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結界外の異変

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「本当に、そうでしょうか?」
「どういう事ですか、モニカ殿?」
「いえ、安全なのは間違いないと思うんですけど……魔物が凍っていなくても、破られる事はありませんから。でもそれなら、どうして結界はまだ現状のままなのかなって、思うんです」

 マルクスさんの考えに疑問を呈し、考えを話す。
 結界の中が安全、これは間違いないはず。
 けど、魔物達が凍っただけで脅威が去ったのなら、結界がまだそのままというのが気になる。
 それはつまり、まだ私達を守っておかないといけない何かがある……という事に繋がらないかしら? あとそれ以外にも……。

「私も、モニカと同じ疑問を感じるのだわ。結界がそのままなのは、魔力が残っているからだろうけどだわ。でもリクなら、解決したらあのいつも暢気で何も考えていないような顔を晒しに、さっさと戻ってくるのだわ、多分」

 暢気、というのにはちょっと同意するけど、何も考えていないような顔ってのは、少し酷いわねエルサちゃん。
 リクさんとエルサちゃんの中の良さを知らなかったら、むしろ嫌っているんじゃないかと思えてしまうくらいの言い草よ?
 結界に対する私の疑問は、特に意味のない事だったみたいだけど……。

「結界が残っている事はともかくとして……」

 自分の疑問が見当違いだった事は、とりあえず放り出しておくのがいいわね。

「リクさんは今、魔法が使えないはずなのよ。それなのになぜ、魔物を凍らせるなんて事ができたのかが……」
「そうなのだわ、そこなのだわ。魔力弾、くらいなら使えるかもしれないのだけどだわ。でも魔物を凍らせるなんて魔法、使えるはずがないはずなのだわ」
「ふむ、エルサ様とモニカ殿がそう言うのなら、その通りなのでしょう。先程も魔法が使えないと聞きましたが、これを見る限りではとてもそうは思えませんな……いえ、疑っているわけではありません」

 マルクスさんはエルサちゃんや私達とも、行動を共にしていたから……正確には、陛下から命じられてリクさんに付いていたわけだけど。
 その頃の事があって、リクさんだけでなく私やエルサちゃんが、嘘を言ったりどうでもいい事を言って、場を混乱させるわけじゃないのはわかってくれているわ。
 だからこそ、魔法が使えないと思えないというのは、私達への疑いではなく、何かがあるという意味なんだろう。

「マルクスさん、次善の一手を使える人達を集める事ってできますか?」
「中断された先程の話の続きですね。ふむ……なんとかしてこの結界を破る、というわけですか……」

 さすがマルクスさん、大隊を任されるだけあって理解が早いわ。
 この場合は、リクさんを含めた私達への理解があるから、のような気がするけどね。

「もしリクさんに何か異変が起こっているのだとしたら、私達じゃ力不足かもしれませんけど……それでも何かしたいと思うんです」

 そうしていないと、悪い予感や確信に耐えられそうにないから。
 リクさんに何かがと思うだけで、いても立ってもいられない。
 それが私にとっても、何よりリクさんにとっても大事な事に繋がると信じて……。

「現在結界内に魔物がいなくなりましたので、兵士達の手は空いています。ただ王軍は私の一存で動かせますが、侯爵軍からはシュットラウル様にお伺いしないと。多くの人が必要そうですから……」

 結界内を見渡し、結界のを外を見て、さらに時折触れて確かめて考えながらそう言うマルクスさん。
 リクさんの結界は見た事が……いえ、本来目には見えないけれど、それでも私達より回数は少なくても近くで感じた事があるのはマルクスさんも同じ。
 結界を破ろうとするのに、数人程度では不可能で群を動かす必要がある事まで、すぐに察してくれたみたいね。
 どれだけの人が集まるかわからないけれど、人は多ければ多いほどいいわ……。

 まったく、ヒュドラーを始めとした強力な魔物を迎え撃つための軍と冒険者達なのに、味方のはずのリクさんの魔法を打ち破るために協力しなくちゃならないなんて。
 私達を守ろうとした結果、今の状況になっているというのはリクさんを近くで見てきたからわかるけど、一つの魔法から抜け出すのに、大量の魔物に対する人達が動くなんて、規格外にもほどがあるわよ。
 無事にリクさんが戻って来たら、色々言わなきゃ気が済まないわ……私だけじゃない、エルサちゃんやソフィー達、マルクスさんを含めた皆が頑張っているんだから。
 だから、どうか無事でいて……リクさん。

「とにかく、今すぐシュットラウル様に現状の報告も合わせて、伝令を……」

 適当な兵士を呼び寄せ、侯爵様への報告やお願いなどをする伝令を任せようとしているマルクスさん。
 ついでに数人、王軍に召集をかけるように手配している手際は、さすが大隊長の貫禄と言えるわ。

「その必要はないぞ、マルクス殿!」
「……シュットラウル様!? どうしてこちらに……?」
「侯爵様!?」

 突然響いた野太い声……何度も聞いた事のある声、リクさんがいない間、魔物達と戦う相談などをよくしていたから、覚えて当然ね。
 声のした方を見ると、そちらには見覚えのある大柄な男性の姿、マルクスさんや私も、他の皆も驚きながら予想通りの人の姿、シュットラウル侯爵様がそこにいた。

「私が呼んだのだ。全てを覆う壁ができてから、リネルトやワイバーンも飛ぶ意味がなくなったからな。リク様のお姿も見えないし……念のため報告や相談のために動いていた」
「アマリーラさん」

 腕を組んで何故か鼻息の荒いシュットラウル様の後ろ、大柄な体に隠れていた女性が私達の前に現れる。
 それは、小柄で耳と尻尾を付けた可愛らしい女の子……ではなく、実力では確実に私達以上のアマリーラさん。
 ……可愛らしい、というのは本当だけどね。
 何度か見たけど、小柄な体で大剣を父さんみたいに豪快に振り回す人物。

 ユノちゃんとロジーナちゃんもそうだけど、小柄なのに軽々と武器を振り回す女の子が多過ぎないかしら? アマリーラさんは、女の子というより女性という感じだけれど。
 私もそれなりに重量のある槍を持っているけど……アマリーラさん達を見ていて、何度も自信をなくしそうになったわ。
 ソフィーの方は、リネルトさんの身軽な戦い方が理想らしくて、そちらはそちらで自身を打ち砕かれそうになっていたみたいだけどね。

「モニカ殿、やはりこの壁はリク様の結界で間違いないのか?」

 結界に近付いて示しながら、確認するアマリーラさん。

「あ、はい。そうです。エルサちゃんもそうだって言っていましたし、魔法であればこんな事ができるのはリクさんしかいませんから」
「なのだわ」

 アマリーラさんの質問にエルサちゃんと一緒に頷く。
 例え結界と同じような事ができたとして、街全体を覆いながら強固さを保っていられるなんて、エルフが村単位で集まって魔力を集中させても無理な気がするわ。
 リクさん以外に、できる人がいないのは間違いない。
 私達の頷きを確認して、アマリーラさんがスッと自然とも思える動きで結界へと近付いた――。


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