眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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白神剣護の野望 ④

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翌日、日の出からのゲート警護の担当は、稲葉と灰野だった。
彼らのセットした目覚まし時計の音で、俺と山田さんも目を覚ます。

稲葉は「体がすっかり夜型になっているから、日勤はつらい」と文句を言いながら部屋を出て行く。

この部屋は高木班長と類も一緒なので、昼間も陽が射さないように厳重に目張りがされている。
それで、外の状態が全く分からなかった。俺はトイレに行くついでに外の様子を覗きに行く。

まだ辺りは暗くトイレの窓から見ただけでは、今日の天気が良いのか悪いかわからなかった。

先日のミーティングで東門周囲に住むヴァンパイア市民の避難が決まり、その避難先に手をあげてくれたのは沢口牧師だった。ヴァンパイア政府と沢口牧師の教会は、白神の被害者である身寄りのないヴァンパイアの子供たちを預かるようになってから、緊密な付き合いをしていたらしく、今回の一件での避難先確保の相談をしたところ、快く引き受けてくれたらしい。

他にも、広い敷地のある赤目の家や、刑部家、ヴァンパイアポリスにも多くの避難者が身を寄せることが決まっている。

平助首相は、あのミーティングの後、すぐに日本政府に今回の危機についての会談の申し入れを行っているはずだ。今朝のニュースでその会談の結果。日本政府がどのような対応を取るのかがわかるだろう。現在の時刻は午前4時20分。もうすぐ夏の夜が明ける時刻だ。

「眠れないの?」
そう声を掛けて来たのはアヤメだった。

「いや、さっきまでぐっすり寝てたよ。朝から勤務するチームの目覚ましの音で起きたから、ついでにトイレに来たんだ。」

「そう、、、。守人に就任早々、とんでもないことになったわね。」

「そうだけど、白神の計画が実行される前にわかって良かったじゃん。」

「それもそうね。ついてるって言い方はおかしいけど、運は私たちの味方って気がするわ。それより、カオスに頼んでたアレ。受け取りどうしよう。私たち慌ててこっちに来ちゃったから、明後日の受け取りに八木山まで行けないわ。」

「ああああ、すっかり忘れてた。カオスの営業時間になったら電話してみるよ。」

「それがいいかもね。私はそろそろ寝るわ。イザと言う時に万全でいなくちゃ。一宇も寝れるときに寝ておきなさいよ。」

「わかった。そうするよ。おやすみ。」

「おやすみ、一宇。」

俺は、部屋に戻る。
部屋では、ゲートの監視から戻った高木班長と山田さんが、部屋に備え付けてあるテレビを見ていた。
「本田君。日本政府からの発表があったようだ。緊急速報で流れてるよ。」


俺も一緒にテレビを見る。
どのチャンネルも日本政府の発表に合わせて緊急特番が放送されている。

「皆さん、これは緊急放送です。本日、日本政府とヴァンパイア政府、両政府からの合同で緊急事態宣言が発動されました。発表によりますと仙台市〇▽◇×町にある〇〇〇寺の裏山に空いた洞窟をテロリストが狙っているということです。この洞窟の先は、魔界とつながっており、万が一テロリストに襲撃を受けた場合、中から魔物が大量に出てくる恐れがあります。現在、ヴァンパイアポリスがその洞窟の周囲を専門家と共に警護していますが、万が一の事態に備え、視聴者の皆さまは、不要不急の外出を控え、自宅で待機してください。また、一人暮らしや病気など、不安のある方のために避難所が設けられました。避難所の情報や詳しい情報をお知りになりたい方は、市役所や区役所にお電話するか、画面の下に出ているホットラインにお電話ください。繰り返します、、、。」

テレビ画面から緊迫した状況が伝わってくる。

「本日は、ヴァンパイアの歴史に詳しい、東北基督教大学の教授の内田正幸先生にお越しいただいております。にわかには、信じられない話ですね。内田先生、これは、どういう事なんでしょうか?」

「現在わかっているだけも、世界には魔界に繋がるゲートが100か所確認されています。ゲートはこの日本にも、宮城と岐阜の2か所にあります。」

「ヴァンパイとの共存が始まったとたんに、このゲート問題が起きましたよね。この二つには何か関係があるように思えるのですが。どうなんでしょう?」

「ヴァンパイアがゲートを作ったのか、ヴァンパイアのせいでゲートが開いたのかという意味でのご質問なら、答えはノーです。世界のゲートの周辺にはヴァンパイアが居住していない地域も多いですし、ゲートは地球上にもともと存在したという説が学会では有力視されています。日本政府はゲートの存在をヴァンパイアとの共存政策を進めてから知ったようです。世界のゲートについても、先ほど100か所と申し上げましたが、ゲートによるパニックを恐れた各国政府が、事実を正確に公表しているとは考えにくいので、実際にはもっと多くのゲートが存在している可能性があると思われます。」

「それでは、ヴァンパイアとゲートは全く関係ないということですか?」

「そう言われると、、、ちょっと違いますね。我々人間とは異なり、ヴァンパイアの民はゲートの存在を昔から知っていたようです。ゲートからたびたび出てくる魔物を退治する「守人」という仕事をする人が彼らの中にはいます。ですから、長い間。人間が魔物に襲われることなく安全に暮らしてこれたのは、ある意味ヴァンパイアのお陰なのかもしれません。」

「守人。ですか。今回、その守人と呼ばれる人たちは、ヴァンパイアポリスと共にテロリストの襲撃の事態の収拾にあたっているんですか?」

「守人と呼ばれる人たちとという言い方は正しくありません。守人の仕事をしているのは、たった一人だと聞いています。守人は世襲制で家族に受け継がれるそうです。今回は、ヴァンパイアポリスとその守人がゲートの警護に当たっているのでしょう。」

「日本政府も、ゲートの警護とテロリスト捕獲のために自衛隊の派遣を先ほど決めました。早ければ、今日の午後には自衛隊が現地に到着するとのことです。」

ニュースは繰り返し同じ内容を放送しているようだった。チャンネルを変えても大体似たような内容の放送がされている。

「自衛隊も派遣されるなんて、大ごとになって来たな。」
山田さんが言った。

「それはそうだろ、山田君。もし、ゲートが破壊されたら人間だって危ないんだから。自衛隊が派遣されるなら、昼の監視活動は彼らに任せてもいいかもしれないな。俺は少し寝るけど、自衛隊が到着したら教えてくれ。」
そう言って、高木さんが布団に潜り込んだ。

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