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何故か褒められつつも作戦会議

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「そうですね。クレメン子爵とフランク子爵は、なんだかんだで関わっています。良くしてくれましたし」

 シュットラウルさんから聞かれて、頷いて肯定する。
 マルクスさんとシュットラウルさんの口から出た、クレメン・シュタウヴィンヴァー子爵とフランク・ハーゼンクレーヴァ子爵という二人。
 クレメン子爵からは、エフライムと年齢が近くて友人のように接してもらっているし、王城ではよく話していた。
 フランク子爵の方は、フィネさんが今も俺達に同行中で助けてもらっている。

「リク殿と直接会い、その人となりと活躍を目の当たりにした者程、備えを万全にしているとも見えるな。いや、ほとんどの貴族は王城でリク殿を見た事はあるが……」
「おそらく、リク殿の性質と言えばいいのか、考えや性格のおかげかと私は考えているのですが」

 シュットラウルさんとマルクスさんが、俺と会って話した事のある人とない人での、対応の違いを話している。
 けど、ほとんど話は聞き流していた……。
 いやだって、何故か段々と俺を褒めるような内容になって行ったので、照れくさいというかなんというか。
 とりあえず苦笑して、お昼はどうしようか? なんて考えていたのは、シュットラウルさん達には内緒だ……エルサの事をあまり言えないな。

「では、王軍到着後すぐに侯爵軍との合流を。そちらの兵士は長期の戦いで疲れているでしょうから……王軍が主体で動いても?」

 俺の話を終えて、王都からの援軍……そのまま王軍と、今頑張って戦ってくれている侯爵軍とで、どう魔物に対するかを話し始めた。

「うむ、と頷きたいところだが……我が侯爵軍にも、勝利を味わわせてやりたい。疲れなどは当然あるだろうが、冒険者とも協力して魔物の侵攻を留めたのも確かだからな」
「後から来た者に、最後の戦果を掻っ攫われるのはあまりいい気はしないですか……」
「大きな反感とまではないだろうが、最後まで自分達で戦い抜く経験をさせたいのだ。私自身は、王軍だろうと私の軍だろうと、魔物がいなくなるのであればそれでいいのだがな」
「ふむ……侯爵様の案であれば、先程話していたように意識も変えさせる要因にもできるかもしれませんね」
「できれば、そうしたいところだ。私自身はリク殿に頼りきりならないよう考えているが、末端の兵士達や民達の意識まではすぐに変えられないからな」

 つまり、長く戦い続けて途中から俺やエルサの協力があったとはいえ、魔物達との決着は侯爵軍で突けたいって事だね。
 そうする事で、成功体験というか……自分達で最後まで守り切った、という意識にさせて今後の戦争への備えや、今回の戦いの復興を速やかに進めたいと。
 王軍の兵士さん達も、遠征してきたのだから一緒に戦えばなんて俺は思ってしまうけど、シュットラウルさんは皆の考えやその先の事を考えているようだ。
 ……やっぱり、俺にはそこまで深く先の事を考えられないから、貴族にという話を断って正解だったかも。

「では、我らは街への物資を運び込む役に徹しましょう。街への被害はほぼ出ていないようですが、人的被害や怪我人の手当てなどもあるでしょうから……そちらに人を回せば、侯爵軍は魔物と心置きなく戦えるかと」

 物資もそうだけど、人手を補ってくれるのは街としてもありがたいと思う。
 ヘルサルへ避難する人は少なく、さらに手伝ってくれる人が来ているようであっても、人手は足らないだろうから。
 怪我人の収容所とか、まだ一か所しか見ていなかったけど……人も物も足りていないように見えた。
 他の場所でも、大体そんな感じなんだろう。

「そうだな。だが……」

 マルクスさんの提案に頷いて、俺を見るシュットラウルさん。
 怪我人の手当て……とマルクスさんが言ったからか。
 治療に関しては前もって言っていたし、俺が中央の怪我人収容所で魔法を使って治療した事は報告が言っているはずだからね。

「あ、マルクスさん。怪我人に関しては、俺も手伝うのでそこまで多くの人はいらないと思います。まぁ、物資というか薬とかは足りていないようでしたから……」

 シュットラウルさんの視線を受けて、マルクスさんに言う。
 多少は人手があった方が助かるけど、人より物の方が欲しいのが現状だ……魔物から毒を受けた人の治療は、足りない薬で補った方が効率的だけどね。

「成る程、それでしたら他の場所に多くの人員を配置するようにしましょう。人の足りていない場所は……」
「今は、戦闘に直接拘わらないのであれば、一番は南門付近だな。それから……援護と言う意味では北の外壁も少し欲しいか……」
「シュットラウルさん、東南の森にワイバーンの素材を回収するのもありますね。まだそっちまで手が回っていないようですから……えっと……」

 俺とマルクスさん、シュットラウルさんの三人で、センテと周辺の詳細地図を囲みながら話し合う。
 南側の片付け作業は、アマリーラさん達にワイバーン貸し出して進めてくれているけど、まだそれなりにかかりそうだからね。
 長期間戦い続けていたんだから、魔物の片付けや回収以外にもやる事はいっぱいあって当然だ。
 東門へ向かった人も多いし、人手が足りていない。

 俺とエルサが倒したワイバーンの素材回収の事も考えると、こちらに人を回してもらえるとありがたい。
 そう思って提案しつつ、別の案も考えて提案してみた。

「王軍の兵士さん達の数がかなり多いので、センテの外側……というか、魔物が固まっているさらに外側から、攻撃を加えるというのはどうでしょうか?」
「ふむ?」
「ですが、直接戦闘は侯爵軍に任せると……我々は、やっても離れた場所で弓や魔法での援護役だと考えています」
「それなんですけど、最終的な決着は侯爵軍でと言うのに反対するわけではありません。えっと、俺がセンテに戻って来た時の事なんですけど」

 俺が戻って来た時、東門に押し寄せる魔物の集団の中を、後ろから走って突っ切った。
 その際、特に魔物の注意を引き付けるという意図はなかったんだけど、俺に注意が向いたおかげで少しだけマックスさん達が戦っている土壁の方から、意識が逸れていた。
 つまり、囮と言う程ではないし、突撃するわけではないけど、多少の攻撃を加えて魔物達を混乱させる……知能の低い魔物が多いし、指導者的な存在もいないから簡単に混乱状態に陥らせるはず。
 そうしている間に、侯爵軍が押し返して優位に立ったままで殲滅を、というわけだ。

「成る程……王軍で注意を引き付けてというわけですか」
「リク殿の案であれば、我が侯爵軍にも見せ場があるようだし、同じ場所から魔法などの援護をするより、効果も見込めそうだ」
「そう思います。そして、ついでに集団で固まっている魔物以外にも、残党というか……センテ周辺にちらほらと残っている魔物も、討伐してくれれば終わった後もやりやすいんじゃないかって、思ったんです」

 侯爵軍は、正直東門にいる魔物達と戦うので精一杯だ。
 終わった後の事を考えるなら、他にいる魔物達を減らしておいた方が、その後の整理を安全に行う事ができるんじゃないかと思ったんだ――。


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