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決死のアマリーラ
しおりを挟む「もちろんだ。モニカ程の強い気持ちはなくとも、私達の冒険者パーティのリーダーだからな。迎えに行かなくては」
「私は同行者として、そして冒険者としてご一緒させてもらっています。冒険者らしい活動はそこまで多いとは言えないかもしれませんが、リク様がいなければ同行している意味が薄まってしまいますからね。任せて下さい。必ず道は切り開きます」
帰って来る二人の頷きと言葉。
私達の冒険者パーティ……ニーズヘッグ。
パーティとしての活動がおろそかになり過ぎていて、名前を忘れそうになるくらいだけど……でも、リクさんはそのパーティのリーダー。
もし今後クランを作る事になっても、それは変わらない、というソフィーの気持ちね、多分。
フィネさんは、フランク子爵を通しての同行者だけれど、今ではほとんど一緒のパーティのようなもの。
リクさんを見て今後の参考に……のような事を言っていたけれど、エアラハールさんの訓練も一緒に受けたし、もう仲間と言っても過言じゃないわ。
コルネリウスさんだったかしら? あのフランク子爵からは想像できないくらいの我が儘放題に育った、ドラ息子と一緒にいた時に出会ったけど、その時からは考えられないくらい仲良くなったわねぇ。
まぁ、出会った時にあれな感じだったのはコルネリウスさんだけで、フィネさんともう一人の冒険者はまともだったけど。
なんて考えている間にも、状況は進む。
「モニカ、行くのだわ」
「えぇ」
エルサちゃんの言葉で、狙うべき結界を見据えて武器を構える。
同じく、ソフィーやフィネさんもそれぞれ剣と斧を握りしめて、いつでも駆け出せるように構えたわ。
「ソフィーとフィネは、私とモニカの援護。周りの結界を攻撃して割るの。私とモニカは、皆がなんとかこじ開けられそうにまでしてくれた場所を重点的に攻撃するの!」
「えぇ、わかっているわ!」
前もって話していた事。
ソフィーとフィネさんはこじ開ける場所から近い部分へと攻撃を加え、最低でも数枚の結界を割る。
そして私は、ユノちゃんと一緒にアマリーラさんが見つけるはずの弱っている場所へ重点的に攻撃。
次善の一手どころか、最善の一手を軽々と使えるユノちゃんが一番、結界を破る力があると思ったのだけれど、槍を持ち、そしてリクさんとの繋がりを考えると私が一番最適だと言ってくれ、任せてくれたわ。
リクさんとの繋がり、時折本当にあるのか少し疑ってしまう自分がいるけれど、ユノちゃんを始めとした皆は、私が一番あると言ってくれる。
エルサちゃんはまた特別だけれどね。
でもだからこそ、私の頭にエルサちゃんがくっ付いているのだろうし、それは私がずっとリクさんに対する想いを抱え続けていた結果でもある……らしいわ。
自分じゃあまり実感のようなものはないけれど。
「うにゃあああああああ!!!」
「っ!?」
突然、辺りに響く雄叫び……驚いて声のした方を見ると、アマリーラさんだったわ。
猫らしい獣人だからこその叫び、なのかしら?
ともかくアマリーラさんは、ダメ押しなのかロングソードを振り上げ、結界に……いえ、違うわ!
「あれは、マルクスさんが折った剣の先!?」
「素手でなんて……」
両手剣でもあるロングソードを、右手一本で軽々と振り上げているのはアマリーラさんだからともかくとして、いつの間にか左手には、折れた剣先が握られていた。
それは、マルクスさんが折ったショートソードの剣先……当然、柄などはないので素手で握れば手を怪我してしまう。
なのにアマリーラさんは、おそらく肉に食い込んでいるであろう剣先を持ち、食い込んでいるヤンさんの武器の刃がある部分へと、さらに突き込んだ!
「に、にゃああああああ!!」
もう一度響く、アマリーラさんの叫び声……それは、痛みからなのか意気を込めているのか。
突き込んだ剣先は少しだけヤンさんの武器の刃を押し込み、結界に食い込む。
一部に赤い血が付着しているように見える剣先へ向けて、振り上げたロングソードを撃ち込んだ!!
「あ、割れ……た?」
「剣が割れたのだわ。どんな力、なのだわ……」
弾けるような音と、散らばる破片。
それは食い込んでいた剣先が、撃ち込まれたロングソードによって破壊された物だった。
エルサちゃんですら少し驚いている様子を隠せない程、強い力だったのだろう……剣を折る、ではなく割るなんて尋常じゃないわね。
巨大な剣すら軽々と振り回すアマリーラさんだからこそ、かしら。
「深く食い込んだのだわ! さらに結界が割れたのだわ!」
そして、割れた剣先を過ぎ去ったロングソードは、これまで見たどんな攻撃よりも深く、結界へと食い込む。
けどそれも一瞬。
剣の半ばくらいまで深々と突き刺さった剣は、加えられた力に耐えられなかったのか、自壊してバラバラになって行った。
「……今よ! 深く刺さった剣、そ個が一番結界が弱っているのは間違いないわ! 行くわよ、ユノちゃん。ソフィー、フィネさんも!」
「行くのー! リクの結界を破壊してやるのー!」
「応!」
「了解しました!」
食い込んだアマリーラさんの剣はバラバラになり、結界の内部には残らなかったけれど、それでも複数枚の結界を割り、さらにヤンさんの武器の刃を奥まで押し込んだ。
さらにそこへ攻撃が加えられれば……! 好機を逃さないように、ユノちゃん、ソフィー、フィネさんに声を掛けて、ついに私達も駆け出した!
「モニカ、持って行って! 私とカイツの使っていたクォンツァイタよ! 私達にはさっきのような魔法を使う余力はないし、クォンツァイタにも残っていないけど、それでも多少は魔力が蓄積されえているわ! 何かの助けになるはずよ!」
「ありがとう、フィリーナ! もらって行くわ!」
途中横を通り過ぎる際に投げて寄越された、二つのクォンツァイタを受け取る。
あれだけの魔法を、何度も使っていたんだもの……フィリーナ達にも、そしてクォンツァイタにも残っている魔力は少ないんだろう。
それでも、結界を破るための一手として使えるなら……。
「魔力が残り少ないクォンツァイタか……」
走りながら、懐にフィリーナから受け取ったクォンツァイタをしまう。
魔力を蓄積していくごとに、色が濃くなり変わって行く性質を持つ鉱石。
私の籠手に取り付けた物は、濃い紫に近いピンク色をしているけど、フィリーナ達のクォンツァイタは透明に近いピンクだった。
フィリーナのように、魔力を見る目を持っていないから残りがどれだけかはわからないけど、色の薄さで蓄積された魔力の残りが少ないのがよくわかる。
一応の予備にもできるけど……何かに使える事があるのだろうか?
「アマリーラさん、後は私達が!!」
「こんの! リク様の! ための! 道を! 開けろぉぉ!!」
結界までの道を走り、程なくアマリーラさんの所へと辿り着く。
そこでは、ロングソードを失ったアマリーラさんが、拳から血を迸らせるのすら構わず、打ち付け続けていた。
声を掛けても、夢中になっているのか……トランス状態、興奮状態というのかしら、私の声にも気付かない様子ね――。
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