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隔離と炎

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「お……」
「地面が!?」

 上空から見下ろして、様子を見守る俺達。
 後ろからアマリーラさんの驚く声が聞こえる。
 驚くのも無理はないと思う……センテの門付近から外壁に沿って横一線の地面が、ピシッ! と音を立てたかと思ったら、突然の地割れ。
 いや、地面が割れたというよりは、その部分の土が急に消失した感じだった。

 なくなった地面に、魔物達の一部が落ちて行く……空から見ているというのもあるけど、日の光すら差し込まない深い穴は、底が見えずどれだけの深さなのかわからない。
 さらにほぼ同時、群れる魔物の大群を包み込むように、四角く仕切りを作って地面その物が切り離された。
 その間地響きすらないようで、外壁上の人達がバランスを崩したりする様子はない……驚いている様子なのは、上からでもよくわかるけど。

「さぁ、まだまだこれからよー!」

 野太い声、だけど楽しそうな声のアーちゃんが、合わせた両手を切り離した魔物達へと向ける。
 すると、今度は四角く切り取られた魔物達がいる場所が微かに揺れたように感じた。
 段々と遠ざかって行くような気が……? いや、本当に遠ざかっているのか。
 どこをどうしたらそんな事ができるのか、切り離された地面はズズズズ……と音を立てながら沈んでいく。

 四角く切り取られた場所、もはや魔物達が乗っているだけの舞台では、消失した地面の穴に飛び込む魔物、何もできずに動きを止める魔物など様々だ。
 まぁ、飛び込んだ魔物は周辺の事なんて考えずただ前進していただけなんだろうけど。

「お次はフレイムよ! 派手にやりなさーい!」
「チチー!」

 かなりの深さ、数メートルどころではなく数十メートルは沈んだ地面に対し、満足するように頷いたアーちゃんがフレイちゃんに声を掛ける。
 気合十分、意気込んだ返事をしたフレイちゃんが、ズズイッとアーちゃんの前に出た。

「チチ……チーーー!!」
「おぉ!」
「燃え盛る炎……? いや、見ているとなんだか心が落ち着くような」
「でも、どこか恐ろしさも感じますよぉ」

 少しだけ、フレイちゃんの燃え盛る火の体が縮んだと思った瞬間、まぁるい炎の球を出現させた。
 離れているから正確な大きさはわからないけど、元の大きさに戻った人間の上半身サイズのフレイちゃんと同等なので、一メートルくらいだと思う。
 その炎の球は激しく燃え盛っているのに、どこか穏やかでアマリーラさんの言う通りなんだか落ち着く気もする。
 ただ、リネルトさんが言うように怖さも感じるのは、内にとてつもない熱量やエネルギーがこもっているからだろう。

「チチ、チチ……」
「ん……?」

 フレイちゃんが、何か力を込めるように炎の手を球にかざしている。
 なんとなく、少しずつ俺の力が抜けるような……何か妙な感覚を感じて首を傾げた。

「リク様、どうかされましたか?」
「いや、なんでもないです。気にしないで下さい」
「アマリーラ様、リク様、見て下さい。あの炎の球、どんどん大きくなっていっていますよ!」

 俺の様子にい気付いたアマリーラさんが声を掛けてくれるけど、首を振っておいた。
 リネルトさんに言われて見てみると、確かにフレイちゃんが出した炎の球はどんどん大きくなっていっており、たった数秒で倍以上の大きさになっている。
 成る程……スピリット達は俺が召喚したから、何かをする時に使う魔力も俺のものを使用するんだな……。
 フレイちゃん自身の力も入っているんだろう、膨れ上がる炎の球のエネルギーに比べ、俺の魔力自体は大きく減ってはいないけど。

 スピリット達を召喚するのに使った魔力と合わせると、まだ全体の三割以上残っているような感じだから……実質的には、一割くらいしか使っていないかな。
 起きた時に半分の五割程度、東側で魔法をぶっ放してアマリーラさん達と合流する時に、結界を張ったのも考えると多分その程度だと思う。
 俺一人だと、アーちゃんがやったような地面操作をただけで二割から三割くらいの魔力を使いそうだから、効率という意味ではかなりいいんだろう。
 あと、俺がやると絶対センテの外壁とかに影響があったと思うから……スピリット達を呼んだのは正解だったんだと思える、こっちなら失敗する事はなさそうだからね。

「……チーーーー!!」
「お」

 自分の魔力状態について考えているうちに、力を溜め終わったフレイちゃんが大きく叫ぶ。
 声としては何を言っているのかわからないけど、頭の中に響く内容では「行けー!」と言っているようだった……そのまんまだ。
 炎の球は、フレイちゃんの力を受けてさらに大きくなっていた。
 内包するエネルギーは大きく、熱量は俺達にも届くくらいだ……汗ばむほどじゃないけど、ちょっと熱い。

 それを勢いよく打ち出し、魔物達の舞台の中央へ飛び込ませるフレイちゃん。
 数秒後、炎の球との距離が近付いた魔物が触れてすらいないのに燃え上がり、着弾する頃には着弾地点の魔物は全て燃え盛っている状態。
 そして炎の球が少し遅れて燃え盛る魔物達……いや、もう燃え尽きた魔物達のいる部分に触れたと思った瞬間……。

「うぉ!……凄まじいな。かなり離れているのに、ここも温度が上がっている」

 炎の球は、着弾点を基準に四方八方へと燃え盛る炎をまき散らし、触れた魔物を燃やしながら広がる。
 さすがに全体の全てを燃やし尽くす程ではないけど、中央では火柱が立っていて絶えず方々へと炎を吐き出している……とんでもないな。
 魔物が燃えたからというわけではないだろうけど、そびえ立つ火柱は地面の正しい高さ、つまりアーちゃんが沈ませた分だけの高さだ。
 ちゃんと計算されているみたいだ……俺にはできない微調整だなぁ。

「チチ、チチチー!」
「えぇ、今度は私の出番ですね」
「俺の出番はまだかよ……てか、俺いらねぇんじゃね?」
「そう言わないで下さい、ウォーター。最後の仕上げはあなたにしかできませんから」
「……仕方ねぇなぁ」

 火柱が炎をまき散らすうちに、段々と小さくなっていく。
 魔物達は切り離された舞台の上で、逃げる事もできず燃え広がる炎に焼かれて行く……中々阿鼻叫喚な光景だけど、離れているのが幸いして細かくは見えない。
 ともかく、逃げようとする魔物は穴に落ち、穴に落ちない魔物は炎に焼かれていくという、もうそれだけで終わるんじゃないか? と思える程だ。
 けどフレイちゃんは、スッと後ろに下がるとウィンさんに声を掛けるように鳴いた。

 今度はウィンさんか……これ以上何をするんだろう?
 というか、確かにウォーさんの出番がなくても全て片付くんじゃないかと思う……四大元素全てのスピリットを呼ぶのは、やり過ぎだったかな?
 でも、ウィンさんが何かあるように言っているから、多分大丈夫なんだろう。

「……火に強い魔物もいますか。ですが、さらに燃え盛る火炎に包まれたらどうでしょうか……?」
「風が……?」
「暑かったから、ちょうど良く涼しいですねー」

 空から魔物達の惨状を見下ろすウィンさんは、問いかけるような言葉を紡ぎながら、緑色の風が渦巻く両手を広げた――。


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