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ワイバーンボウリング

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「それじゃ……んー、ワイバーンの横幅がそれなりにあるし、少しズレた時の事も考えて……よし、今だボスワイバーン!」
「ガァァ!!」
「GURAAAAAAAA!!」

 結界の隙間を、少し広めに開けてボスワイバーンに指示。
 その瞬間、勢いよく回転したボスワイバーンの尻尾が丸まったワイバーンを打つ!
 バコーーーン!! という大きな音が聞こえるくらいの勢いで、転がる……いや、弾き飛ばされる丸まったワイバーンは、少し跳ねながら結界の隙間に到着。
 そこから、長い咆哮を上げて魔物を薙ぎ倒しながら門へと向かって転がっていく。

「おー、本当に魔物達が簡単に薙ぎ倒されているなぁ……すごいすごい」
「ガァ、ガァガァウ」

 ボウリングでいうと、ガターにすらならないようにひたすら真っ直ぐ、門の方向へと向かって転がるワイバーン。
 大量の魔物に当たっているので、途中で失速しそうな物だけど、むしろ段々とその勢いを増しているような……?

「あれ、もしかしてワイバーンが途中で何かしている、のか?」
「ガァゥ。ガァガァ、ガァゥ」

 一切曲がる事なく真っ直ぐ突き進んでいるだけでなく、勢いも増しているように見えたので、ボスワイバーンに聞いてみる。
 けど、何かを伝えようとしてくれているのはわかるんだけど、何を言っているのかわからなかった。
 尻尾を忙しなく動かしている様子から、尻尾が関係しているようではあるけど……。

「尻尾が、時折動いているようなのだわ」
「よく見えるなぁエルサ」

 と思ったら、静かに見ていたエルサが教えてくれた。
 そういえば、エルサは目や耳がいいんだったね……そうか、尻尾を動かしてかぁ。
 どう動かせばそうなるのかわからないけど、俺に尻尾はないし。

 そういえば、丸まった時尻尾は一番外側だったから動かしやすいのか……とにかく、失速する事なく突き進むワイバーンは、怪我をする様子も見えないし、大丈夫そうだ。
 そして、門へ向かう一本の道ができた……。

「ん? あれって、どうやって止まるんだ? ワイバーンは丸まっているし、多分前見えないだろ?」
「ガァゥ?」
「そこは考えていなかったのか!?」
「ガァ……」

 あのままの勢いで、門へ向かったら向こうにいる兵士さん達も薙ぎ倒す事になってしまう。
 魔物達は突出していたシュットラウルさん達に集中していたので、俺が来た時には魔物と兵士さん達の間には距離が少しできていたけど……。
 どう考えても、魔物達を突き抜けたら兵士さん達に転がっていく姿しか想像できない。
 頭の中で、嬉しくないストライクが発生する光景が浮かんだ。

「ちょ、早く止めに行かないと……!」

 兵士さん達に対してストライクしてしまったら、絶対怪我人が出てしまう。
 そうなるとシュットラウルさんが受け入れると言ったとしても、ワイバーン達の印象が皆にとって悪くなる。
 元々、魔物だからというのもあってあまり印象は良くないだろうけど……それでも集まっている魔物を倒す事に協力してもらって、印象を少しでも良くできればと思っていた。
 けど、もし兵士さん達に怪我人を出してしまえば、人間への攻撃行動ととられてもおかしくはない……もちろん、怪我人は俺が責任を持って治療するけど!

「エルサ!」
「はぁ……仕方ないのだ…わ?」
「え?」
「ガァゥ?」

 エルサに頼んで、すぐ転がるワイバーンの方まで飛んで行こうと声を掛ける。
 俺の頭から離れてエルサが大きくなろうとしたその時、転がっていたワイバーンが大きく跳ねた。

「あ……止まっ……た?」
「止まったのだわ。随分強引なやり方だけどだわ」

 丸まった状態のまま跳ねたワイバーンは、空中で回転しつつ門の近くの地面に落下。
 回転と重さも加わったからだろう、地面に半分くらい体を埋め込んで静止した。
 えーっと……? 多分、跳ねたのは尻尾を大きく地面に打ち付けたからで……自ら飛んで地面に落下する事で、回転と直進する勢いを止めたって事、かな?

「ガァ~!」

 ボスワイバーンは、その手があったか! と言うように吠えて量前足をポンと合わせていた……器用というかなんというか。
 ……ワイバーン、意外と頭がいいのかもしれない。

「んっと、魔物達は……あぁ、魔物がいなくなったところで跳ねたのか。エルサ、兵士さん達には当たっていない、よね? ここからだとはっきり見えないんだ」
「当たっていないのだわ。盾を構えた兵士が並んでいるのは見えるのだわ?」
「うん、まぁそれくらいは」
「その手前で埋まっているから、兵士達には何も被害はないのだわ」

 良かった……エルサにも確認してもらったけど、兵士さん達にはワイバーンが当たっていないようだ。
 目を凝らしてなんとなく、盾を持った人らしき何かが埋まっているワイバーンの向こう側に見えるくらいの距離なので、当たっているかどうかはっきりとはわからなった。
 けど、どうやらワイバーンは自分で考えてその手前で静止してくれたようだね。
 あのままだったら、本当に盾部隊の兵士さん達に対してストライクを決めていたところだっただろう……兵士さん達の数的に、スコアは百を余裕で越えそうだ。

「はぁ……なんとかなったみたいだ。ボスワイバーン、あっちのワイバーンの方がちゃんと考えていたみたいだぞ?」
「ガァ……」

 ジト目でボスワイバーンを見ながら、半分埋まっている丸まったままのワイバーンを指し示す。
 ボスワイバーンは、小さく吠えて項垂れた……ちょっと落ち込んだかな?
 ボウリングの球のように転がす事は考えられたみたいだけど、その後の……止まる方法はワイバーンが自ら編み出したようだったからね。
 むしろ、ボスワイバーンよりあっちのワイバーンの方が、ちゃんと考えを巡らせているんじゃないだろうか? とすら思う。

「……ガァ! ガァ、ガァゥ!」
「ん? って、え?」

 何を思ったのか……というより名誉挽回のつもりなのか、俺の前に来てクルンと丸くなるボスワイバーン。
 先に転がって行ったワイバーンより、少しだけ体が大きいせいか窮屈そうだ……いや、角が邪魔なのか。

「ガァ! ガァ!」

 丸まった状態で、俺に主張するように吠えるボスワイバーン。

「……リク殿、このワイバーンも先程と同じように、という事か?」
「多分、そうなんだと思います」

 ワイバーンや俺達の様子を見ていたシュットラウルさんも、同じ答えに辿り着いたようだ。
 丸まっている段階で、何をして欲しいのかは言葉が通じなくてもわかるよね。

「ガァ! ガァ!」
「いや、えーっと……」

 早く! と催促するように吠えるボスワイバーン。
 確かに、ワイバーンが転がってできた道は、今また大量の魔物達が塞ごうとしている。
 所々、地面が抉れているように見える場所があるのは、ワイバーンが尻尾を使っていた所だろうか……? いやいや、今はそんな事どうでもよくて、ボスワイバーンをどうするかだ。
 もう一度くらい、ボウリングの球として発射し、その後すぐに俺達も追いかけて行けば門まで脱出できるだろうけど……。

「打つための物がないんだよなぁ……多分、俺が拳でやると……酷い事になりそうだし」
「良くて、体の一部が抉れる。悪くて全身破裂ってとこだわ?」
「ガァ!?」


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