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報告と少ない被害

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 結界への攻撃は魔力を撃ち込む事で、構成維持しているの魔力を乱して云々かんぬん……。
 とエルサちゃんは言っていたけれど、よく理解できなくても、回数を重ねれば破壊できるというだけで希望のように思えるわね。

「少しずつ削れるのは間違いないのだわ。問題は、それだけで壊そうとするなら途方もない試行回数が必要って事なのだわ」
「なら、私一人じゃなければ……?」
「どれだけ集中して、どれだけ威力と魔力をぶつけられるか、なのだわ。弱い魔法とかだと、ただ弾かれて効果は一切ないくらいなのだわ」
「……強力な攻撃を、続ける必要があるのね」
「そうなるのだわ。一度それなりの攻撃をしても、武器で当てられる箇所は狭いのだわ。結界全体を構成している魔力にとっては微々たるものだわ。だから、手を休めたら他の魔力が補ってしまうのだわ。全体の魔力は使用されて、維持の魔力も消費されるけどだわ……でも、リクが維持のために魔力を供給しているのなら……」
「少しずつ魔力を削る意味はあまりないってわけね」

 修復される前に、攻撃を続けてこじ開けなきゃいけない……ってところだと思うわ。
 一人でやっていたら延々と次善の一手を使い続ける事になるから、とてもじゃないけど実現は不可能。
 だけど、私一人ではなく二人、三人……大勢で取り掛かればもしかしたら。
 幸いここには次善の一手が使える人が大量にいる。

 頼りになる人達がいる……協力してくれればだけど。
 ソフィーやフィネさん、父さん達はきっと大丈夫。
 リクさんを助けるためと言えば、協力してくれるはず。
 ただ他の人達……特に、兵士よりも冒険者達がちょっと不安ね。

 結界の中で待っていれば、外でひしめく魔物は入って来れず絶対的に安全。
 それをわざわざこじ開けて、危険に飛び込もうなんて了承してくれるかわからないわ。
 けど、日頃リクさんの事を英雄ともてはやしているのだから、こういう時はリクさんのために動いてもらわなきゃ……なんて考えるのは傲慢かしら?

「モニカ! ほとんどの魔物が討伐されたようだ!」
「ソフィー、ちょうどとかったわ。あ、フィネさんもこっち」
「なんでしょう?」

 タイミング良く、結界内の魔物の討伐がほぼ終了したとソフィーから伝えられた。
 エルサちゃんとの話に集中していたから気付かなかったけど、いつの間にか周辺の魔物はほぼ動かなくなっているわ。
 若干、まだ生きている魔物はいるようだけど、それも兵士に囲まれて大分弱っているようだし、直に駆逐されそうね。
 簡単に周囲の状況を把握し、ソフィーとフィネさんを呼んでエルサちゃんと話した事、街や私達を包んでいるのがリクさんによる結界だという事。

 それから、この先どうするべきかを話して伝えた。
 二人共、期待通りリクさんのために協力してくれると二つ返事が返ってきたわ。
 やっぱり、頼もしい仲間だわ……フィネさんは冒険者パーティに入っていないけど、それでも一緒に戦ってきた仲間よね。


「ご報告します!」
「どうした!」

 ソフィー達と話した後、王軍を束ねるマルクスさんの所へ話にきたんだけど、結界の事やリクさんの事を伝えている途中で、一人の兵士が陣幕内に飛び込んできたわ。
 あの人は確か……街の人達の避難を誘導している兵士だったかしら。
 うん、そうね、鎧に包まれた腕部分に腕章を付けているわ。
 でもそんな人がどうして……ここに……何か西側であったのかしら?

「西の森から突如魔物が出現、潜んでいたものと思われます!」
「なんだと!?」
「西に……!?」

 報告に驚くマルクスさんと私……いえ、その場にいるソフィー達や父さん達も、驚いて目を見開いているわね。
 魔物は東から来ていた。
 だから、西へは戦えない人達がヘルサルへ向けて、避難を始めていたはず。
 そんなところに魔物がなんて……。

「魔物の中には黒い霧のようなものも、混ざっている模様。正体はわかりませんが、強力な魔法攻撃により被害が出ていました!」
「っ……! 被害の状況は!!」
「黒い霧……レムレース!?」
「西にもレムレースが出たと言うのか……馬鹿な……」

 黒い霧、そして強力な魔法攻撃と言えばレムレースしかいない。
 いえ、他にもいるのかもしれないけれど、現状で考えられるのはレムレースのみ……何せ、既に北と南で魔物達に混ざっていて、リクさんが討伐しされたのだから。

「被害は避難民数十名、誘導に当たっていた兵士数名となっています!」
「レムレースがいながらそれだけの被害……? ちょっとおかしいわね……」

 最悪の場合、今頃は伝令にきたこの兵士以外全滅……という事すら頭に浮かんでいたけれど、想像していたよりも少ないわね。
 いえ、被害になった人がいるだけでも、忌むべき事態なのには変わりないわ。

「……奇襲されていた割には、少ないな。待て、先程被害が出ていた、と言っていたか?」
「はっ! 西門に向けて放たれた魔法攻撃を、空を飛ぶ人? のような何者かが防ぎました。それから、土の巨人も現れて魔物へと攻撃を与え始めました」
「空を飛ぶ? 人がだと? それに土の巨人だと……どういう事だ、一体何が起きている!?」
「あ、もしかして……」
「リクの召喚したスピリット達なのだわ」
「そうよね、エルサちゃんもそう思ったわよね。というか、聞く限りだとそれしか考えられないわ。リクさん、この戦いが始まる前に召喚していたし」

 いつもリクさんの頭にくっ付いているエルサちゃんは、今私の胸に抱かれている。
 もちろん、体は小さくなっているわ……これからのために、魔力節約と言っていたけど、大きくなっているのも魔力が必要なのね。
 そのエルサちゃんと小声で話して、スピリット達だと確証を得た。
 私も一緒だったけど、センテを渦巻く何かを対処するためだったかしら、南門にいた魔物のほとんどを簡単に倒したスピリット達を、改めて召喚していたのよね。

 王軍の人達は、後から到着したから見た事はないのよね。
 でもあの人達? なら、レムレースがいてもなんとかなるんじゃないかしら。
 だから、想像していたよりも被害が少ないのだと納得したわ。

「その後、現在街を覆っているこの壁のような何かが出現。西門は今平静を取り戻しております! いえ、若干の混乱はあるでしょうか」

 まぁ、突然魔物に襲われたと思ったら、土の巨人とかが出て来て、さらに結界に覆われて……なんて、混乱して当たり前よね。
 それでも若干、というのが今の状況というか、リクさんが引き起こす何かに皆が慣れ始めているからなのかしら?

「そ、そうか……うむ、何が起こったのかはわからないが、被害が少ないのが救いか。混乱は致し方あるまい。だが、助けに入った者……なのか? それは一体どういう存在なのだ……」
「あの……マルクスさん。その助けに入った、土の巨人達ですけど……」

 報告を聞き終えて、一安心といった様子のマルクスさんはけど、スピリット達の活躍には理解が及ばなかったようで、深く考え込む。
 何も説明しないわけにはいかないので、皆の視線が集まるのを感じながら、リクさんが召喚したスピリット達への説明を、この場にいる皆に話して言ったわ――。


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