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凍り付く魔物達

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 リクさんが召喚したスピリット達について、一部の人は伝え聞いていたり、父さん達は知っていたけど……マルクスさんや報告に来た兵士は、知らなかったみたいで、リクさんがと聞いて納得していた。
 着々と、リクさんだからわけがわからない事があっても、受け入れて納得する素地ができ上がっていくのを感じるわ。
 リクさんにとっては、不本意かもしれないけれど。

「ご報告します!」
「今度はなんだ!!」

 スピリット達の話が終わり、とりあえず本題……結界をどうするかの話に戻ろうとした時、また陣幕内に飛び込んでくる兵士さん。
 着ている鎧のあちこちが汚れ、血がこびり付いている跡があるから、この人は魔物と戦っていた東側の人だろう。
 その証拠に、王軍の証が鎧に刻まれているわ……こびり付いている血は魔物の返り血ね、怪我をしているわけでもなさそうだし。

「またなのだわ……話が進まないのだわ……」

 エルサちゃんが思わず嫌そうに呟く気持ちもわかるわ。
 魔物を排除した結界内は安全だけど、結構慌ただしいわね……。

「突如現れた壁の外の魔物達が……動きを止めました……」
「は!? な、なんだと!?」
「魔物が!?」

 報告した兵士さん自身、信じられない事を自分でも言っていると自覚がある様子。
 マルクスさんも、私や他の人達も皆が驚いている。
 さっきまで、音や振動などは一切伝わって来なかったけれど、うっすらと見える結界の向こう側では、ひしめく魔物達が絶えず攻撃をしていたはずよね。
 なのに、突然動きを止めた……?

 一体何が起きているの? リクさんが何かをしたとかしら? でも、魔法は使えないはずで……。
 リクさんが何かをするなら剣で斬るとか、直接戦わなければいけないわ。
 それなら、動きを止めるとかではなく、いなくなったとか倒されたとか、そういう言葉になるはずよね。

「その……壁があるので、どうなっているかは確認できず。ただ、透けて見える限りではどうやら、凍っているようなのです」
「凍っている、だと? 次から次へと、訳が分からん事が起きているな……いや、私もリク様に同行した事がある身。よくわからない事が起きるのには、ある程度慣れたはずだ……」

 マルクスさん、何が起こっているのかわからず頭の中は混乱状態になっているみたい。
 無理もないわ……スピリット達の事は知っていたから、私やエルサちゃんは冷静に受け止められていたけど、今回の事は予想すらしていなかった事だから。
 エルサちゃんも、二人目の伝令が入ってきた時は嫌そうにしていたのに、今は口をあんぐりと開けているもの。
 ……キューが簡単に入りそうね、エルサちゃんなら喜んで丸呑みしそうだけど……って、私もこんな事を考えているのは、やっぱり頭の中が整理されていない証拠ね。

「と、とにかく確認を……モニカ殿、お話の途中ではありましたが……」
「いえ、確認したいという気持ちはわかります。というか、確認しないとどうなっているのかわからず、どうしていいかも決められませんから。私も行きます」
「……そうだな。俺も行こう」

 確認したからといって、どうなっているのかわかるとは限らないけれど……。
 とにかく、報告された事を実際に見るために、マルクスさんに付いて私やエルサちゃん。
 他にもソフィー達や父さんと母さん、それから他の人達も一緒に陣幕を出て結界部分へと向かった。
 結局、伝令してくれた人も含めて、全員で行動する事になったわね……。


「あぁ、モニカ。ソフィー達やマルクス殿達も……」
「フィリーナ殿、どうなっているのだ?」
「私にも何が何やら……」

 確認に向かった先、一番近い結界部分……私やソフィー達がさっきまで戦っていた、つまり最前線だった場所に到着すると、フィリーナが困った表情で結界の外を見ていたわ。
 私達に気付いて振り向き、手を挙げるフィリーナは、どこか疲れている様子ね。
 多分、色んな事が一気に起こって状況の把握に大変だからだろう……それでなくてもフィリーナは、その目を通して遠距離攻撃の狙いを定めて指示する役目や、突撃した時に攻める部分を見定めていたんだから、肉体的にも精神的にも疲れるのも無理はないわ。

 私だって疲れを自覚はしているけど、それは肉体的な疲れくらいだし。
 今は、リクさんのためと考えて行動しているから、疲れなんて気にしている暇はないんだけれど。

「確かに、凍っているわね……」

 結界に張り付いて外を見ると、報告通り魔物は一切動いていないのが目に入る。
 動いていない、というよりも白く凍り付いているというか、そこに氷像があるだけのようにすら見える。
 まるで、誰かが魔物を模して精巧に作った氷ね。
 だけど、いくら魔法を使ったって、こんな精巧な氷像は通常では作れない。

「エルサちゃん、どう?」
「結界で遮られていて、わからないのだわ。ただ、これだけの事ができるのは、リク以外にいないのだわ」

 何か探れるかもと期待して、エルサちゃんに聞いてみるけどそちらもわからなかったようで首を振っていたわ。
 結界は魔力すら遮断するから、探ろうにも探れないのは仕方ない。
 あと、こんな事通常ではできないと考えたら、エルサちゃんと同じ結論に私もなるし、頬までくっつけて外を見ている父さんや、それを注意する母さん、それからソフィー達やマルクスさん達も同じ意見のようで、頷いていたわ。

「フィリーナの目は、どう捉えているのだわ?」

 魔力は通さなくても、フィリーナなら目で見れば魔力を見通す事ができる。
 だから、エルサちゃんはフィリーナに聞いたみたい。

「私の目……そうね、魔力の塊のように見えるわ。それも、魔物が持っている魔力じゃないわね。一つの何者かの魔力で、今の状況になっている……ってとこかしら」
「それじゃやっぱり、リクさんがって事になるわね」
「強大な魔力でしか成し得ない……エルフだとしても絶対に不可能よ。まぁ、そうなるとリクしかいないわよね」

 一つの魔力、という時点で確定ね。
 エルフでもなし得ない魔力を持っている何者かなんて、リクさん以外いないじゃない。
 いえ、ツヴァイとかクラウリアさんとか、一部人間どころかエルフすら凌駕する魔力量を持っていたけれど。
 だからといって、こんな事ができる程とは思えないものね。

「一体何が起きているのか……いや、これがリク様の行われた事なのであれば、安心していいのか……」

 そう呟くのはマルクスさん。
 他の皆も、同意するように頷いているけど……でもなんでだろう。
 結界の外の凍った魔物達を見ていると、むしろ私の中にある悪い予感は、さらに膨れ上がっている気がするの。

 いえ、気がするじゃないわね……その悪い予感、冷たい何かは確実に私の心に広がって、このまま放っておいてはいけないと警鐘を鳴らし続けているわ。
 それはもはや予感というものではなく、確信に近い何かのように思えた。

「この様子なら、いずれ結界がなくなるまで待つのが良いのだろうか……こちら側の魔物は今はおらず、外の魔物は凍っているから、確実な安全が保証されているようなものだ」


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