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現状の戦力確認
しおりを挟むカイツさんが作業を開始した北側では、武具店の人達が全員じゃないけど、鍛冶技術のある人達はいつでも逃げ出せる準備をしてありながら、協力してくれているらしい。
ヘルサルからも多少は応援が来ているらしく、カイツさん指揮の下、盾の緊急強化に駆り出されている。
これまでの戦闘で傷付いた武具の修復や交換も行いながらだから、どれだけできるかは皆の頑張りに罹っているみたいだけども。
カイツさんと一緒にいたフィリーナは、今魔法鎧の調整に参加しているらしい……今は、マックスさんやヤンさん、元ギルドマスターと一緒に、最終調整をしているとか。
「やはりと言うべきか、逃げ出す者もいるようだな」
「仕方ありません。続く戦闘で疲れ果てている者も多いですから。そこからさらに、これまで以上に強力な魔物が襲ってきている……」
決起集会みたいなもので、新たな魔物と戦う前に士気を上げるため、総大将のシュットラウルさんと王軍指揮官のマルクスさんが、皆の前で檄を飛ばすらしい。
その間の、トップ陣の会話……シュットラウルさんとマルクスさん以外にも、ベリエスさんと侯爵軍の大隊長さんもいる。
……色々作戦を提案しているからだろうし、今更だけど、俺がここにいていいのか少しだけ疑問だ。
「そうだな。私もそうだが、リク殿がいなければもっと多くの者達がいなくなっていただろう。そうなれば、避難民を逃がすための防衛すらままならなかったかもしれん」
「えぇ。ですが、さすが正規兵。王軍と侯爵軍に逃げ出す兵はほとんどいないとか」
今話しているのは、一部の冒険者さん達が迫っている魔物達の話を聞いて、逃げ出した事に関してだ。
ベリエスさんから報告されて、シュットラウルさんとマルクスさんが苦い表情になっている。
まぁ、ほぼ見る機会のないはずの、Aランク相当の魔物が大量に、生きているうちに出会えば不運とすらされるSランクのヒュドラーが三体もいるんだから、逃げ出すのも無理はないと思う。
特に冒険者は、ある程度の指示はされても自由意思で参加しているんだし、敵わない相手と思ったら生きるために逃げるのが正解だって事もある。
ただ、兵士さん達の中にも逃げる人はいたみたいだけど、かなり数が少なくいんだとか。
「まぁな。私の兵達は、多くがリク殿と訓練や演習を。参加していなかった者達は別の者達から話を聞いている。演習でありながら、リク殿一人、そして後方に回ったリク殿と仲間たちに攻め立てられて、絶望的な状況を味わった。強力な魔物というだけで、恐れる者はすくない……恐れていないわけではないだろうがな」
「恐怖は私も感じておりますが、王軍はリク様を間近で見る機会が多く、ヴェンツェル様を交えて訓練している事も多かったですから。侯爵軍とは状況が多少違いますけど」
シュットラウルさんが頷き、マルクスさんと共に自分達の兵士から逃げる人が少なかったのを、誇らし気にしている。
二人共、俺との訓練や演習が関係していると言っているけど……そんなに絶望的な状況にしたわけじゃないと思うんだけどなぁ。
五百人の兵士が遠近含めて全力で攻撃して、全てを防ぐどころか反撃を加えたり、直接攻撃禁止で少人数で攻め立てた挙句、目立った成果もなくやられ放題だったりしたくらいだ。
……十分、絶望的だったかもしれない。
「正直な話、私自身も恐怖は感じます。ですが、それを抑えられている兵士達は褒めるべきでしょう。……冒険者ギルドでも、リク様にお願いして冒険者達を相手にやってもらうべきかと考えています。正式な依頼とすれば……」
「ベリエス、今は今後の冒険者の事でなく、今どうするかだぞ」
「これは失礼を、申し訳ございません」
俺に冒険者を……なんて言い出したベリエスさんを、シュットラウルさんが止めてくれて良かった。
依頼を出されたら、それくらいなら受けるつもりだけど、俺が皆の手本になるような訓練はできないと思うんだ。
それならまだ、ユノの方が良さそうだし……。
「今後の事を考えると、兵士達の方が先だからな」
「報告を聞けば、ヴェンツェル様も提案されるでしょう」
なんて、話を戻そうとしたはずのシュットラウルさんとマルクスさんが、俺を見てニヤリと笑う。
確かにヴェンツェルさんなら確実に乗り気になりそうな話だし、帝国との事を考えると、姉さんからも頼まれそうだ。
あれ? これ俺、逃げられそうにない……?
「えっと……そろそろ話しを戻しません?」
「ふむ、そうだな」
このままこの話が続くと俺の予定がこの先ずっと埋まりそうな気配だったので、無理矢理話を戻すよう提案。
シュットラウルさんが仕方なさそうに頷いたけど……今一番大事なのは、魔物達に関してですからね?
さっきベリエスさんにシュットラウルさん自身が言ったのに、と思わなくもない。
「侯爵軍は、長い戦闘で多少の疲弊はしているが……四百名ほどが残っている。そのうち、実質的に戦えるのは三百といったところか」
シュットラウルさんが、侯爵軍の把握している現状を俺達に話す。
侯爵軍は四百か……確か、それまでは五百とセンテに元からいた衛兵さん達で、少数ながら逃げ出した人もいるみたいだから正確な数はわからないけど、百人以上はやられているって事か。
街全体を大量の魔物に囲まれて、一カ月以上戦ていたのだと考えると犠牲は少ないと言えるんだろけど、それでも犠牲は犠牲だ。
喜ぶべき事じゃない。
「予想より数が多いのは侯爵様の手腕でしょう」
「いや、私がと言いたいところだが、他の者達も頑張ってくれた。リク殿のおかげでもある。怪我人の治療のおかげで、多くの兵士がいまだ戦える状態だ」
怪我人の治療で救えた命もある。
そして、重傷だけでなく軽傷でも戦える状態じゃなかった人が治療で、戦えるようになっているのも大きいか。
「王軍は、王都より駆け付けた千人。侯爵軍と比べて、戦闘に参加した日数は少ないため疲労は少ないでしょう。街外の魔物掃討でも、被害は出していません。荷駄隊も含めますと、千二百はいますが……実質戦えるのは九百といったところです」
王軍は後から来たため、疲労の蓄積も少ないし数も多い。
今回の戦いで、一番の戦力なのは間違いないだろう。
ちなみに、侯爵軍もそうだけど最大数よりも戦える人の数が少ないのは、後方支援があるため。
物資を前線に運んだり装備の交換や整備など、直接戦わなくても色々とやる事がある。
「冒険者からはセンテ、ヘルサル。それから各地より少数が集まり、当初は二百五十人でしたが……そのうち、逃げ出した者ややられた者を差し引いて実質的な戦闘参加できる者は百二十人程度ですな。正規兵と比べると、少ない数になります」
二五十人いたのが、今は百二十人……今日までの戦闘でやられた人を差し引いて、少なくとも百人近くは逃げ出したのか。
この数の中には、フィネさんやソフィー、モニカさんも入っている……元冒険者のマックスさん達は入っていないけど――。
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