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結界と土壁で侵入者を遮断

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「とにかく、これから地中の壁を作りに行こうと思ったんです。ちょっと、戻るのが遅くなってしまいますけど……」
「それは構わん。いや、むしろこちらからお願いしたいくらいだな。少々遅くなっても、問題は……ないわけではないが、大丈夫だ。リク殿、お願いする」
「はい、わかりました」

 遅くなるとはいっても、多分日が完全に落ちる程じゃない……はず。
 魔法を使う事自体はそこまで時間がかからないからね、移動が主だし。
 頷くシュットラウルさんは、チラリと執事さんの方を見たけど……多分、センテに戻ってからも仕事があるからとかだろうか? ともかく、問題ないとは言ってくれたので、地中へ硬い土壁を作る事に決まった。


「それじゃ、まずはここからですね」

 寛いでいたテーブルなどの片付けを、執事さんやメイドさん達に任せ、俺達は中央管理棟から東側も出入口に移動。
 フィリーナは、俺がヒミズデマモグと戦った辺りを調べて、ふんふん言っている……多分、壁を作った時の魔力の残滓みたいなのを、見ているんだろう。
 シュットラウルさんとアマリーラさん、リネルトさんは俺に注目して、土の魔法を使うのを待っている状態だ。
 そこまで注目しなくても……多分、発動しても結界と同じく見た目が変わる事でもないのに。

 ちなみに、アマリーラさん達と協力して護衛をするため、一部の兵士さんが付いて来ているけど、ほとんどは農地の事をしたり、センテに戻っている。
 まぁ、やる事は終わったし、ぞろぞろと引き連れて行う作業でもないからね。
 明日以降の訓練とか、別の農地で使うクォンツァイタやクールフトとかを、運ぶ準備などもしないといけないみたいだし。

「ん……アイアンボーデン」
「「「……」」」

 シュットラウルさん達から、ジッと見られているのを意識しながら、土壁を作るためのイメージを固め、発動させる。
 魔法名は、ヒミズデマモグと戦った時咄嗟に考えたものだけど……土を金属のように固く、というイメージを込めたもので、我ながら少し気に入っていたりする。
 魔法名を解き放つと、俺が手を付いた地面に魔力が伝わり発動。
 ヒミズデマモグと戦った時のように、大きな溝ができる事なく見た目の変化もなく、終わった。

「先程のように、穴が開く様子が見られると思っていたのですが……不発、という事ですか?」
「いえ、問題なく発動しましたから、多分できていますよ。そうですね……ここらを少し掘ってみて下さい」
「わ、わかりました」

 表面上は溝も何もなく変化が見られないので、アマリーラさんは失敗したのでは? と考えたんだろう。
 でも、間違いなく魔法は発動した感覚があるし、効果も出ているはず。
 俺が手を付いていた付近を示して、アマリーラさんに穴を掘って確認してもらう。

 掘ってみてと言ったものの、まさか道具も使わず素手で掘り始めるとは思わなかったんだけど……アマリーラさん、見た目によらずワイルドだ。
 だけど、それも大体一メートルくらい掘ったあたりで、手が止まった。

「か、硬い……爪が割れそうです」
「あまり無理しないで下さいね?」
「……ふむ、どういう事なのだ、リク殿?」

 アマリーラさんが引っかかったのは、俺が作った土壁の上部分。
 説明を求めるシュットラウルさんに話しながら、俺自身も手で触れて土ボールと同じく硬く作れているのを確認。
 溝ができず、掘らないとわからない理由は簡単。
 土を凝縮させて溝ができてしまったら、出入り口が不便になってしまうから。

 結界があるとわかるように、境目の目印と蟹って事ならいいんだけど、出入り口は人や物が通るからね……橋をかけるのも手間だし、それならと一メートル程度の隙間を作ったってわけだ。
 その隙間はこれまでと変わらない土で、溝ができているはずの部分では蓋の役割になっている。
 さらに、溝と土の境目にも薄く土を凝固させるようにして、崩れたりしないよう補強……まぁ、溝は数十センチくらいだから、あんまり崩れる心配はしていないんだけど、念のために。
 だから、別の場所を掘って溝を確認しようとしても、補強されている硬い土壁を越えないと到達できなかったりもする。

「溝か……確かに、人が通る際には邪魔になるか。さすがリク殿だ」
「いやまぁ、ヒミズデマモグと戦っていた時の事を思い出して、咄嗟に考えただけなんですけどね」

 ヒミズデミモグと戦った時は意識しなかったどころか、溝のおかげで探知魔法での反応がわかったりして便利だったけど、人が通る時には邪魔になるなぁ、と考えた。
 溝に足が取られたり、体が挟まったりしたら怪我をする人も出そうだからと考えて、今回の方法を思いついたんだよね。
 まぁ、実は移動中にエルサと相談していたりもしたんだけども……今日のお風呂はいつもより丁寧に洗ってあげよう、エルサからすると、キューを多めに食べられた方が喜びそうだけど。

「それじゃ、これと同じ魔法をグルっと外周に……」
「リク殿、移動には時間がかかるだろう? 馬車を用意させた、乗ってくれ」
「ありがとうございます。」

 結界に沿うように移動しながら、部分的に……具体的には俺が地面に手を付いた場所から、前後に数百メートルの範囲で土壁作成をやって行こうと考えていたら、シュットラウルさんが兵士さん達の用意した馬車を示した。
 東側出入り口に来る途中で外周を回る必要があると、エルサと相談する傍ら、シュットラウルさんに話していたので、それならと用意してくれたんだろう。
 到着してすぐ、兵士さんに何やら指示をしていたのはそれだったのか。
 農地の外周は、かなりの距離になるから歩いて移動となると大変だし、正直助る。

 エルサで移動してもいいんだけど、村の方から見えそうな場所以外で、ちょっとした時間短縮のために使おうとしていたくらいだったから。
 おかげで、日が完全に落ちるまでにはセンテに帰れるかもしれない……いや、帰らないとな……中央管理棟を離れる時、執事さんが懇願するような目で見ていたし。
 アクティブな主を持つと、執事さんとか秘書さんって大変なのかもなぁ……ヘルサルのトニさんを、少しだけ思い出した。


「よし、ここも終わったね。次に行こう」
「早く終わらせて、キューが食べたいのだわー」
「キューを多く収穫できるようにするためにも、頑張らないと」

 退屈そうに呟くエルサに答えながら、何か所目かの地中壁作りを終える。
 好物のキューが不足しないためにもなるから、被害が減るようにちゃんとやらないとね。
 シュットラウルさんが用意してくれた馬車のおかげで、徒歩移動よりも少し早いのは助かった。
 まぁ、乗り降りとかで少し時間がかかるけど、それくらいはね。

「お待たせしました」
「いや、構わんよ。こちらこそ、リク殿にまかせっきりで申し訳ない」

 馬車の中では、アマリーラさん達とフィリーナ、それとシュットラウルさんが座って待っていてくれる。
 何か所か回った頃に、全員で乗り降りするのは面倒だし、魔法を使うのも何度か使って慣れて来ていたから、手早く終わらせるために俺だけ降りるようにしていた――。


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