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白神剣護の野望 ③

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任務の間、俺たちが宿泊するのは、東門のすぐそばにある、里美さんのいる寺だった。そこなら、ゲートの異変にもすぐに気が付くことが出来る。

俺たちが到着する頃、他のメンバーも続々到着し始める。
静かな山間の寺は一気に物々しい雰囲気に包まれた。

里美さんは、いやな顔一つせず、部屋の準備や食事の支度に追われていた。
「里美さん。こんなことになって、すみません。」
「いいんですよ。ここは寂しいところだから、人が大勢来てくれて嬉しいわ。それに、白神の結女さんが手伝いに来てくれてるから、大変な事なんて何にもないのよ。」
そう言って朗らかな笑顔を見せる。

俺は里美さんに挨拶を済ませ、ここに結女さんが来ていることをゆずに知らせようとゆずの姿を探す。
でも、ゆずは俺より先に結女さんを見つけていたらしく、結女さんと何やら話し込んでいた。
久しぶりの二人の会話を邪魔しないように、俺は、さっき教えられた男部屋という色気のない部屋に向かう。
12畳ほどの広さの部では、既に高木班長、山田さん、稲葉と灰野、それに類が持ってきた荷物を広げていた。
早速、俺も自分の荷物を持ってその仲間に加わる。

ゲートの見張りの当番表が配られた。見張りは、昼間は眷属隊。夜間はヴァンパイア捜査官で割り振られている。白神が来るとすれば夜間に襲撃される可能性が高い。夜間の見張りは3人体制で厳重に行われるようだ。
あれ?おかしい、、この当番表、、。

「あの~、高木班長。この当番表に俺の名前ないんですけど、、、。」

「それは、当然だろ本田君。守人の君は、常に万全でいてもらわなきゃならないんだから。寝ずの番なんかして、いざ敵と戦う時に眠くて戦えないなんてことになったら本末転倒だからな。」

「そうかもしれませんけど、、。」
そうかもしれないけど、申し訳ない気持ちと、少し寂しい気がする。

「お館様。お話があります!」
そう言ってゆずが部屋に飛び込んで来た。ゆずは何やらただならぬ気配を発している。
俺は他の人の邪魔にならないようにゆずを連れて寺の本堂へ向かった。

本堂に着いた途端、ゆずは本堂の冷たい床に頭をつけて土下座を始めた。
「どうした、ゆず。土下座なんかして。やめろよ。」
「お館様。申し訳ありません。何が起こったのか、全て結女から聞きました。白神剣護がこのような大それたことを、、。」

「ゆず。まず頭を上げろ。それから正座もやめ!そんな風にされたら、話ができないじゃん。」
そう言って俺は、ゆずの前に胡坐をかいて座った。
ゆずは俺にそう言われ、頭を上げて俺の正面に体育すわりで座る。

「いいか、ゆず。この世に白神剣護と言う男はいないんだよ。今回、この騒ぎを起こした男は自分の
事を白鬼と名乗ってる。自分でそう名乗ってるんだから、あいつは白鬼で決定だ!」

「でも、お館様。」
「でも、は無し!それに、お前には話してなかったんだけど、白鬼がなんでこんなバカな事をしでかしたかっていうと。それは、俺のばあちゃんとじいちゃんのせいなんだ。白鬼は、俺のばあちゃんの事が好きだったんだけど、俺のばあちゃんは、白鬼には目もくれずに、俺のじいちゃんの事が好きになっちゃったんだよ。それで、俺のばあちゃんにフラれた白鬼がヤケになって、「みんなを道連れにして死んでやる!」って今回の事件を起こしたってわけだ。」
嘘じゃない。簡単に言うとそう言うことだと俺は思っている。

「お館様、、それは、、。」
「本当の話だ。ゆず。だから、お前が気にすることは何もない。むしろ、こんなことにお前を巻き込んでしまって、申し訳ないと思っている。ごめんな、ゆず。」

「謝らないでください。お館様。ゆずはおやかたさまと一緒に戦えて幸せなんですから。」
ゆずの本心が俺の心に突き刺さった。俺はゆずを絶対に守る。そして、ゆずの幸せを最後まで見届けてやる。そう心に決めた。

「俺もゆずがいてくれて、本当に心強いよ。」
ゆずの顔に、不安や焦りはもうなかった。

「ゆず。ここ東門地区は危険になるかもしれないから、明日から一般のヴァンパイア市民はここを出て一時避難する予定になっているんだ。ゆずも家族や友達と今夜のうちに会ってきた方がいいかもな。明日から忙しくなるぞ。」

「お任せください、お館様。それでは、みんなにさよならを言ってきます。」
ゆずがそう言って本堂を出て行った。

ゆずが本堂を出て行ってすぐ結女さんがゆずを探しに来た。
俺はゆずとの会話を結女さんに伝え、ゆずが家族や友達に会いに行った事を伝える。
「わたし、ゆずちゃんに今回の事件の事を話してしまって、、、。そしたら、ゆずちゃん顔面蒼白になって走って行ってしまったから、心配になって探しに来たんです。」
結女さんはも俺の話を聞いて安心したようだ。

「結女さんも明日。避難するんですよね?」

「私ですか?私は避難しません。ここも人手が足りないし。ゆずちゃんの事も心配ですから。私はゆずちゃんのお母さんの眷属ですから、ここに残ります。」

彼女は芯の強い女性だ、一度こうと決めたら後へは引かないタイプだと思う。

「お手数おかけしますが、これからまたしばらくの間、よろしくお願いします。」
俺はそう言って頭を下げた。

「お任せください!」
そう言って結女さんは胸を軽くたたいた。
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