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暖房魔法具を研究しているエルフ

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 エルフの集落内を移動し、森の木の前で歩みを止めるアルネ。

「ここに、研究をしているエルフさんが?」
「あぁ」

 足を止めた場所は、集落の半分が入っている森の中、そのツリーハウスの一つだ。
 大きな幹の中をくりぬいて使っているらしく、根本には扉があって中に入れるようになっていた。
 使われている木は、樹齢何百年では聞かなさそうな巨大な木……まぁ、そんな木はエルフの集落近辺にはいっぱいあるんだけど。

 ともあれ、木造の家が一軒すっぽり入ってもまだ余りそうな程の太さがある木に住んでいる人のようだ。
 でも、ツリーハウスに住んでいる人って、人間との交流を拒んだり森を出る事を良しとしないエルフってイメージがあるから、訪ねても追い返されたりしないだろうか?

「大丈夫なのかな? 人間がいきなり訪ねて怒ったりは……」 
「心配ない。偏屈だと言ったが、誰かと拘わる事を拒むような奴ではないしな。おそらくリクが心配しているのは、森の方に住んでいるのもあるんだろうが、単純にあいつは新しい家に移り住むのが面倒だった、というだけだ」

 そうなんだ……まぁ確かに、今まで住んでいた家を引っ越そうとすると、同じ集落内であっても荷物や家具の移動をさせなきゃいけないし、面倒と言えば面倒か。

「それに、面倒という以外にも、魔物が来なければ森の方は静かだからな……そちらの方が研究に没頭できるんだろう。人間に対して拒絶する考えは持っていないはずだし、訪ねて怒られるとしたら……研究の邪魔をした時くらいか? まぁ、なんとかなる」
「なら、いいけど……」

 確かに、人間も多く訪ねてきているのもあって、森の外での集落は日中賑やかだ。
 一つの事に集中して打ち込もうとしたら、静かな森の方が合っているのかもしれない。
 あと、エルフさんが森のツリーハウスで、魔法の研究に打ち込んでいるというのは日本人としてはイメージ通りと言えるかもしれない。
 ……研究している内容は強力な魔法とかではなく、単なる暖房魔法具についてだけど。

 ちなみに、後で聞いた話なんだけど、森から出て新しく建てた家に住んでいるエルフは、比較的若いエルフが多く、ツリーハウスに住んでいるエルフは長老達程じゃなくても、それなりに長く生きている人が多いらしい。
 長く生きているため、考えを変えようとせず長老達のように、人間を嫌うエルフもいたりするらしいが、以前俺達が魔物の襲撃を退けた事もあって、今ではほとんどが考えを変えているとの事。
 さらに、最近の長老達の様子を見ていれば、いずれほぼ全てのエルフが人間との交流に反対しなくなるだろうとも言っていた……実際に交流して多くの人間や獣人が集落に来ているんだから、それを見ていずれ受け入れざるを得なくなる、という目論見もあるようだ。

「さて、ここでこのまま話していてもいけないな。考えもまとまったし、中へ入ろう」
「あ、うん。わかった」

 結局、アルネは俺の言葉からヒントを得たという内容を聞かせてくれなかったけど、どうせ研究成果と引き換えに話すんだろうから、すぐにわかるかと頷いてツリーハウスの扉に向かった。

「……入れ」
「失礼するぞ、エクス」
「失礼します」

 扉をノックして数秒後、不機嫌そうな声で中に入る許可が出る。
 アルネと一緒に声をかけながら中に入ると、そこは広々とした空間だった。
 ツリーハウスで、木の内部をくりぬいているから狭いかと思っていたけど、さっき行ったカイツさんの研究室よりも大分大きい。
 窓がないため、照明での明りとなっているけど、隅の方に見える机には書類が重なっていて、それを見るためだろう、想像以上に明るい……昼の外よりも明るいんじゃないかな?

 また別の場所には、上に向かう階段があり、見上げると中央が吹き抜けになっている以外は、何階層かあるようだ。
 大きな木だったから、階層を分けて有効に使っているんだろう。

「おぉ、アルネじゃないか。どうしたんだ急に……というより、集落を出ていたはずではないか?」
「昨日、用があって戻って来たんだ。まぁ、数日もすればまた離れる事になるだろうがな」
「そうなのか? 残念だの……アルネの発想は、私の興味をそそる研究に繋がる事が多いのだが……ん、そちらは? 人間のようだが」
「初めまして、リクです」
「以前、集落を救った英雄だよ」
「おぉ、おぉ、おぉ、おぉ……貴方が! あのリク様! 魔物と一緒に頑固な長老達を打ちのめしたという!」
「いえ、長老達は別に打ちのめしてはいないんですけど……」

 扉越しに聞こえた不機嫌そうな声とは打って変わって、アルネを見て歓迎するような喜びの声を上げる……えっと、エクスさんか。
 長老達程ではないけど、それなりに年老いて見えるエルフは、老いが見えても十分に美形だ……細身のロマンスグレーといったところかな?
 アルネはエクスさんから認められているようで、集落を離れるのを残念がっている様子も見える。
 ともあれ、俺の方を見て人間というのを気にした様子もないので、安心して自己紹介。

 するとエクスさんは突然大きな声を上げて、興奮した様子。
 まぁ、ある程度こういう反応にも慣れたけどね……ただ、長老達には腹が立ってちょっと怒っただけで、決して打ちのめしたりはしていませんから。

「以前は姿を見る事叶いませなんだが、あの魔物を寄せ付けない魔法は、しかと拝見させて頂きました」
「あー、えっと……結界の事かな?」
「魔物を寄せ付けないというのであれば、おそらくそうだろうな」

 結界は不可視だけど、はっきり魔物が壁にぶち当たったり、遮られていたのでわかりやすかったんだろう。
 エルフの集落全体を覆ってもいたし、少なくとも何かしらの魔法で魔物を阻んでいるというのは、エルフなら見てわかってもおかしくない。

「おかげ様で、あの魔法を見てから研究が進みましてな? 今している研究にもいかされておるのですよ」
「そう、なんですか……」
「……何やら、思わぬ方向だな。まさか、リクの結界魔法を独自に突き詰めて、生かしているというのか?」
「さすがの私でも、あの魔法を再現する事はできなかった。だが、その効果から様々な事がひらめいたのだよ」

 何やら、思っていたのとは違う反応というか、俺が使った結界を参考にして研究が捗っているらしく、楽しそうに話すエクスさん。
 結界魔法を再現して利用とかではないみたいだけど……今している研究という事はもしかして、暖房魔法にも応用されていたりするのかな?

「えっと、エクス……さん?」
「おっと、名乗らず失礼しました。私、エクスツェントリツィエートと申します」
「長いので、近しい者はエクスと呼ぶんだ」
「成る程……エクスツェントリツェイエートで、エクスさんですね」
「はい。リク様におかれましては、このエルフが集う集落を救って頂きありがとうございます。また、本来は私から出向いて感謝をすべきところ、わざわざこのような場所まで訪ねて頂き、重ね重ね感謝申し上げます……」

 暖房魔法の事と結界が繋がっているのかと聞こうとして、エクスさんを呼ぶと自己紹介。
 確かに随分長い名前だから、皆省略しているのか……本人もそれでいいようだから、俺もエクスさんで大丈夫そうだ――。


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