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輸送革命には数が足りない
しおりを挟むボスワイバーンからワイバーン達に、諸注意などが伝えられ寝ていたワイバーンも起こす。
飛び立つ直前、大きくなったエルサを先頭にボスワイバーンと続いて、他のワイバーン達が不規則に並んでいるのを見て、声をかける。
準備と言っても、ワイバーン達はただ起きて羽根を広げるだけなんだけど。
エルサの通訳を切ったボスワイバーンの頷きと鳴き声、並ぶワイバーン達からも頷きと鳴き声が返ってきたのを確認。
「それじゃエルサ、頼むよ」
「了解したのだわー。街までひとっ飛びなのだわー!」
エルサにモニカさんと乗って、俺の声を合図にエルサがふわりと浮かび上がる。
他のワイバーン達が一斉に羽根を羽ばたかせ始めたのを、音や風で感じる。
……エルサはモフモフの羽根を広げるだけで大して羽ばたかないけど、ワイバーンは結構忙しなく羽ばたくんだな……飛ぶために使う魔力量の差なのかもしれない。
「あ、はぐれる事はないだろうけど……ワイバーン達の速度に合わせて、置いて行かないように注意してくれ。あと結界も前方だけで」
センテから出発した時、ボスワイバーンがエルサについて来るのに必死だった様子だから、あまり速度を出したら置いて行ってしまう可能性がある。
ただでさえ、ワイバーンの数が多いからあまり離れないようにしてセンテに到着したい。
結界は飛んでいるエルサを完全に覆ってしまうと、ワイバーン達がふいにぶつかってしまうかもしれないから、前方での風よけのみにしてもらう。
「仕方ないのだわ。空の覇者として、それくらいの気づかいはするのだわー」
空の覇者って呼ばれ方、結構気に入っているんだなエルサ。
そうして、ワイバーン約三十体を引き連れ、空で編隊を組むような形でセンテへと向かった。
あ、編隊を組むとかはあまり深く考えないようにしよう……エルサがまた空中戦闘機動を、今度はワイバーンも混ぜて編隊でとか言い出しかねないから――。
しばらく空をゆっくりと進み、センテ南門側からもはっきりとエルサやワイバーンが飛んでいる姿が、確認できるだろう所まで来た。
「エルサちゃんに乗り慣れていると、少し遅く感じるけど……それでも十分速いのね」
「そうだね。比べてないからわからないけど、馬の全力くらいかな? まぁ、ワイバーン達はやろうと思えばもう少し速く飛べそうだけど。でも何より、空を飛ぶ事の利点は地上の地形に左右されない事だよね」
「そうね……高い山を越えるとかなら、多少の影響は出るんでしょうけど。川や道ですらない馬では走りにくい場所も、関係なく飛んで移動できるのは重要ね」
隣にいるモニカさんと、地上の景色を眺めながら話す。
やっぱり、空を飛ぶ移動での一番の利点はそこだよね。
地形に左右されないから、一定の速度を保っていられるし馬なら迂回しなきゃいけない場所も、真っ直ぐ移動できるから、移動時間がかなり短縮される。
ワイバーン達がどれだけ飛んでいられるかはわからないけど、魔物を運んでいた状況を考えるに、馬の全力よりは長く速度を保って移動できそうだ。
馬って、全力で走ると体感で十分保たないくらい……少し速めに走るくらいでも、三十分やそこらだったはず。
頻繁に休憩が必要な馬とは違って、長時間空を飛べるのも大きな利点になり得る。
「これは、もし活用できるのなら移動や輸送に革命が起きるんじゃないかしら?」
「うーん……確かに活用したら、今まで以上に移動に時間がかからなくなって、輸送も楽になるだろうけど……多分、革命とまではいかないんじゃないかな?」
「そう?」
「はっきりとはわからないけど、やっぱり数が少ないから。ワイバーンに乗れる人の数や、運べる量も限られるからね」
「中々難しいのね……」
モニカさんが想像していそうな革命とまでなるには、今の倍……少なく見ても十倍くらいは必要な気がする。
広大なアテトリア王国全体を、数十体のワイバーンで全てカバーするのは不可能だし、ワイバーンにも限界がある。
多少便利にはなるだろうけどね。
あと、俺達は平気でもワイバーンに対して……というか魔物に対して忌避感を持っている人も、結構いるだろうし、そういう人達がワイバーン限定でも受け入れてくれるようでなきゃね。
今考えられる事としたら、限りある数の中でどれだけ効率的に活用できるかとか、一部を便利にするくらいだと思う。
ワイバーンの核を探して、復元して従わせる……というのは論外だし。
そもそも、再生能力を強化する復元のやり方がわからない。
「リク、何か近付いて来るのだわー」
「ん……あれは……ワイバーン?」
「他にこの付近に、空を飛ぶ魔物はいないわ。だから多分ワイバーンね」
ワイバーンの活用について考えていると、エルサが近付いて来る何かを発見したと伝えられる。
エルサが顔を向けている方、移動している方向とは少しズレている方を見てみると、確かに何かが空を飛んでこちらに向かって来ているように見えた。
遠くて何かははっきりと見えないけど、状況的にワイバーンだろう……まだ、他の場所に行っていたワイバーンが残っていたのかな?
でも、街の方から来ているみたいだし……。
「……獣人の娘達のようなのだわ。ワイバーンの背中で手を振っているのだわ」
「よく見えるねエルサ……」
目を凝らしてみても、俺にはワイバーンらしき形が見えるだけだ。
かろうじて、背中に何かを乗せている……かも? と言われてそう思えるくらいなのに、エルサにははっきりわかるようだ。
「獣人って事は、アマリーラさんとリネルトさんね。そういえば、リクさんがワイバーンを昨日連れてきた時、一体貸し出していたわよね?」
「そうだね。ボスワイバーンの所に戻って来ていなかったし、昨日からずっとアマリーラさん達と一緒だったんだろうね」
アマリーラさん達が乗っているって事は、昨日貸し出したワイバーンに乗っているのは間違いないだろう。
街側から俺達を確認して、こちらに向かっているのかもしれないね……何かあったんだろうか?
センテから出発した時、空で見かけなかったのは地上に降りていたんだろうけど……。
「少し速度を落としてくれエルサ」
「わかったのだわー」
「ボスワイバーン、昨日貸し出したワイバーンに乗った人が近付いて来ているから! エルサに合わせてくれー!」
「ガァゥ! ガァ、ガァガァ!」
「GRAA!」
「GRAGRA!」
こちらに向かうアマリーラさん達を迎えるため、速度を落とすようエルサに頼み、後ろについて来ているボスワイバーン達にも声を掛ける。
了承したと言うように吠えたボスワイバーンは、速度を落とすエルサに合わせながら後ろにいるワイバーン達にも指示を出すように吠える。
ついて来ていたワイバーン達も、おとなしく言う事を聞いてくれているようで、それぞれに声を上げながら速度を落とし始めた。
なんというか、ワイバーン達数十体を指揮する隊長になった気分でちょっと気持ちいい。
指揮しているのは人間じゃなく魔物でワイバーンだけど……それもある意味、俺らしいのかもしれないな……なんて思った――。
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