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第15話「見返りのない愛」
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しずくの所へお見舞いに行ってからの悟は女遊びも酒もやめ、まるで別人のように仕事を頑張っていた。
それはしずくに対しての自分が勝手にだけど抱いていた希望の光が取り戻されようとしているからかもしれない。
だけど、それでもまだ悟はしずくの手をもう一度取ることが出来ない。
しずくはあんなに沢山の愛を教えてくれたのに。
例えそれが最初はしずくに大切な人がいたから、自分の所へ辿り着いたのだとしても。
悟のファンのことさえ、あんな風に赦してしまえるしずく。
一体、しずくの大切だった彼はどんな風にしずくに愛情を注いできたのだろう。
実の父から暴力を振るわれていた悲しい過去を持つというのに。
そして、悟はもう、しずくが自分のことを亡くしてしまった彼の代わりにはしていなかったということも解っていた。
なのに、しずくの手を取れないのは自分に自信がないからだった。
人一倍、真実の愛を求めていたくせに、その真実の愛を与える術を自分は持たないから。
また、真実の愛を受けとることにも不安があるから。
だから、悟は怖くて、しずくのその手をもう一度、取ることが出来ないでいた。
それから、1ヶ月が過ぎた。
久し振りに仕事が早く終わった悟は久し振りに誘いをかけてきた高校生の時からの友人の内田健人に会った。
今、二人は静かで洒落た雰囲気がBARにいた。
カウンターに二人並んで座っていた。
「久し振りだな。俺はいつもお前をTVで観てるけどさ」
健人が言った。
悟と健人は高校1年生の時からの付き合いで、今もこうして、たまに、お互いに誘い合って会っている。
健人は高校生の時はやんちゃな感じだったけれど、今はすっかり大人の男性の雰囲気を醸し出している。
また、容姿割も整った顔立ちをしているから、高校生の時も、今も女性には人気があった。
「ああ。そうだな。何か変わったことあった?」
悟はカクテルを片手に聞いた。
「……うん。恋してるかな」
健人は何となく切なさを感じるような声で言った。
悟はそれに気付く。
ちなみに健人は大学生の時に彼女がいたが、卒業してからは疎遠になり、それから彼女ができたという話を悟は耳にしていなかった。
「何、辛い恋?」
健人の切ない声から、悟はそんな言葉を返した。
「……辛いというよりは切ないかな。だって、その人は絶対に俺に振り向いてくれないし。もうすぐ二度と手の届かない人になってしまうから」
「何で?」
「結婚するんだよ。その人。1ヶ月後に」
「……そうか」
「同じ会社の人でさ。俺より1つ年上なんだけど、入社当時からよく俺の面倒を見てくれて。気がついたら好きになってた。だけど、その想いに自分が気ついた時には、その人には既に彼氏がいたんだ。それでも俺は好きという想いを消せないでいた。だから、せめてその人が幸せでいてくれるように傍にいて何か助けられることがあるなら、そうしようって、そう思った」
「……他に好きな奴、見つけられなかったのかよ」
「……うん。何度か違う人を見ようともしてみたけど駄目だった。毎日、傍にいるしさ。でも、それも、彼女が結婚するまでだよ。彼女、結婚退職するから。そしたら、もう会えないし、違う人を見ることができると思う……だけど、俺、解ったんだ」
「何を?」
「こういう想いを真実の愛って呼ぶんだなって」
「………………」
「……例え自分に何も返ってこなくてもいい。だけど、愛してる人の幸せを願って、何かを与えたいって思うことをさ」
「………………」
悟は健人の想いが痛い程、よく伝わってきた。
もしかすると、しずくと出会う前の悟なら、今の健人の想いを理解することは出来なかったかもしれない。
「そっか。お前も色々大変なんだな」
悟は心の底からそう言った。
「まあな。でも、自分で選んだことだし、純愛ってものを知れて良かったと思うよ。だから、今度、運良く両思いになれた彼女には精一杯の愛情を素直に注げると思う」
「………………」
愛を与えたところで、その愛が例え返ってこないとしても健人はいいのだと言う。
しずくだってそうだ。
悟は思う。
やはり真実の愛とはそういうものなのだろうと。
それならば、やはり今の自分ではその愛を心の底から欲しながらも、手には入れられないと思う。
少なくともしずくと今のままの状態では。
だから、悟は決心した。
「健人」
「え?」
「ありがとう」
「え?」
「お前のおかげで大事な人を失わずに済みそうだよ」
悟はそう言った後、健人が今まで見たこともないような満面な笑みを零した。
それはしずくに対しての自分が勝手にだけど抱いていた希望の光が取り戻されようとしているからかもしれない。
だけど、それでもまだ悟はしずくの手をもう一度取ることが出来ない。
しずくはあんなに沢山の愛を教えてくれたのに。
例えそれが最初はしずくに大切な人がいたから、自分の所へ辿り着いたのだとしても。
悟のファンのことさえ、あんな風に赦してしまえるしずく。
一体、しずくの大切だった彼はどんな風にしずくに愛情を注いできたのだろう。
実の父から暴力を振るわれていた悲しい過去を持つというのに。
そして、悟はもう、しずくが自分のことを亡くしてしまった彼の代わりにはしていなかったということも解っていた。
なのに、しずくの手を取れないのは自分に自信がないからだった。
人一倍、真実の愛を求めていたくせに、その真実の愛を与える術を自分は持たないから。
また、真実の愛を受けとることにも不安があるから。
だから、悟は怖くて、しずくのその手をもう一度、取ることが出来ないでいた。
それから、1ヶ月が過ぎた。
久し振りに仕事が早く終わった悟は久し振りに誘いをかけてきた高校生の時からの友人の内田健人に会った。
今、二人は静かで洒落た雰囲気がBARにいた。
カウンターに二人並んで座っていた。
「久し振りだな。俺はいつもお前をTVで観てるけどさ」
健人が言った。
悟と健人は高校1年生の時からの付き合いで、今もこうして、たまに、お互いに誘い合って会っている。
健人は高校生の時はやんちゃな感じだったけれど、今はすっかり大人の男性の雰囲気を醸し出している。
また、容姿割も整った顔立ちをしているから、高校生の時も、今も女性には人気があった。
「ああ。そうだな。何か変わったことあった?」
悟はカクテルを片手に聞いた。
「……うん。恋してるかな」
健人は何となく切なさを感じるような声で言った。
悟はそれに気付く。
ちなみに健人は大学生の時に彼女がいたが、卒業してからは疎遠になり、それから彼女ができたという話を悟は耳にしていなかった。
「何、辛い恋?」
健人の切ない声から、悟はそんな言葉を返した。
「……辛いというよりは切ないかな。だって、その人は絶対に俺に振り向いてくれないし。もうすぐ二度と手の届かない人になってしまうから」
「何で?」
「結婚するんだよ。その人。1ヶ月後に」
「……そうか」
「同じ会社の人でさ。俺より1つ年上なんだけど、入社当時からよく俺の面倒を見てくれて。気がついたら好きになってた。だけど、その想いに自分が気ついた時には、その人には既に彼氏がいたんだ。それでも俺は好きという想いを消せないでいた。だから、せめてその人が幸せでいてくれるように傍にいて何か助けられることがあるなら、そうしようって、そう思った」
「……他に好きな奴、見つけられなかったのかよ」
「……うん。何度か違う人を見ようともしてみたけど駄目だった。毎日、傍にいるしさ。でも、それも、彼女が結婚するまでだよ。彼女、結婚退職するから。そしたら、もう会えないし、違う人を見ることができると思う……だけど、俺、解ったんだ」
「何を?」
「こういう想いを真実の愛って呼ぶんだなって」
「………………」
「……例え自分に何も返ってこなくてもいい。だけど、愛してる人の幸せを願って、何かを与えたいって思うことをさ」
「………………」
悟は健人の想いが痛い程、よく伝わってきた。
もしかすると、しずくと出会う前の悟なら、今の健人の想いを理解することは出来なかったかもしれない。
「そっか。お前も色々大変なんだな」
悟は心の底からそう言った。
「まあな。でも、自分で選んだことだし、純愛ってものを知れて良かったと思うよ。だから、今度、運良く両思いになれた彼女には精一杯の愛情を素直に注げると思う」
「………………」
愛を与えたところで、その愛が例え返ってこないとしても健人はいいのだと言う。
しずくだってそうだ。
悟は思う。
やはり真実の愛とはそういうものなのだろうと。
それならば、やはり今の自分ではその愛を心の底から欲しながらも、手には入れられないと思う。
少なくともしずくと今のままの状態では。
だから、悟は決心した。
「健人」
「え?」
「ありがとう」
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悟はそう言った後、健人が今まで見たこともないような満面な笑みを零した。
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