短い恋のお話

愛理

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「君の全てが愛しくて」

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    愛って、きっと、そういうこと。

「たっくん、この人参のグラッセあげる」
 そう言い、俺の彼女の杏は俺の分のハンバーグとポテトと人参のグラッセが乗った皿に杏の分の皿に乗っていた人参のグラッセを2つ乗せてきた。
 今、俺と杏は俺が1人暮らしをしているマンションのリビングルームにあるダイニングテーブルで向かい合わせに座って夕食をとっていた。
 この夕食は杏がつくってくれたものだった。
「相変わらず、人参が嫌いなんだな。じゃあ何で人参のグラッセなんかつくったんだよ」
 俺がそう言うと杏は少しだけ頬をぷくっと膨らませて、
「だって、たっくんは人参好きだし」
 そう言った。
「まあ、そうだけど」
「だから、つくったの。で、私の分はたっくんに食べてもらえばいいかなあって」
 子供っぽい感じの言い分に俺は笑ってしまった。
 しかも、それなら最初から俺の皿に乗せておけばいいのにと思うけど、そこはあえて言わなかった。
「あ、子供っぽい奴とか思ったでしょ!」
「うん」
 俺がすぐに肯定の返事をすると杏は今度はもの凄く頬をぷうっと膨らませた。
「どーせ、たっくんからしたら、5つも子供ですよーだ」
 とても先月、24歳になったばかりとは思えない言い方に俺はまた笑った。
 まあ、社会人だとしても、杏は俺からしたら、まだ経験歴が浅いからな。
 でも、会社では営業マンのサポートを失敗しながらも、よく頑張ってると思うけど。
「うん、でも、俺のことを思ってくれて、つくってくれたことと、俺、今じゃ杏の人参嫌いなとことかも含めて好きだからさ」
 そう。杏とつきあって、最初は何それ? と思っていたことも、つきあって、1年過ぎた頃から、何だか全部が愛しくなった。
 だから、今、杏のことを誰かに話したら、恐らく、全員がそれは惚気けだねと言われるだろうけど、今の俺は杏の全部が可愛くて、愛しくて、仕方がないんだ。
 俺はそう思うと皿に杏が愛しくなってきて、食事中にも関わらず席を立って、杏の椅子の後ろまでいき、杏を後ろからおもいっきり抱きしめてしまった。
「なあ、杏、今では杏の全てが愛しいよ」
 思わず想いが溢れてそう言ってしまった後、杏は一瞬、大きく肩で息をした後、俺の両手に自分の手を重ねて、
「それは私もだよ。たっくん」
 そう甘く呟いた。
                                                                         END
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