眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

文字の大きさ
96 / 166

ヘイトクライム(憎悪犯罪)の親玉 ④

しおりを挟む
時計は「13:50分」俺たちは3人で教会前に立っている。
閉まっていた鉄製の門が開いていて、さっきはなかった「ご自由にお入りください」の立て看板が設置されていた。

俺たち3人は、偵察に来たという後ろめたさもあって、なかなか中に入る勇気出てこなかった。

「ご自由にお入りくださいって書いてあるんだから。とりあえず入ってみよう、」
山田さんに言われて俺たちは敷地内に入る。
教会の扉を開けるとそこには30人くらいの人たちがすでに椅子に座って集会の開始を待っているようだった。

受付のような長テーブルが入り口そすぐ側に設置されていて、初老のご婦人2人が俺たちを見て、にこやかに「どうぞお入りください。」と言った。

俺たちが入ると、今日の集会の式次第が書かれた紙を1枚くれた。「聖書と讃美歌集は椅子の背の部分ににありますから自由に使ってくださいね。」と言った。

受付にいた、一人のご婦人に案内され、俺たちは中ほどの席に座る。
俺たち3人は、すっかり教会の雰囲気にのまれていた。

俺は、静かに周囲にいる人たちを見渡す。そこに集まっていたのは、受付にいた人たちと同じくほとんどが老人だった。若者はおらず、中年の男女がほんの少しいるくらいだ。

式次第を見ると、
今日のお話。マタイによる福音書:6章25節ー34節 沢口隆二牧師。と書かれてある。間違いない、沢口隆二と言う名前には聞き覚えがある。

「なぁ。一宇。ここ本当に悪の巣窟なのか?どちらかって言うと、お達者クラブっぽいよな。」
敦も同じことに気が付いたようで、小声でそんなことを言った。

教会の正面にある小さな入り口の扉が開き、そこから柔和な顔をした60代くらいの男性が出て来た。
彼は、静かな足取りで演台まで進む。彼がヴァン共反会の創始者の牧師なのだろう。

「みなさん、こんにちは。」
「こんにちは。」
彼が挨拶すると、そこに居た人たちが挨拶を返す。
彼の声は低いが、良く通る声だった。


「あすのための心配は無用です。あすのことはあすが心配します。労苦はその日その日に、十分あります。これはイエスキリストの言葉です。
 マタイ6章25節と34節を開いてください。だから、わたしはあなたがたに言います。自分のいのちのことで、何を食べようか、何を飲もうかと心配したり、また、からだのことで、何を着ようかと心配したりしてはいけません。あなたがたの天の父は、それがみなあなたがたに必要であることを知っておられます。だから、神の国とその義とをまず第一に求めなさい。そうすれば、それに加えて、これらのものはすべて与えられます。だから、あすのための心配は無用です。あすのことはあすが心配します。労苦はその日その日に、十分あります。」

彼が読み上げる、聖書の内容は良く分からなかったが、俺自身は音楽でも聞くようにその言葉を聞いていた。
聖書に続くその言葉への説明も実際俺にはチンプンカンプンだった。でも、この集会がヴァン共反会の集会なのか?教会に来るのも初めてだし、確かな事は言えないがこれって、ただの教会の集会じゃないのか?俺は混乱した。隣に座っている山田さんを見ると、山田さんもぽかんとした顔をしている。敦に至っては居眠りをはじめたようだ。俺は、肘でつついて敦を起こす。
俺につつかれ敦が目を覚ます。

話が終わり、沢口牧師が教会内を見渡して、俺たち3人に目を止めた。
俺は、彼から目をそらさず真っすぐに彼を見つめる。彼は俺に笑いかけた。本当に彼がヴァン共反会の親玉なのだろうか、、、?不思議な事に、彼からは嫌な感じを受けなかったからだ。

「今日は、のお導きで新しい3人の友人たちが、ここにいらっしゃったようです。立っていただけますか?」
彼が静かにそう言うと、集まった信者から拍手が起こる。俺たち3人は仕方なく立ち上がる。

「おかけください。この後、お茶会がありますので参加してくださいね。」

その後、讃美歌を歌い、俺たちの席に、献金箱と書かれた小さな木の箱が回ってくる。俺と山田さんは1000円札を財布から出し箱の中にいれた。敦は持ち合わせがなかったので、俺が敦の分の1000円札を箱に入れる。1000円と言う金額が妥当なのか俺にはさっぱりわからなかった。

集会は終わった。俺たちは、集会に参加していた老人たちに促され、奥の集会場へと向かう。集会場には、すでにお茶やコーヒーの準備がしてあり参加者が持ってきたと思われる手作りのお菓子が、手際よく並べられていく。俺たちは、円状に並べられた椅子に3人並んで座らされた。俺たちの前にあるテーブルにお茶やお菓子が並べられる。

「今日は、若い人たちがいて楽しいわ。」
老人たちは、口々にそんなことを言っている。
ここは、本当にヴァン共反会の集まりなのか?キツネにつままれた思いだった。
お茶会の準備が終わり、お茶会が始まる。

「今日は、初めてのお客さんがいますから、自己紹介から始めましょう。まずは私から。私はこの教会の牧師の沢口隆二と申します。趣味は園芸です、よろしくお願いします。」

次々と自己紹介が進む。ほとんどの人がリタイア組だったようで、名前と趣味などを言っていたが、仕事のある人は自分の職業も言っている。
次は、いよいよ俺だ、、、。俺は、自分の順番が来るまで迷っていた。本当のことを言うべきか否かを。でも、心は決まった。

「はじめまして。本田一宇と言います。俺の仕事は、ヴァンパイアの眷属です。それと、ヴァンパイアポリスで働いています。」
俺は、大きな声で一気に言った。

「今日は、ヴァン反共会の皆様のお考えを知りたくてここに来ました。ヴァンパイアポリスで働いていますが、今日こちらにお邪魔したのは完全にプライベートです。もし、皆さんの気分を害されたのならお詫びします。」
そう言って、頭を下げる。
一周ざわついたかに思われた集会所のどこからともなく拍手が起こった。

「そうでしたか、本当の事を話してくれて、ありがとう本田君。」
次の山田さんもだいたい俺と同じことを話す。

「俺は、須田敦です。俺も、ヴァンパイアの眷属をやってます。今日は、ここに文句を言いに来ました。」

(あつし、、、お前、、、。)

「文句と言うのは何ですか?」
牧師が静かな声で訊ねる。

「ヴァンパイアとの共存に反対する市民の会に対してです。俺の主に対する嫌がらせを止めてもらえるように、直談判に来たんです。」
敦は本絵をぶちまけてスッキリした顔をしている。

「ここにいる、本田一宇とは知り合いですが、ここに来たのは、俺一人の考えです。一宇と山田さんとは偶然教会の前で会いました。」
敦はそう続けた。

「そうでしたか、、、。今日あなた方がここに来られたのは、きっと神の思し召しでしょう。」
沢田牧師が慌てる様子もなくそう言って笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

処理中です...