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結界を破る方法の模索
しおりを挟む「このリクさんが作った結界を、抜ける方法を考えたいの」
「抜けるのだわ? この中にいれば安全なのだわ。この結界、前にリクがゴブリン達を消滅させた時の魔法でも、耐えられそうなのだわ」
「……そんなに強固なのね」
ヘルサル防衛戦、あの時リクさんが使った魔法はあれ以後見ていない。
リクさんはなんとなく使える気がしない……みたいな事を言っていたけれど、もし使ったとしてもあんなとんでもない、ゴブリンの大群を全て消滅させた魔法すら防ぐだなんて。
エルサちゃんが言っているのなら間違いないし、そこまでなのは予想外だけど、でもやる事、やりたい事は変わらないわね。
「とにかく、リクさんがなんでこの結界を作ったのかはわからないわ。けど、皆がここにいるなら、リクさん一人が外にいるって事なのよね」
「ロジーナもいるはずなのだわ」
「そ、そうだけどね」
決して、リクさんの事で頭がいっぱいになっていて、ロジーナちゃんの事を忘れたわけじゃないわよ?
「とにかく、リクさんにとってはこのままよりも、結界をどうにかして外に……せめてエルサちゃんとの繋がりを取り戻した方がいいと思うの」
「それは、私のためにも必要なのだわ」
そう私に答えるエルサちゃんは、けどやっぱり自分のためというより、リクさんのために繋がりを戻したいと思っている雰囲気だ。
言葉に出さなくても、人間よりも表情が読みにくくても、なんとなくわかる。
それくらい、私もリクさんとエルサちゃんの事をこれまでずっと見てきたんだから。
「先に聞いておくけど、結界がなくなれば、リクさんとの繋がりが取り戻せるのよね?」
勢いで話しているけど、そこは重要ね。
これで、結界がなくなったのに一度切れた繋がりは簡単には取り戻せない、とかだったら私の考えは無駄になる部分が大きいわ。
「もちろんなのだわ。結界で全てを遮断しているから切れてしまっているだけなのだわ。だから、ほんの少しでも……魔力が多少通るくらいの穴でもあけられれば、すぐに繋がりは元に戻るのだわ」
「それを聞いて安心したわ。それじゃ、なんとかして穴をこじ開けでもして、繋がりを取り戻しましょう」
「どうして、モニカがそこまでするのだわ?」
「だって、リクさんを信じている……信じたいと思うけど、やっぱり魔法が使えた方がリクさんにとって、有利になるわけじゃない? 当然、そうなると危険も減ると思うの」
リクさんの持っていた剣が、どれだけリクさんの事を守ってくれるかはわからない、それは一緒にいるはずのロジーナちゃんも同じ。
私が傍にいられたら……とは思うけど、私よりもロジーナちゃんの方が戦闘に関しては間違いなく、リクさんの役に立てるでしょうね。
悔しいけれど……。
ともあれ、リクさんがいくら強くても、どれだけ魔力があっても、魔法が使えないよりは使える方が戦いやすいのは間違いない。
今のリクさんはそれこそ、自分を守るための結界を作る事もできないのだから。
いわば、リクさんの生存率を上げるため……ってわけね。
それが必要かどうかはわからないし、実は結界の外にいても大した事はないなんてリクさんは言うかもしれないけど、さっきから一切晴れない悪い予感は、私にこうしろと言っているように思えたから。
「魔法が使えると使えないじゃ大違いなのだわ。例えそれで、周囲を失敗に巻き込んでもだわ」
「あー……ははは、まぁそういう事はあるかもしれないわね」
威力が強くなりすぎる……魔力量が多過ぎる弊害らしいけど、それで多少大変になる事はあっても、誰かが大きな怪我をしたとかはこれまでなかったわ。
だからって、どんどん失敗してなんて言うつもりはないんだけどね、近くで見ていて何度も肝を冷やされる思いをしたから。
「でもだわ、あの結界を破る……穴を開けるだけにしても一苦労なのだわ。あ、モニカの考えには賛成するのだわ」
「ありがとう、エルサちゃんならそう言ってくれると思っていたわ。でも、結界に穴を開けるのはエルサちゃんが全力でも、難しいの?」
エルサちゃん、やろうと思えばリクさん程と言わなくても、かなり強力な魔法が使えると思う。
同じドラゴンの魔法を使っているというのもあるんだろうけど、エルサちゃんの場合は失敗する事なく狙った効果をちゃんと発揮できるようだからね。
ドラゴンの魔法だからこそ、急に使えるようになったリクさんより、最初から使えるエルサちゃんの方が精通していて当然なのでしょうけど。
「難しいのだわ。今ある魔力を全部使ったって、針の穴すら開かないのだわ。話している間に少し探ったのだけどだわ……あの結界は、おびただしい数の結界を重ねて歪めているのだわ。十個や百個、突き抜けても全然なのだわ」
おびただしい数、というのがどれくらいかはわからないけれど……尋常じゃない事は伝わるわね。
百でも全然と言うのなら、数千とか? まさか万はないと思いたい。
とにかく、エルサちゃんだけではどうしようもないというのはよくわかったわ。
「私の次善の一手じゃ、傷一つ付かなかったし……ソフィーやフィネさんもさっき試して同じだった。私から言い出しておいてだけど、無理なのかしら?」
ソフィーやフィネさんも、もちろん次善の一手で結界に対して攻撃していたわ。
私もそうだけど……この戦いが始まってから、強力な魔物が多くて通常の剣や槍を通さないのも多かったから、武器を振るう時は魔力を這わせるのがほとんど癖のようになっているのよね。
特に私の槍は突きに全力を注ぐから、穴を開けるのなら剣や斧よりも適しているはずなんだけど、それでも傷を付けることはかなわなかった。
リクさんの結界だからと納得している反面、ちょっと悔しくもあるわね。
「次善の一手は有効なのだわ。見た目には傷なんてつかないのだけどだわ、結界はあくまで魔力で作られた物なのだわ。だから、魔力を使った攻撃は確実に結界にダメージを与えるのだわ」
「そうなの?」
「『一念岩をも通す』『一念天に通ず』という言葉があるのだわ。リクの記憶に会った言葉だけどだわ。つまり……」
エルサちゃんが言葉の意味も含めて、話してくれる。
一念……その言葉は私は聞いた事がなかったけれど、リクさんの記憶という事なら、この世界ではない場所の言葉って事ね。
いい言葉じゃない……特に一念って部分が気に入ったわ。
私のリクさんへの一念、想いは結界なんかに邪魔されないし、尽き通して見せるって気にさせてくれる。
……正直なところ、エルサちゃんの言っている事の半分くらいしか理解できなかったけれど、とにかく一点に集中するように力を加え続ければ、いつかは結界も破れる……かもしれないって事らしいわ。
「じゃあ、次善の一手で何度も突き込めば私の槍でも?」
エルサちゃんが言うには、結界はあくまで魔力で作られているため、次善の一手のような魔力を伴った攻撃であれば少しずつ形成している魔力を削ぐ事ができる、という話みたいね。
結界が耐えられない程の勢い、重さで攻撃すれば魔力を伴っていなくても壊せるらしいけど……以前、ユノちゃんがやったように。
けどそれは誰にでもできる事じゃないから、次善の一手ならと――。
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