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ボスワイバーンからの提案

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「ぬぅ……せかっくこの完全防御魔導フルアーマー……略して魔導アー……」
「それ以上は駄目です!」
「リク殿?」
「それ以上言っちゃいけない気がするので、絶対駄目です!」

 まったく、シュットラウルさんは何を言おうとしているのか。
 そんな、どこぞのゲームで魔法を使えない人が魔法を使うための鎧というか、機械のような略称なんて。
 白い鎧は、防御用魔法鎧で良いんじゃないかな、長ければ魔法鎧で、うん、それで決まりだ!
 それに、完全防御って言っているけど、多分本当に完全じゃないし……次善の一手や最善の一手、その他にも俺からはなんとかする方法がありそうに見える。

 ともかく、シュットラウルさんの危険な発言は結界の外に投げ出しておいて……ここから東門まで戻る方法だ。
 せめて、魔物に囲まれている状況を抜け出さなくては、どうにもならない。
 エルサに乗せるのは、魔法鎧の重量があるから無理そうだ……シュットラウルさん達の足が、硬い地面に深くまでめり込んでいるくらいだし。
 数十キロじゃ済まない重さだろうなぁ、よく着ていられるもんだ、それも魔法鎧の魔法効果なんだろうけど。

「ガァゥ。ガァガァ!」
「うん? どうしたんだ、ボスワイバーン?」

 どうしようかと悩んでいる俺達に、結界内の魔物を倒し終わったボスワイバーンが吠えて、何かを主張。
 何を言っているのかわからないけど、何か案があるらしい……俺達の話、聞いていたのか。
 まぁ、魔物達に苦戦する事はなかったようだから、余裕があったんだろう。

「ガァ! ガァゥ!」
「GURU!」

 もう一体のワイバーンに何かを伝えるように吠えるボスワイバーン。
 ワイバーンは、一つ頷いて体を丸めた。

「ど、どうなっているのだ、リク殿?」
「いや、俺もわかりませんけど……何かやりたいようです。でも、一体何をやるつもりなんだろう……?」

 シュットラウルさんが戸惑うのも無理はない。
 丸まったワイバーンは、前足や後ろ足をコンパクトに畳んで顔をお腹に付けるくらいになり、尻尾を巻き付けて体を固めている状態になった。
 何かの衝撃とかから、体を守ろうとしているようにも見えるけど……。

「ガァゥ、ガァ、ガァ!」
「えっと……もしかして、これを打つ……のか?」
「ガァ!」

 丸まったワイバーンの近くで、体ごと回転するように尻尾を振るボスワイバーン。
 当ててはいないけど、素振りをしているようだ。
 もしかしてと聞いてみると、ボスワイバーンは深く頷いた。

「……うーん」
「ど、どういう事だ?」

 悩む俺に、まだよくわかっていない様子のシュットラウルさん。
 エルサは頭にくっ付いたまま静観しているようだけど、大隊長さんも首尾を傾げて頭上にハテナマークを浮かべているような雰囲気だ。

「つまりはこういう事か……?」
「ガァガァ!」
「はぁ……えっと、シュットラウルさん……」

 ボスワイバーンがやろうとしている事を想像して、答え合わせ。
 合っていた事に溜め息を吐きながら、シュットラウルさんにも説明した。
 ボスワイバーンとワイバーンがやろうとしている事は、限界まで体を丸めて防御態勢を取り、そのまま誰かが打って転がす。
 そうする事で、周囲に集まっている魔物達を弾いたり潰したりしながら道を作る、と。

 まるでボーリングだ……再生能力と、ワイバーンの硬さがあるからできる発想かもしれない。
 いや、再生能力があってもそんな発想にはならないだろうから、ボスワイバーンは特殊なんだろうね。
 じゃないと、ワイバーンボールのボーリングだけじゃなく、俺達と対話しようなんて考えないか。

「な、成る程な。再生能力については、私は見た事がないのでわからないが……皮膚の硬さがあるからこそという事か」
「ワイバーンでなければ、考え付かない無謀な案のように思えますが……」
「だが、転がるだけだろう? 門への道を作ると考えれば、理にかなっている気もするな。ふむ……」
「あぁ……シュットラウル様が変な事を考えている気がします……」

 俺の説明でボスワイバーン達のやろうとしている事を理解して、戸惑いつつも受け入れたシュットラウルさんと大隊長さん。
 何やらシュットラウルさんが手を口元と思しき場所に近付けつつ、何かを思案している様子。
 まぁ、腕の可動域が足りなくて、口元どころか顎の位置くらいにも届いていないけど。
 とりあえずあちらは、大隊長さんに任せよう。

「ボスワイバーン、大丈夫なのか? 再生能力が凄いのは知っているけど……」
「ガァゥ!」
「GAU!」

 案を理解して声を掛けると、ボスワイバーンは任せろと言わんばかりに頷いて、前足で自分のお腹を叩く……人間で言うと、胸を叩いてどーんと任せろ! みたいな感じかな?
 ワイバーンの前足は短いし、胸を叩くようには動かせないんだろう……というか、結構人間臭い仕草をするんだな、どこで覚えたのか知らないけど。
 ワイバーンの方も、丸まったまま請け負うように意気込んだ返事が聞こえた。
 こっちもこっちで器用だ。

 ワイバーンの再生能力は、戦った限り一分足らずで根元から斬った手足や翼が再生する、破格の能力だ。
 さすがに胴体真っ二つとか、首を斬り落とすと再生能力を発揮する前に息絶えるようだけど……多少の傷なら数秒で再生するだろう。
 結界に阻まれて、ゾンビよろしく張り付いている魔物達の中に、ワイバーンの皮膚を裂いて怪我を負わせられるような魔物は……いないわけじゃない。
 オークとかオーガとか、力の強い魔物がいるからね……あくまで不可能じゃないだろうってくらいだけど。

 ともかく、丸まって防御態勢を取ったワイバーンなら、勢いよく転がって多少の怪我をする事はあっても、再生能力で補う事ができると。
 しかも転がって魔物を弾き飛ばしたり潰したりしながら進むので、魔物達の方から攻撃をさせる猶予を与えない……考えれば考える程、シュットラウルさんの言うように理にかなっているように感じてしまうね。
 他にいい考えや、欠点なども探せばあるのかもしれないけど。

「……わかった。それじゃ、門は……あっちだね。あの方向の結界を解くから、そっちに向かって打ってくれ。あ、結界はわかるか?」
「ガ、ガァゥ!」

 提案を受け入れて方向の指示をしながら、結界は透明なので見えないから、ワイバーン達は今どういう状況なのか理解しているのかも、一応聞いておく。
 戸惑いながら頷くワイバーン……あぁ、そういえば、さっき結界内の魔物達を蹂躙している時、勢い余って顔から激突していたっけ。
 シュットラウルさんと話していたから、見ただけで特に注目していなかったけど。
 怪我をするような感じではなかったからね……ボスワイバーンの反応を見るに、痛くはあったようだけど。

「じゃあ、結界に隙間を空けたら魔物が入って来ちゃうから、開けたと同時に打つんだよ。合図はするから!」
「ガァゥ! ガァ?」
「GURAU!」

 門の方向に体を向け、ボスワイバーンにタイミングを合わせるように言う。
 ボスワイバーンは、返事をするとともに尻尾をブンブンと振って準備を整えつつ、丸まっているワイバーンにも声をかけている。
 ワイバーンのはその体制で色々苦しくないか、と疑問ではあるけどそこは気にせず……いつでも大丈夫と言うように、こちらも意気込んだ返事をしていた――。


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