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カイツさんからの盾強化案

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 カイツさんの提案された通りにワイバーンの皮を張り付けて、ちゃんとした物でなくても、鎧とかの防御性能が上がるのなら確かにありがたい。
 けど、戦いに参加する兵士さん達の数は千を越えるわけで……貼り付ける作業がどれくらいかかるかわからないけど、全員に行き渡らせる事はできないだろう。

「まぁ、一部の前線に出る人用の鎧に、というのならできるかもしれませんけど」

 石壁から打って出て戦う人に対してのみであればなんとか……それでもやっぱり、全員には難しいと思うけど。

「まさにそこで、私も前線に出る者達にと考えておりましたが……考えていたのは鎧ではなく、盾です」
「盾?」
「鎧と違って、盾であれば張り付ける作業も簡単になりましょう」
「確かに……」

 盾であれば、鎧のように関節部などの細かい部分がなく、表面に張り付けるだけだから、時間もそんなにかからないだろう。

「魔物達の中には、魔法を使う魔物も多いと。ワイバーンの鎧を身に付けた王軍の兵もいるようですが、通常の鎧ですと無防備すぎます」
「それは確かに……一番、どうしようかと考えていた事でもあります」

 石壁をどれだけ強固にしたところで、それを越えるように魔法を放たれたら意味がない。
 魔法なら空から降り注がせる事ができるから、そちらに対しては無防備だ。
 最悪、エルサや俺が結界でなんとかと思っても、戦闘中に全てを守れるかわからない。
 俺はヒュドラーと戦うし、エルサは飛び道具強化の魔法を使うんだから。

「以前の戦闘で、盾部隊なる者達を編成しておりましたが……」
「そうですね」

 マックスさんを隊長にした、盾で魔物を抑えたり押し返したりする部隊だ。

「その者達が使っていた盾であれば、明日までには全てワイバーンの皮を張り付けられると。壁を介して戦う者も、壁の外で戦う者も、両方に応用できます」
「成る程……」
「あの巨大な盾なら、並べれば壁にもなれるわ。カイツにしては考えたわね」

 フィリーナの言う巨大な盾……タワーシールドと呼ばれる、人よりも大きい盾の事だ。
 構えて止まっているだけなら一人で運用できるけど、乱戦などには重すぎて取り回しができないために、向かない盾。
 だけどその盾を横に……それこそマックスさんがやっていたように並べて使えば、フィリーナが言う通り壁にれるだろう。
 扱いが限定されるため、不人気な盾ではあるけど。

 この世界、冒険者が魔物と戦う事を想定する場合が多く、武具店では人気の装備って言うのがはっきり別れる。
 カイトシールドやヒートシールド、ラウンドシールドなどの、個人で扱いやすい物が人気だ。
 一部、盾に殺傷能力を持たせた、スパイクシールドなんてのもある。

 タワーシールドは、その名の通り塔のように大きな盾で高さ二メートル以上の物で、当然思い。
 けど、表面が複雑な物が少ないからカイツさんから話を聞いただけでも、確かに簡単に張り付ける事ができると思う。

「私にしてはは余計だ、フィリーナ。これでも私だって、この場面を生き残る方法、人間への被害を減らす方法を考えているんだ。我らエルフも、この国の一部になっているのだから、国の不利益は我々エルフへの不利益にも繋がる。……エヴァルトから、よくよく言われたよ」
「まぁ、それもそうね。私はもちろん、全力で協力するつもりだけど……私達の集落が、村として認められたことは、こういう効果もあるのかしらね」

 エルフの村は、姉さんが承認して正式に村になっている。
 だから、国の庇護を得られるし国のために動く事もある。
 それがこうして、エヴァルトさんに言われたからだとしても、協力しようと考えてくれるようになっただけでも、効果はあったのかもしれないね。

「それでカイツさん、盾にワイバーンの皮を張り付けるとして……どれくらいの効果になりそうですか?」

 これは重要で、ほんの少し程度なら余計な手間と言われかねない。
 大幅な防御力アップが見込めるなら、やってみる価値はかなりあるだろうけど。

「実際に盾に張り付けて、試してみなければわかりませんが……数枚重ねて私が処置すれば、簡易的な魔法具になり得ます。魔力はクォンツァイタが大量にありますから問題ありません。効果は耐火性能が主に強化される事は、間違いないはずです」
「魔法具に……」
「理屈は魔法鎧に似ているわね。魔力を通す事で、盾その物と張り付けたワイバーンの皮を強固にできるんじゃないか……と話を聞いていて私も思ったわ」

 魔力を通す事で、というのは俺も似たような感じだからよくわかる。
 詳細はわかっていないけど、何にも変換していない純粋な魔力は、物体を硬くする効果があるらしい……次善の一手もそうだし、俺が滲み出している魔力もそうだ。
 まぁ、魔力が衝撃などを受け止めてくれているのも、あるんだろうと思う……多分だけど。
 しかもワイバーンの皮なら、元々硬くて耐火性能があってそれが向上するというのなら、微々たる効果えでゃないんだろう。

「わかりました。それじゃカイツさんは、盾の強化にワイバーンの皮を使って下さい。えっと……シュットラウルさんの所に行けばいいかな?」

 盾を改造にするにしても許可を取らないといけないし、カイツさん一人で全てできるわけでもない。
 まずは許可を得るために話をしないと……俺が独断で全ての許可を出せるわけじゃないからね。
 シュットラウルさんなら、すぐに許可を出してくれると思うけど。
 少しでも被害を減らし、それでいて魔物を倒せる可能性を考えてくれているはずだから。

「畏まりました。全力で、私の研究の成果をお見せいたします……」
「皮を張り付けるって、研究の一環だったんだ」
「カイツはぶれないわね。まぁ、役に立てるのなら研究していた甲斐があったってところかしら」

 いつの間にそんな研究をしていたのか……ワイバーンを味方に引き入れてからかな?
 いや、センテでの戦闘が開始される前、俺がワイバーンを調べてもらった時からかもしれない。

「それじゃカイツさん、よろしくお願いします」
「はい、お任せください」

 万全とは言えないけど、防御面の強化は急務だ。
 シュットラウルさんの許可はまだだけど、盾の強化をカイツさんに任せて、昼食を終えた――。


 ――昼食後は、盾強化の許可をシュットラウルさんに取り、北の駐屯地にいるワイバーン達にも話をした後、もう一度東門の外へ。
 東門と石壁の間……他の作業がある兵士さんや冒険者さんを除いて、センテ周辺の全ての戦力が集まりつつある。
 ワイバーンも同じくだ。
 アマリーラさんとリネルトさん達は、ワイバーンに乗って偵察しているみたいだけど。

 ちなみにシュットラウルさんは、少しでも魔物に対する有効な手立てがあるのならと、二つ返事で許可を出していた。
 今、一部の兵士さんと盾をかき集めて、駐屯地近くでワイバーンの皮を張り付ける作業を開始している。
 北側は元々、武具店が集まっていた場所で兵士さんや冒険者さん達に、武具の補給から修復まで行っている場所だからね――。


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