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戦線離脱のアマリーラ
しおりを挟む咳き込んだアマリーラさんに声をかけ、無理しないよう説得する。
治癒魔法で怪我や毒は治ったとはいえ、失われた体力まで戻ったわけじゃないからね。
今は気を張っているから立ってられるだろうけど、気を抜いたら一気に動けなくなりそうだ。
とにかく休んで失った体力を取り戻してから、また戦って欲しい……。
「アマリーラさんは、重要な戦力なんですから。無理せず今は……回復してからの活躍に期待してます」
「リク様から期待……望外の喜びです! 承知いたしました! このアマリーラ、すぐに体力を取り戻して再び戦場に舞い戻ります!!」
舞い戻るとか、余計に体力遣いそうだし……休むのに意気込んでいたらむしろ疲れそうだけど。
まぁ、今すぐ無理をするわけじゃないから、とりあえずはこれでいいか。
「それじゃ、俺はヒュドラーとレムレースをなんとかします。トレジウスさん、アマリーラさんを頼みました」
「はっ! 身命を賭して、アマリーラさんを連れて後退いたします!」
こっちもこっちで、そこまで意気込まなくていいけど……と思うくらい、力を入れて敬礼までしているトレジウスさん。
うーん……まぁ、緊張を解している余裕はないし、とりあえずこのままでいいか。
ちゃんとお願いした事をやってくれるだろうから。
「あ、そういえばアマリーラさんが乗っていたワイバーンはどうしたんですか?」
「あのワイバーンは、陣の近くで休んでいるでしょう。戦闘開始後に、私が魔物に近付き過ぎたせいで、魔法が直撃してしまいましたので。リク様からお借りしているワイバーンを……申し訳ありません」
「ワイバーンなら、再生能力もありますから大丈夫ですよ。休んでいるなら、問題なく怪我も再生しているでしょうし」
そういえばと、一緒にいたはずのワイバーンが見当たらないと思ったら、怪我をしたから休んでいるという訳か……致命的な怪我ではないんだろうけど、今のアマリーラさんと似たような状況だな。
もしかすると、その魔法はリネルトさんが言っていた、魔物達の中にある怪しい場所付近での事かもしれないけど。
詳しい話などは、そろそろ多重結界の数が少なくなってきているようなので、今は聞かないようにして……。
こちらを何度も振り向きながらも、トレジウスさんに連れられて離れていくアマリーラさんを見送った。
「これでアマリーラさんは大丈夫っと。それじゃ手っ取り早くヒュドラーとレムレースを倒しますかね。えっと、先にレムレースの方がいいかな? 魔法の数も多いし」
「リク、ヒュドラーとレムレースが一緒にいるなら、手伝うの。リク一人じゃ大変なの」
「そうよ。いくらリクでも、あの魔物を同時に相手にするのは……というか、手っ取り早くどうにかできる魔物じゃないわ。リクがここに来るまでに、ヒュドラーは倒せているのはわかっているけど……手間取ったんでしょう?」
ユノとロジーナが、ヒュドラーとレムレースに向かおうとする俺に対し、協力を申し出てくれる。
ここに来るのがちょっと遅くなったから、ヒュドラーを倒す事自体に手間取ると考えての事だろうと思う。
気持ちはわかるけど……素手じゃなぁ。
ユノはマックスさんから譲り受けた盾があるって、あちこちが痛んでいてヒビ等こそ入っていないけど、それでも修理しないと使えなくなってしまうだろう。
周辺には、ユノとロジーナが捨てたであろう使い物にならなくなった剣が散乱しているから、激しい攻撃を耐えていたのはわかる。
一部は酸が降りかかったのだろうか、剣身が解けている物もあるから、剣を変えつつ足止めをしてくれていたんだろうね。
「ユノもロジーナも、武器持っていないから……ここは俺に任せて。俺にはこれがあるから」
そう言って、抜き身の白く輝く剣を見せた。
「さっきから気になっていたけど、なんなのよその剣は。そんな物持っていなかったでしょ。拾ったの?」
「魔法を斬って消していたの!」
ロジーナもユノも、興味津々に目をクリクリさせながら剣を見る。
こういう所は、裏表みたいな存在でも似ているんだなぁ。
「拾ったわけじゃないよ」
光を放つような剣を拾うって、どんな状況なのかと問いたいけど……まぁ、それはどうでもいい事か。
「これまで使っていた剣があったでしょ? あの剣の剣身が割れて、こうなったんだ。ちょっと小さくなっちゃったんだけど……ほら」
魔力吸収モードから、魔力放出モードに変えて剣身を伸ばす。
これ、剣身そのものが本当に物理的に伸びているわけじゃなく、要は白い魔力の剣が出ている状態みたいな感じらしい。
なんにせよ、黒い剣だった頃よりもむしろ切れ味が増していて、調整するのに慣れれば使いやすい剣だったりする。
……その代わり魔力消費は多くなったようだけど、でも魔力吸収モードにすれば多少補るし持っていても魔力が消費されないという利点もあるからね。
「長さが変わったの! すごいの!」
「どこの如意棒よ、長さが変わるなんて」
如意棒なんて知っていたんだロジーナ……。
「棒じゃないから、如意剣? いや、呼び名はどうでもいいだけど……とにかくこの剣は、魔力を吸収するとさっきみたいに魔法を消滅させられるし、魔物にも有効。今みたいに魔力を放出するようにすると、剣の長さが変えられるみたいなんだ……ん、ユノ、ロジーナ?」
簡単に剣の仕様を説明すると、ユノとロジーナが俺に背を向けるようにして、コソコソと話し始めた。
仲が悪そうに見えたけど、実は仲がいいのかな? まぁ、あお互いヒュドラーを足止めするのに協力していたから、それで打ち解けたのかもしれないけど。
というか、やっぱり魔法を消滅させるって驚くべき事なんだろうか? 剣が今のようになってからは当たり前に使っているけど……。
マックスさんやヤンさんも驚いていたからなぁ。
「魔法を消滅? そんな……でもリクなら? よくわからない魔力の塊で、私の神力を吸収していたし……もうリクならなんでもありね」
「そうなの。なんでもリクならで説明できるの。創造神と破壊神がというよりも、リクだからなの」
「それって神をも越えるって事じゃ……え、まさかリクって……?」
「しー、なの。多分そうだってだけで、確証はないの。とにかく今はリクだからって事で納得しておくの」
何を話しているのか、俺にはわからないけど……断片的には俺だからとかで納得しようとしているみたいだ。
モニカさんやソフィーもそうだけど、俺だからって理由になるのはちょっと心外かなぁ……これまでの事を考えると、自分でも少し納得してしまう部分があるけども。
「えーと……?」
「リクだから、どんな事が起きても、どんな事をしてもそれでいいの!」
「そ、そうよね。うん、私もそういう事にしておくわ」
そろそろ本当に多重結界が危険域で不味い事になりかけているから、戻って来て欲しいんだけど……張り直そうかな?
なんて思いながらユノとロジーナに向かって声を出すと、焦ってこちらを向いた。
ユノもそうだし、ロジーナもなんだけど……何かを焦っているような反応で、話していた内容が気になるな――。
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