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Episode10
欲しい未来
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野島さんがしばらく映画館を休むらしい。
代わりに高校生と大学生の男の子が、一生懸命働いていた。
キラキラしていて、とても楽しそうだった。
だけど、私は寂しさを感じた。
その日上映された悲しい映画がさらに私の寂しさを増幅させた。
野島さんが休んでいる理由を吉岡さんに聞いたけれど、分からないという事だった。
私は映画の帰り、吉岡さんと歩いていた。
すると突然吉岡さんが
「タップダンス踊ったんだってね」
と言ってきた。
何の話か分からず吉岡さんの方を見ると、吉岡さんは満面の笑みで
「の・じ・ま・さ・ん」
と上手ではないウィンクをしてきた。
見られていたのかと思う。
「あそこに来るのは噂大好きなおじいさん、おばあさんだからね。誰が見たかは分からないけど、野島さんと依子ちゃんが踊ってたって聞いたから」
少し沈黙の時間が流れてから、
「ちなみに私は踊ってませんけどね」
と一応、訂正した。
「あれま。やっぱり噂には嘘が紛れ込むのね」
吉岡さんは少し笑ってから、真剣な表情になった。
「私は野島さんがどこに行ったか、何にも知らないし、ただ依子ちゃんの笑顔が好きだから言うけど...初めて依子ちゃんを見た時と、最近の依子ちゃんは全然違うわよ。とっても良い意味で。心の持ちよう、素直な気持ち。これが大事。でも、今...」
「もしかして今の私...」
「凄く寂しそう。もう隠しきれないって感じね。野島さんへの気持ちが。大丈夫。誰にも言わないわよ。噂好きの私だけれど、聞くのが専門だから」
吉岡んは私の肩をさすった。
「若いっていいわね。年寄りによく言われると思うけれど、本当にそうよ。何でも出来る。私達はしたいと思っても出来ない事ばかり。恐ろしいほどに年を取るのは早いのよ。お節介は止そうと思うけれど、これは大事な事かなと思って。これからも何度も言っちゃうかもしれない。ごめんね」
その後、吉岡さんの家でまた鍋をした。
温かい空間に心が安らいだ。
帰り際に、玄関までお見送りに来てくれた吉岡さんが
「またお節介言うけれど、素直に生きてみなさい。ほら、映画好きでしょ。映画の中に入ったと思って。現実逃避じゃなく、良いイメージ作り。現実に落とし込むの。いい?」
と頭を撫でてくれた。
温かい手だった。
吉岡さんには私の心がお見通しだ。
今まで辛い事は沢山あった。
でも、それは誰にでも起こる事でもあった。
悲しみを抱かない人はいない。
どうしても気分が落ちてゆき、夢や理想を捨ててしまいたくなる事もあった。
行動できず、自分の小さな世界だけで生きていた。
でも映画を観たり、日常の些細な事でまた夢を抱いてしまう。
なんて単純で複雑なんだろう。
ひとまず、吉岡さんのアドバイス通りにしようと思った。
そうしたいと心から思った。
映画の中に入ってみる。
風の音も遠くに響く車の音も、小さな足音もすれ違った女性のヒールの足音も。
リュックが歩く度に体に当たる音、木々の葉っぱが擦れる音。
全てが愛しく思えてくる。
私だけの映画。
世界。
一人きりの世界。
そこから二人だけの世界に行けるだろうか。
そしてもっと沢山の人との世界に行きたい。
そう簡単にうまくいかないと思うけれど、自分の苦手な事など見えないほどただ見つめていた。
欲しい未来を。
代わりに高校生と大学生の男の子が、一生懸命働いていた。
キラキラしていて、とても楽しそうだった。
だけど、私は寂しさを感じた。
その日上映された悲しい映画がさらに私の寂しさを増幅させた。
野島さんが休んでいる理由を吉岡さんに聞いたけれど、分からないという事だった。
私は映画の帰り、吉岡さんと歩いていた。
すると突然吉岡さんが
「タップダンス踊ったんだってね」
と言ってきた。
何の話か分からず吉岡さんの方を見ると、吉岡さんは満面の笑みで
「の・じ・ま・さ・ん」
と上手ではないウィンクをしてきた。
見られていたのかと思う。
「あそこに来るのは噂大好きなおじいさん、おばあさんだからね。誰が見たかは分からないけど、野島さんと依子ちゃんが踊ってたって聞いたから」
少し沈黙の時間が流れてから、
「ちなみに私は踊ってませんけどね」
と一応、訂正した。
「あれま。やっぱり噂には嘘が紛れ込むのね」
吉岡さんは少し笑ってから、真剣な表情になった。
「私は野島さんがどこに行ったか、何にも知らないし、ただ依子ちゃんの笑顔が好きだから言うけど...初めて依子ちゃんを見た時と、最近の依子ちゃんは全然違うわよ。とっても良い意味で。心の持ちよう、素直な気持ち。これが大事。でも、今...」
「もしかして今の私...」
「凄く寂しそう。もう隠しきれないって感じね。野島さんへの気持ちが。大丈夫。誰にも言わないわよ。噂好きの私だけれど、聞くのが専門だから」
吉岡んは私の肩をさすった。
「若いっていいわね。年寄りによく言われると思うけれど、本当にそうよ。何でも出来る。私達はしたいと思っても出来ない事ばかり。恐ろしいほどに年を取るのは早いのよ。お節介は止そうと思うけれど、これは大事な事かなと思って。これからも何度も言っちゃうかもしれない。ごめんね」
その後、吉岡さんの家でまた鍋をした。
温かい空間に心が安らいだ。
帰り際に、玄関までお見送りに来てくれた吉岡さんが
「またお節介言うけれど、素直に生きてみなさい。ほら、映画好きでしょ。映画の中に入ったと思って。現実逃避じゃなく、良いイメージ作り。現実に落とし込むの。いい?」
と頭を撫でてくれた。
温かい手だった。
吉岡さんには私の心がお見通しだ。
今まで辛い事は沢山あった。
でも、それは誰にでも起こる事でもあった。
悲しみを抱かない人はいない。
どうしても気分が落ちてゆき、夢や理想を捨ててしまいたくなる事もあった。
行動できず、自分の小さな世界だけで生きていた。
でも映画を観たり、日常の些細な事でまた夢を抱いてしまう。
なんて単純で複雑なんだろう。
ひとまず、吉岡さんのアドバイス通りにしようと思った。
そうしたいと心から思った。
映画の中に入ってみる。
風の音も遠くに響く車の音も、小さな足音もすれ違った女性のヒールの足音も。
リュックが歩く度に体に当たる音、木々の葉っぱが擦れる音。
全てが愛しく思えてくる。
私だけの映画。
世界。
一人きりの世界。
そこから二人だけの世界に行けるだろうか。
そしてもっと沢山の人との世界に行きたい。
そう簡単にうまくいかないと思うけれど、自分の苦手な事など見えないほどただ見つめていた。
欲しい未来を。
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