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温度や土以外にも植物には必要
しおりを挟むエルフの集落はヘルサルから離れているため、こちらから連絡をするだけでも結構日数がかかる。
けど、フィリーナからの手紙を受け取った集落のエルフ達……おそらくエヴァルトさんが、すぐにスイカを作っている村に連絡を取り合い、興味を持った村の人たちがヘルサルまで来てくれたのか。
ゆっくり連絡を取り合っていたら、まだ種を植えるまでにもなっていないだろうから、その点は良かった……スイカはできるだけ早く食べたいからね。
その後も、スイカの話や農園内の事を話したし、時折作業をしている人達に挨拶をしながら、ガラスが保管されている小屋を回った――。
「ふぅ……さすがに、走ったり運動したわけじゃないけど、動いていると結界内は暑かったね」
「日中はそうなるんだろう」
「夜間になると、日中の外と変わらないくらいになりますな」
小屋を全て回り、再び出入り口を見張ってくれている衛兵さんに挨拶をしつつ、結界というか、ヘルサル農園の外に出ると、風が涼しく感じた。
結界内は無風状態だから、熱がこもって少し蒸し暑く感じるくらいで、歩き回って汗ばんでしまっていた……夏場に暑い外から空調が効いて、涼しい室内に入った時のような解放感だ……内外が逆だし、気温差はそこまで大きくないけど。
暑すぎて倒れる程じゃないけど、あの中で作業するのは少し大変だな……元ギルドマスターさんは別だし、大変じゃない作業や仕事というのも、ほとんどないだろうけど。
汗が引くのを感じながら街へと戻り、予想以上に時間を使ってしまったクラウスさんはトニさんに連れていかれて、俺達は獅子亭へと向かった――。
「……温度管理以外にも、風を吹かせる魔法具も必要そうだな」
「そうなの? でも、風がなくてもなんとか作業できていたみたいだけど……」
「いや、暑さの問題とは別だ。植物には、風に乗って種子を飛ばす物もあるからな。管理する場所なので、風に全て任せるわけにはいかないが、風で循環させるのも必要だろう」
「そんなもんなのかな?」
アルネに言われて、思い浮かんだのはタンポポの綿毛だ。
道端や川辺とかで生えていたタンポポが、風に揺られて綿毛を飛ばす光景……あれを見ると、夏の到来を感じたりする。
タンポポは栽培していないはずだけど、似たような事が必要な植物もあるから、確か風を発生させるのも重要なのかもしれないね。
それに、無風状態よりも風があった方が、結界内も少しは過ごしやすくなって作業もしやすくなるだろうし。
「まぁ、風を発生させるのは難しい事じゃない。魔法具に頼らなくとも、魔法で発生させられるからな。もしかしたら、必要な植物には既にやっている者もいるんじゃないか?」
「発生させるだけなら、簡単そうだね。農業の知識がある人や、今まで農家だった人も参加しているみたいだし、やっているか時期を見てやるのか、考えていると思うよ」
俺はまだしも、アルネのように知識があればわかる事だろうから、農業を経験した事のあるもいるようだから農園でも実際に考えられてるだろう。
魔法具をとアルネが言ったのは、人間主体の農園で魔法が使える人が限られているし、魔法具なら誰でも使えて管理がやりやすいからと考えたんだろうね。
温度管理の魔法具に組み込んで、とかまでアルネなら考えていそうだけど……できるかどうかはともかく。
「それにしても、元ギルドマスターだったか? あんな提案をするとは思わなかった」
「あぁ、あれね。まぁ、ルギネさん達が受け入れるか次第なのと、獅子亭に人手が増えたらって前提だけどね」
そろそろ獅子亭に近いと言ったくらいで、アルネが思い出したように話題に出す元ギルドマスター。
話しかける前に思いついた事を、エルサのドロップキックが決まった後に提案だけしておいた……あまり長話するとまたエルサがうるさそうだったので、軽く提案しただけだけどね。
元ギルドマスターさんは了承してくれたし、俺からルギネさんやマックスさん達に話しておいて、あとは本人達の話し合い次第だろう。
ルギネさん達の許可もそうだけど、獅子亭に人手が増えて余裕ができたらっていうのが前提だけどね。
「暑苦しい話は嫌いなのだわ……」
「まぁまぁエルサ。本人が目の前にいるわけじゃないんだから、話すくらいはね?」
「ふん、だわ」
「拗ねちゃったか……」
元ギルドマスターの話になって、嫌そうに呟くエルサ。
手を頭の上に持ち上げて、がま口リュックごとポンポンと背中を叩いて宥めようとしたけど、よっぽどさっきの筋肉アピールが嫌だったらしく、拗ねてしなった様子。
まぁ、仕方ないか。
「とにかく、ルギネさん達は元ギルドマスターで元冒険者から、色々教えてもらえる。元ギルドマスターは体を鍛える事ができると、お互いいい事ばかりだからね。……獅子亭で働いてばかりで、冒険者だった事を忘れそうになっているから……」
「そういった事を、呟いていたらしいな。まぁ、冒険者としての勘を取り戻したり、上を目指すのならそれで良し。今のまま獅子亭で働いて、暮らしていくのも良し、と言ったところだな」
「……そこまで重く考えてはいなかったんだけどね」
冒険者を続けるかどうか、というところまでアルネは考えているようだけど、俺としては昨日冒険者だって事を忘れそう、と聞いたからであって、どちらかの選択を迫るわけじゃない。
獅子亭で働き詰めで鍛錬もできず、依頼も受けていないらしいから、勘を取り戻すとか訓練代わりにと考えたくらいだったんだけど……ルギネさん達が、そこまで重く受け止めないといいなぁ。
……思い詰めがちなルギネさんより、ほんわか系のアンリさんへ先に話を通した方がいいかもしれないね。
そんな事を考えながら、アルネと雑談しつつ獅子亭へと向かった――。
「戻って来たけど……これ、中に入ってもゆっくりできそうにないかな?」
「……そのようだな。リクが昨日のように手伝うのなら、多少は助かるだろう。俺は勝手がわからなさ過ぎて何もできないが……どうする? どこか他へ行ってしばらく過ごすか?」
獅子亭へ到着したのはいいんだけど、アルネと一緒に外から眺めるだけでまだ中には入っていない。
なぜかというと、入り口にまだ人が並んでいて絶賛混雑中という様子だったから。
……昼の仕込みを手伝って終わらせてから獅子亭を出たし、農園を見て回るのにもそれなりに時間がかかったから、そろそろ夜営業の準備中とかだと思ったんだけどなぁ。
昨日の状況から考えて、昼から続いて夜まで休まず営業しないと、お客さんが捌けない状況になっているのかもしれない。
夜営業の準備を手伝いながらでも、ゆっくり元ギルドマスターや農園の事を話そうと思っていたんだけど……それは無理そうだ。
「元々、戻ったら手伝うつもりだったから、別にいいんだけど……ゆっくり話せそうにないから、細かい話は夜になるね」
「そうか。それじゃ、俺はエルサ様を預かって奥に引っ込んでおこう。これだけ忙しいと、フィネも同じく手伝えてないだろうから話し相手くらいにはなれるだろう」
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