です。好むと好まざるとに関わらず、運命として受け入れていただくしかないでしょう。もちろん、今すぐにと言うわけではありません。現在のところゲートは安定しており、本田さんがすぐにその任に当たる必要はありませんから。ただ、近く、試験のようなものを受ける必要がありますが。」

「試験ですか?」

「そうです。あなたの父親の幸雄は、体力面に問題があったため試験を受けるには至りませんでした。幸いあなたは、健康面には問題はなさそうです。ただ、あなたに流れてる守人の血は4分の1。試験を受け、任にあたれるか確かめる必要があります。」

それを聞いて、俺は安堵した、なら大丈夫。俺はヴァンパイアより、人間の資質を多く受け継いでいる。どんな試験かは分からないが俺がそれに通ることはないだろう。今まで通り、眷属として安泰に暮らせるはずだ。でも、そうなったら誰が、東門の安全を守るのだろう。でもそれは、この偉い人たちの考えることで、俺には関係ないことだ。

「貴方には、もっと早くにお会いして、いろいろお話したかったのですが、可能な限りあなたには普通の暮らしをさせたいと宗助が申しますので、、、。」

「そうす、、け?って、スマイル紹介所のですか?」

「そうです。彼の、あの眷属紹介所という道楽には、困ったものです。今のところ、彼の役目に支障はないので認めていますが、、。」

「宗助所長って、何者なんですか?」

「それは、本人にお聞きなさい。彼とは親交があるのでしょう?」

「はい。宗助所長には、良くしてもらっています。」

「これで話は終わりです。お帰りいただいてもかまいませんが、ここはあなたの家でもあります。困ったことがあったら、いつでもいらっしゃい、」

「ありがとうございます。あの、帰る前に祖母の部屋を見せていただいても良いでしょうか?」

「かまいませんよ。先ほども言いましたが、ここはあなたの家でもあります。自由に見て帰ってください。」

俺は挨拶をして広間を出る。祖母の部屋の場所は知っている。部屋の扉を開けると、部屋は過去で見たままの状態でそこにあった。俺が、所在なく部屋を見ていると、アルバムが、目につく。アルバムを開くと、そこには祖母の成長の様子が見て取れた、それよりも気になる者が写っていた。白神だ。白神が子どもの頃から祖母と共に成長したというのは本当の事の様だ。どの写真にも祖母の影のように白神が写っていた。俺は、一番最後のページの祖母と白神が写った写真を剥がしてポケットにしまった。

部屋の外で俺を待っていた、家政婦に見送られ俺は守人の家を後にする。家政婦から手渡された手書きの地図には、祖母の社までの地図が描かれてあった。

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