140 / 166
白神剣護の野望 ⑦
しおりを挟む
この前のミーティングの後、宗助所長はある仮説に基づいてヴァンパイア図書館に籠ってある種の本を読み続けたらしい。
「一宇君は、黄泉の国にまつわる伝承が世界各国にあるのをご存知ですか?」
宗助所長が俺に訊ねる。
「黄泉の国?日本だとイザナギが死んだイザナミを連れ戻しに行くあれですか?」
「そうそう、それですよ。他にも類似した話が、ギリシャ神話にもありますよね。オルフェウスの話です。オルフェウスが死んだ妻のエウリュディケを黄泉の世界に連れ戻しに行って失敗するって話。他にも似たような話が、神話や昔話として世界の各地に残っています。おかしいと思いませんか?世界的な交流のない時代に書かれた書物に同じような話が載ってるなんて。」
俺は、宗助所長が何を言いたいのか、さっぱり理解できなかった。
「すいません。俺、宗助所長が何を言いたのかわからないです。」
なので、正直に彼にそう言ってみた。
「はははは。それはそうですよ。今、この時点で一宇君にすべてを理解されたら、私が図書館に一晩も籠ったのは何だったんだってことになります。」
「こんな風に考えられませんか?ゲートが「黄泉の国」へ入り口だったらってね。それなら、世界中にゲートがあって、似たような話が伝承されていてもおかしくないとアタシは思うんですよ。まぁ、この話は大昔にある人から教えられた話を受け売りで言ってるだけなんですけど。」
「ある人?」
「白神剣護ですよ。」
「えっ、白神剣護から?」
「前に、私と平助の初恋の人が安芸さんだって話しましたよね。」
「はい、聞きました。」
「私と安芸さんが知り合いなら、私が白神を知っててもおかしくないでしょ。」
「それはそうですが。」
「それに、当時の白神剣護は仕事熱心な真面目な若者だったんですよ。歴史好きで、私や平助によくヴァンパイアの昔話や伝説を聞かせてくれました。彼は白神家に生まれてなかったら、歴史学者にでもなっていたんじゃないですかね。ある日、子どもだったアタシがゲートについて白神に聞いたら「この穴は黄泉の国に繋がっているんだよ。」って言った事があってね。その時、ちょうど家で飼っていた犬が死んだばっかりだったから、私と平助の二人で、あの洞窟に入って犬を連れ戻そうと考えたんですよ。」
「それで、どうなったんですか?」
「子どもだったアタシと平助は、洞窟に入ったとたん気分が悪くなってしまって、アタシたち二人を助けてくれたのも白神剣護でした。彼はアタシたちを洞窟から連れ出した後、二人にこんな話をしてくれたんです。「君たちの犬を黄泉の国から連れ戻したとしても、この世界でその犬は生きていくことは出来ないんだ」ってね。」
「それは、どういう事なんですか?」
「彼の説明によると。一度、黄泉の国に行った生き物は、現世で生きることは出来ないそうです。もしそれを望むなら、この世の中を死の世界にするしかないって。日本に住む生き物がみんな死に絶えて、日本自体が黄泉の国になれば、君たちと犬はまた一緒に暮らしていけるけど、君たちはそれを望むのかい?ってね。アタシも平助もすっかりその話にビビってしまって、二度と犬を取り戻そうなんて考えませんでしたよ。白神は、君たちが人生を全うしてその後にまた犬と再会できるっても言ってましたね。当時は、普通の優しいお兄ちゃんでしたから。」
「でも、自分は待てなかった。自分が寿命を全うして俺の祖母に再会するのを。そう言うことですか?」
「そうだとは言い切れませんが、アタシはそれが白神の望みだと思います。トキオの脳内情報で白神がトキオに何かを秘密にしていたって書いてあったでしょ。それを見た時、過去に白神が言っていたことを急に思い出したんですよ。アタシはね、勘だけは鋭いんです。図書館に行ってアタシは確信しましたよ、奴が、白神剣護が日本を黄泉の国と同化して、安芸さんを連れ戻すつもりだってね。だって、図書館に置いてある、歴史の本。特に黄泉の国やゲートについて書かれた本の閲覧記録の全てに”モリ アキト”の名前がありましたからね。それって、白神の使っている偽名でしたよね?しかも、閲覧記録にによれば、彼がそれらの本を読んだ時期は、安芸さんが亡くなった直後でした。彼はだいぶ前からこの事を計画していたようです。でも、ヴァンパイア戦争が始まり、人間と共存する社会が生まれ。世の中は色々変わって行ったのに、彼は一途にこの計画を考えていたんでしょう。」
「でも、そんな事。祖母は望んでいないと思います。」
「アタシだって、安芸さんがそんなことを望んでないのは知ってますよ。白神が周りが見えないくらいその妄想に取りつかれてるとしか思えません。」
「でも、ゲートから出てくる魔物にやられたら、白神の望んだ世界が来たって意味がないじゃないですか。」
「白神は、非常に頭の良い人間です。その辺は何か策を考えているのかもしれません。彼は自分と安芸さんだけの、二人だけの世界を作ろうとしている。そう考えて間違いないでしょう。」
途方もない話だった。でも、安芸を殺害した後の白神の顔を俺は見ている。彼の顔は絶望に歪み、その髪は白く変化した。あの時に彼が考えた事が「安芸を取り戻す」ことだったとしても全く不思議ではない。白神が自分の知識を使い、安芸を甦らせようとしているのは間違いないことに思われた。
この後、宗助所長は守人家と白神家に向かい、家に代々保管されている古文書を調べるつもりだと言った。
「それなら、宗助所長も杜人家に泊まったらいいじゃないですか。」
と俺が言うと、彼は笑いながら「あそこは、堅苦しくっていけません。」
と笑って言った。
「一宇君は、黄泉の国にまつわる伝承が世界各国にあるのをご存知ですか?」
宗助所長が俺に訊ねる。
「黄泉の国?日本だとイザナギが死んだイザナミを連れ戻しに行くあれですか?」
「そうそう、それですよ。他にも類似した話が、ギリシャ神話にもありますよね。オルフェウスの話です。オルフェウスが死んだ妻のエウリュディケを黄泉の世界に連れ戻しに行って失敗するって話。他にも似たような話が、神話や昔話として世界の各地に残っています。おかしいと思いませんか?世界的な交流のない時代に書かれた書物に同じような話が載ってるなんて。」
俺は、宗助所長が何を言いたいのか、さっぱり理解できなかった。
「すいません。俺、宗助所長が何を言いたのかわからないです。」
なので、正直に彼にそう言ってみた。
「はははは。それはそうですよ。今、この時点で一宇君にすべてを理解されたら、私が図書館に一晩も籠ったのは何だったんだってことになります。」
「こんな風に考えられませんか?ゲートが「黄泉の国」へ入り口だったらってね。それなら、世界中にゲートがあって、似たような話が伝承されていてもおかしくないとアタシは思うんですよ。まぁ、この話は大昔にある人から教えられた話を受け売りで言ってるだけなんですけど。」
「ある人?」
「白神剣護ですよ。」
「えっ、白神剣護から?」
「前に、私と平助の初恋の人が安芸さんだって話しましたよね。」
「はい、聞きました。」
「私と安芸さんが知り合いなら、私が白神を知っててもおかしくないでしょ。」
「それはそうですが。」
「それに、当時の白神剣護は仕事熱心な真面目な若者だったんですよ。歴史好きで、私や平助によくヴァンパイアの昔話や伝説を聞かせてくれました。彼は白神家に生まれてなかったら、歴史学者にでもなっていたんじゃないですかね。ある日、子どもだったアタシがゲートについて白神に聞いたら「この穴は黄泉の国に繋がっているんだよ。」って言った事があってね。その時、ちょうど家で飼っていた犬が死んだばっかりだったから、私と平助の二人で、あの洞窟に入って犬を連れ戻そうと考えたんですよ。」
「それで、どうなったんですか?」
「子どもだったアタシと平助は、洞窟に入ったとたん気分が悪くなってしまって、アタシたち二人を助けてくれたのも白神剣護でした。彼はアタシたちを洞窟から連れ出した後、二人にこんな話をしてくれたんです。「君たちの犬を黄泉の国から連れ戻したとしても、この世界でその犬は生きていくことは出来ないんだ」ってね。」
「それは、どういう事なんですか?」
「彼の説明によると。一度、黄泉の国に行った生き物は、現世で生きることは出来ないそうです。もしそれを望むなら、この世の中を死の世界にするしかないって。日本に住む生き物がみんな死に絶えて、日本自体が黄泉の国になれば、君たちと犬はまた一緒に暮らしていけるけど、君たちはそれを望むのかい?ってね。アタシも平助もすっかりその話にビビってしまって、二度と犬を取り戻そうなんて考えませんでしたよ。白神は、君たちが人生を全うしてその後にまた犬と再会できるっても言ってましたね。当時は、普通の優しいお兄ちゃんでしたから。」
「でも、自分は待てなかった。自分が寿命を全うして俺の祖母に再会するのを。そう言うことですか?」
「そうだとは言い切れませんが、アタシはそれが白神の望みだと思います。トキオの脳内情報で白神がトキオに何かを秘密にしていたって書いてあったでしょ。それを見た時、過去に白神が言っていたことを急に思い出したんですよ。アタシはね、勘だけは鋭いんです。図書館に行ってアタシは確信しましたよ、奴が、白神剣護が日本を黄泉の国と同化して、安芸さんを連れ戻すつもりだってね。だって、図書館に置いてある、歴史の本。特に黄泉の国やゲートについて書かれた本の閲覧記録の全てに”モリ アキト”の名前がありましたからね。それって、白神の使っている偽名でしたよね?しかも、閲覧記録にによれば、彼がそれらの本を読んだ時期は、安芸さんが亡くなった直後でした。彼はだいぶ前からこの事を計画していたようです。でも、ヴァンパイア戦争が始まり、人間と共存する社会が生まれ。世の中は色々変わって行ったのに、彼は一途にこの計画を考えていたんでしょう。」
「でも、そんな事。祖母は望んでいないと思います。」
「アタシだって、安芸さんがそんなことを望んでないのは知ってますよ。白神が周りが見えないくらいその妄想に取りつかれてるとしか思えません。」
「でも、ゲートから出てくる魔物にやられたら、白神の望んだ世界が来たって意味がないじゃないですか。」
「白神は、非常に頭の良い人間です。その辺は何か策を考えているのかもしれません。彼は自分と安芸さんだけの、二人だけの世界を作ろうとしている。そう考えて間違いないでしょう。」
途方もない話だった。でも、安芸を殺害した後の白神の顔を俺は見ている。彼の顔は絶望に歪み、その髪は白く変化した。あの時に彼が考えた事が「安芸を取り戻す」ことだったとしても全く不思議ではない。白神が自分の知識を使い、安芸を甦らせようとしているのは間違いないことに思われた。
この後、宗助所長は守人家と白神家に向かい、家に代々保管されている古文書を調べるつもりだと言った。
「それなら、宗助所長も杜人家に泊まったらいいじゃないですか。」
と俺が言うと、彼は笑いながら「あそこは、堅苦しくっていけません。」
と笑って言った。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる