涙の跡

あおなゆみ

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Episode9

写真

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 その日、私は吉岡さんの家で夜ご飯を食べる事になっていた。
 吉岡さんはお客さんではあるけれど、とても話しやすく、一緒に買い物に行ったり、映画館にも行ったりするようになっていた。
 仕事帰りにケーキを買って吉岡さんの家に行き、一緒に鍋をした。
吉岡さんはいつも、私の話を聞きたいと言ってくれる。
今日のテーマは恋愛だった。
私は中学の頃の河村くんの話をしたり、憧れのシチュエーションの話をした。

「水族館にデートが一番の憧れです。イルカのショーを見たり」

「そういうのが好きなのね。よくある王道パターンね。私はおじいちゃんと行ってみたかったのは、映画館よ。おじいちゃん、じっとしていられない人でね。読書もしなかったし、常に体を動かしているような人だった」

憧れや理想の話になった時、吉岡さんは必ず、旦那さんとの憧れや理想を語る。
そんな吉岡さんの表情はとても幸せそうだった。

「あ、そうだ依子ちゃん。野島さんが撮った写真見る?新聞の切り抜きだけど持ってるの」

と隣の部屋の棚に探しにいった。
野島さんの写真。
前から気にはなっていた。
一度、調べようと思ったけれど、それはなんとなく違う気がしてやめていた。

「あったあった。これ、なんか凄い賞を撮ったのよ」

渡された写真には、桜の木が大きく写っていた。後ろに少しだけ夕焼けが見える。
よくある桜の写真ではあるけれど、色合いが他とは違い、とても綺麗だった。

「新人賞だったはずだけど、おじいちゃんが切り抜いたから、文字の部分がなくて。”写真を見れば分かるだろ”って言うのよ。でも結局、歳をとると忘れちゃって...本当に綺麗ね...」

薄いピンクとオレンジに少しの水色。
心が浄化されるような美しさだった。

「彼が学生の頃、あの映画館で何度か小さな写真展を開いていたの。おじいちゃんと一緒に行ったのよ。入り口で緊張した顔で野島さんが立っていて本当に可愛かった。写真が素晴らしくて、風景がメインなんだけど、たまに人の写真もあったわよ。この桜の写真が大きく壁に貼り出されていて、凄かった」

吉岡さんの話を聞きながら、その写真展を想像してみた。
学生時代の野島さん。
大きな桜の木の写真。
吉岡さんと旦那さんの笑顔。

「素敵だったでしょうね。行きたかった...」

「前は常に色々な展示をしてたんだけどね。今は貸し出しスペースになってて、たまには絵画展とかやってるけど...野島さんの写真展は全然しないの」

 カメラを側に置き、遠くを眺めていた野島さんを思い出す。
そして、涙の跡も。
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