勇者の弟が魔王の配下に恋をした

しょうこ

文字の大きさ
13 / 32

再会3

しおりを挟む
「そんなに頷いてどうしたの? 全然名前を呼んでくれないから来ちゃった」
 後ろから包み込むように抱き締められてノアの身体が固まる。
「え?」
「ノアは俺に会いたくなかった?」
 ぎゅうと抱え込まれながら頭に馴染みのある頬が押し付けられ、予想だにしない展開に頭が真っ白になる。え、自分はいつの間に名前を呼んでしまったのだろうか。会いたいがゆえに無意識に言ってしまったのだろうか。イーサンが帰って来てからにしようと考えていたはずなのになんでっ!? とノアは突然のディランの登場に混乱した。
「ノア?」
 大丈夫? と頭上から覗き込む様にされるとディランの整った顔が目前にきて「ひあっ!?」と驚きで大きな声を出してしまった。
「ほ、ほほ、ほんものっ!?」
 ごめんっ、ボク無意識で名前呼んじゃったっ!? と慌てるノアにディランは一瞬驚いた表情を浮かべてから笑い出した。
「あはは、ちがうよノア」
 俺が会いたくて来たんだよとノアを抱き締めたまま、「一度顔を見たら我慢できなくなっちゃった」と柔らかい声で囁かれてノアの頬が赤く染まる。ディランの時折見せる甘ったるい声や態度にノアはどういう反応を返してよいのかわからない。ただ、顔を見られなくてよかったと少しだけほっとしていると、「耳が真っ赤だよ」なんて耳元で囁かれた。
「っ!?」
「だぁめ」
 ディランの視線から隠す様に両耳を押さえるもあっさりと手をとられてしまう。
「顔も見たいなぁ」
 喜色を含んだ声にノアは「絶対にダメっ!」と下を向いて抵抗するも、両手を押さえていた手が解放されたかと思うとくるり、軽々と身体を反転させられてディランと向き合う形になる。
「え?」
「残念でした」
 ノアは一瞬のことにディランを見上げると、口許を隠しながらこちらを見下ろして笑っている姿が映る。
「……い、いじわるだっ!!」
「いや、ほんと……」
 それじゃあ逆効果だよと、顔を真っ赤にして怒りを露にして「見ないでって言ったのにっ!」と訴えているノアにディランは笑いが止まらない。
「ごめんごめん」
 でも見たかったからと悪いなんて一切思っていない態度でノアの頭を撫でるのに誤魔化されないぞとディランを睨み付ける。
「いや、そんな顔で睨まれても」
 ディランは笑いながら我慢できなくなっちゃうからダメだよと、よくわからないことを言ってノアを宥める。
「じゃあ我慢しなきゃいいじゃんっ」
 笑いたければ思いっきり笑えばいいだろうと、売り言葉に買い言葉をして眉をつり上げるノアにディランは困ったように笑いながら「びっくりして泣いちゃうかもしれないからやめとくね」とまたしてもよくわからないことを言う。
「なにそれ……」
 誤魔化されないぞと睨み続けてみてもディランはただ笑うだけで段々と毒気が抜かれていく。
「……もういいや」
 怒っているのが馬鹿らしくなってきたノアにディランもにっこりと笑った。
「ノアはここが好きなの?」
 この間もこの場所にいたよねと聞かれて頷いた。
「最近村にいてもあんまり楽しくないからさ……」
「そうなの?」
「うん……」
 ここ最近の報せを思い出してノアの表情が暗くなる。ウーラノス国、というよりは魔物に襲われたという話しばかりが上がってくる状況にノアは馴染めなかった。
「あ、そうだっ!」
「ん?」
 せっかくディランに会えたのだ、イーサンが一時とはいえ帰ってくるのだと伝えるとディランはよかったねとノアの頭を優しく撫でた。
「お兄さん帰ってくるのずっと待ってたもんね」
「うんっ」
「お兄さんもノアに会えるの楽しみなんじゃないかな」
「そうだと嬉しいなぁ」
 嬉しさを隠すことなく話すノアに「こんな弟がいたら可愛くて仕方無いだろうね」と言うのに照れ臭そうに笑って返した。
「そうだ、ノアが名前呼んでくれるのずっと待ってたのにどうして呼んでくれなかったの?」
 待ってたんだよと言うディランにノアはぱちりと大きく瞬きをした。
「え、だって……」
 ノアはディランが忙しそうなこと、数日前に会ったばかりですぐに呼んでしまっては迷惑ではないかと考えていたことを話すとディランは眉を寄せてノアの額を小突いた。
「会いたくなったら呼んでって言ったよ?」
 遠慮なんてしないでと、こちらのことを考えてくれるノアの優しさも嬉しいけどさぁ……とこぼすディランにノアはごめんと謝る。
「いや、謝って欲しいわけじゃないよ?」
「でも……」
「謝らないでよ。それよりも今度から会いたくなったら我慢しないで呼んで」
「……うん」
「ほんとに呼べる?」
「たぶん……」
「多分ねぇ……」
 ディランは顎を擦りながらノアを見下ろす。
「俺のことを考えてくれるのは勿論嬉しいよ。だけどそれよりもノアに会いたいって名前を呼んでもらった方が何倍も嬉しいし……」
 ディランは少しだけ屈むと内緒話をするようにノアの耳許に唇を寄せ、「おじいちゃんの面倒事から抜け出せるしね」と言うと悪戯っ子のような笑みでノアを見た。
「俺を助けると思っていっぱい呼んでよ」
 予想外のディランの言葉にノアは思わず吹き出してしまう。
「いいの?」
「勿論。一日にニ回でも三回でも」
「それは流石にないかなぁ」
 くすくすと笑うノアにディランは「ちゃんと呼んでね」と念を押すと、ノアは少し躊躇いながらも口を開いた。
「…じゃあ……明日とか……」
 呼んでもいいの……? と小さな声で窺うとディランはにっこり笑って「待ってるね」とノアの頬にキスをして、「じゃあまた明日ね」とノアの反応を待たずに鳥の様に一瞬で姿を消して行く。
「へ?」
 残されたノアはキスをされた頬を押さえたまま、呆然とそこに立ち尽くした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...