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「そばにいることしかできなくても」
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痛みを受けた本人じゃないと本当の痛みは解らない。
だけど、それでも、そばにいて寄り添うことだけはできるから。
優馬と恋人同士になって半年が経った頃、優馬が1人暮らしをしているマンションに仕事帰りの平日の夜に訪れた時に部屋には入れてくれたけど、優馬は今まで私が見たこともないような傷ついた顔をしていた。
私と優馬は同じ歳で今年2人とも25歳になった。
お互いに一般企業に勤めている社会人で、共通の知人を通じて知り合い、意気投合してすぐに恋人同士になった。
そして、こんな風に私は時々、平日の夜も仕事帰りに優馬のマンションを訪れたりする。
勿論、連絡は入れてからだけど。
また、今日もいつものようにLINEで行くねと伝えて、その時のやり取りでは優馬は全然、普通だったから、今、優馬を見て、驚いてしまった。
「何かあったの?」
だから私は部屋に入るなり思わず優馬にそう聞いた。
優馬はリビングルームにある黒い長いソファーに座っていたから私も優馬の隣に座る。
そして、優馬のことをじっと見た、
すると優馬は私の方を少し苦いような表情で見て、
「ああ、ちょっと今日、仕事の取引先ででトラブってさ。そこの取引先の社長とは前から合わなかったんだけど、今日はいつにも増して理不尽な言いようにさすがにキレてさ。でも、会社にとってはまあまあ利益の出る取引先だから、上司に冷静に対処しろって怒られてさ」
優馬は普段は穏やかな性格だ。
だから、本当に取引先の社長が相当、理不尽なことを言ったんだと思う。
だけど、日本の多くの企業では理不尽なことを言われたり、理不尽なことが起きたとしても、どうしようもできずに受け止めなければならない時が多々ある。
私は優馬みたいに営業の仕事ではなくて、事務の仕事をしているけれど、それでもそういうことはあるから、その気持ちは少しくらいは解るつもり。
でも、きっと優馬の本当の痛みは解らない。
だから―。
「ね、優馬、これからもそういったことが生きてる限りはまた何回もあるかもしれないよ。でもね、そんな時は今もこれからも優馬が私をそばに置いてくれるなら、私がそばにいて、やるせない気持ちとか、そういうの全部聞くから、もうそんな風に1人で傷ついた顔しないで」
「由衣香」
「そりゃ、そばにいて優馬の気持ちを聞いてあげることくらいしかできないけど」
私がそう言うと優馬は私をじっと見た後、今日、私に会ってから初めて笑顔になって、
「ありがとう、由衣香。俺、由衣香が今かけてくれた言葉で凄く元気出たよ。それから、そばにいて俺の気持ちを聞くことしかできないって言ってたけど、俺は由衣香のその気持ちだけで十分だし、俺だって由衣香にずっとそばにいてほしいから」
そう言い私を強く抱きしめた。
そして、その後はもういつもの優馬に戻り、私達はいつものように穏やかでとても幸せな時間を過ごした。
でも、優馬、本当にこれからも優馬が望んでくれるなら、ずっと優馬のそばにいて、優馬の気持ち、全部、受け止めるからね。
END
だけど、それでも、そばにいて寄り添うことだけはできるから。
優馬と恋人同士になって半年が経った頃、優馬が1人暮らしをしているマンションに仕事帰りの平日の夜に訪れた時に部屋には入れてくれたけど、優馬は今まで私が見たこともないような傷ついた顔をしていた。
私と優馬は同じ歳で今年2人とも25歳になった。
お互いに一般企業に勤めている社会人で、共通の知人を通じて知り合い、意気投合してすぐに恋人同士になった。
そして、こんな風に私は時々、平日の夜も仕事帰りに優馬のマンションを訪れたりする。
勿論、連絡は入れてからだけど。
また、今日もいつものようにLINEで行くねと伝えて、その時のやり取りでは優馬は全然、普通だったから、今、優馬を見て、驚いてしまった。
「何かあったの?」
だから私は部屋に入るなり思わず優馬にそう聞いた。
優馬はリビングルームにある黒い長いソファーに座っていたから私も優馬の隣に座る。
そして、優馬のことをじっと見た、
すると優馬は私の方を少し苦いような表情で見て、
「ああ、ちょっと今日、仕事の取引先ででトラブってさ。そこの取引先の社長とは前から合わなかったんだけど、今日はいつにも増して理不尽な言いようにさすがにキレてさ。でも、会社にとってはまあまあ利益の出る取引先だから、上司に冷静に対処しろって怒られてさ」
優馬は普段は穏やかな性格だ。
だから、本当に取引先の社長が相当、理不尽なことを言ったんだと思う。
だけど、日本の多くの企業では理不尽なことを言われたり、理不尽なことが起きたとしても、どうしようもできずに受け止めなければならない時が多々ある。
私は優馬みたいに営業の仕事ではなくて、事務の仕事をしているけれど、それでもそういうことはあるから、その気持ちは少しくらいは解るつもり。
でも、きっと優馬の本当の痛みは解らない。
だから―。
「ね、優馬、これからもそういったことが生きてる限りはまた何回もあるかもしれないよ。でもね、そんな時は今もこれからも優馬が私をそばに置いてくれるなら、私がそばにいて、やるせない気持ちとか、そういうの全部聞くから、もうそんな風に1人で傷ついた顔しないで」
「由衣香」
「そりゃ、そばにいて優馬の気持ちを聞いてあげることくらいしかできないけど」
私がそう言うと優馬は私をじっと見た後、今日、私に会ってから初めて笑顔になって、
「ありがとう、由衣香。俺、由衣香が今かけてくれた言葉で凄く元気出たよ。それから、そばにいて俺の気持ちを聞くことしかできないって言ってたけど、俺は由衣香のその気持ちだけで十分だし、俺だって由衣香にずっとそばにいてほしいから」
そう言い私を強く抱きしめた。
そして、その後はもういつもの優馬に戻り、私達はいつものように穏やかでとても幸せな時間を過ごした。
でも、優馬、本当にこれからも優馬が望んでくれるなら、ずっと優馬のそばにいて、優馬の気持ち、全部、受け止めるからね。
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