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ソフィーとフィネの攻撃
しおりを挟む「父さん達、アマリーラさんを引き離して!」
「わかった!」
「くのっ! このぉっ!」
魔法鎧を着た父さん達に頼んで、拳を振り回すアマリーラさんが掴まれて運ばれて行く。
結界から離れ、虚空へとおk節を繰り出すアマリーラさん……少し前は結界に対して頬擦りをするくらいだったのに。
結界を攻撃する事がリクさんのためになるかも、とわかったから正気を失ったような状態になるまで攻撃していたのね。
それだけ、リクさんを慕っているって事ね……慕っている、でいいのよね? あれは。
「行くぞ、フィネ!」
「えぇ! ソフィーさんも遅れを取らないように!」
「もちろんだ!」
アマリーラさんが連れて行かれた直後、私の左右にいたソフィーとフィネさんが声を掛け合い、結界へと走る速度を上げる。
それぞれ、剣と斧を構えており、ここぞとばかりに力を込めているように見えるわね。
多分、これまで見るしかできなかった状況で、溜まりに溜まった鬱憤みたいな何かを全力で吐き出すつもりなんだと思うわ。
……そう考えると、結界って壊れても片付けなんて必要ないし、当然反撃もないから……何も遠慮せずに攻撃をするにはいい的なのかもしれないわね。
まぁ、リクさんかエルサちゃんしか使えないから、気軽に試す事はできないけど。
「おぉぉぉ!!」
「はぁっ!!」
私が目標にしている箇所、マルクスさんを始めとした皆が深く傷つけて穴まであけてくれた場所、そこから少しズレた部分に、ソフィーとフィネさんが大きく振りかぶった武器を打ち付ける。
二人共、当然のように次善の一手での攻撃ね。
「っ!」
「いくつか、結界が割れたのだわ」
リクさんと一緒にいると忘れがちだけれど、高価であまり見る機会の多くないガラス……そしてさらに聞く機会の少ない、ガラスの割れる音。
それに近い音があたりに響き、思わず顔をしかめたわ。
これまで、何度も離れた場所で聞いていたけど……これが結界の割れる音なのね。
距離があっても多少聞こえていたくらいだから、近くで聞くとかなり大きな音になるのは当然なのに、少し驚いてしまったわ。
「これまでの攻撃で薄くなって、弱まっていたからだわ。予想より少し多めに割れているみたいなのだわ」
「それは、ソフィーやフィネさんが全力を込めたって事でもあるんでしょうね。ユノちゃん!」
「わかっているの! 行くの!」
結界に走るヒビ割れ……そのおかげかもしれないし、全てをぶつけたソフィー達が予想以上に凄かったって事かもしれないわ。
エルサちゃんに答えながら、隣を走るユノちゃんに声を掛けると、直後に加速。
私を置いて、結界に向かって思いっきり駆ける。
「なー……のーーー!!」
ちょっと力が抜けてしまうような掛け声で、走り込んだ勢いのままユノちゃんが、ヤンさんの武器の刃が埋め込まれている部分を、剣で斬り付ける。
それまでの、そして他の人達の攻撃とは違い、ユノちゃんの剣はまるでそれが結界ではなく、布でも裂くかのようにすんなりと結界深くまでを断ち切ったわ。
「あれ? もしかして私達いらないんじゃ……? ユノちゃんだけでいいんじゃないかしら?」
そう思わせるくらい、軽々と結界を斬るユノちゃん。
これが最善の一手なのかしら……要領は似ているらしいけれど、根本的に威力が違うのね。
そういえば、お手本でエアラハールさんが使ったのを見た事はあるけれど、ユノちゃんが使うのを見るのは初めてだったわ。
確か、リクさんが言うにはルジナウムでの戦いのときに使っていたらしいけど、その時私はユノちゃんの近くにはいなかったし。
「そうでもないのだわ。結界は破壊すれば割れるのだわ。けど、ユノがやったのは切れ味が良すぎて、割れていないのだわ。だから、あのままじゃ通り抜けられないし、通れるくらいの大きさを斬り取ろうとしていると、他が修復してしまうのだわ」
「そ、そうなのね……」
確かに、他の人達が攻撃した時、結界に大きな影響を与えられたら、ガラスのように割れた音が響いていたわ……視覚的には、よくわからなかったけれど。
でも、ユノちゃんの最前の一手は割れるどころかなんの音もせず、ただただ綺麗な直線に斬れているだけ。
人が通れるくらいの大きさに斬り取るにしても、分厚い結界の壁だから、何度斬り付ければいいのか……そんな事をしている間に、結界も修復されてしまうのでしょうね。
多分ユノちゃんが斬る速度の方が修復より早いけど、確実に通れるくらい斬り取ろうとするまでに、疲れてしまいそう。
ユノちゃん自身、ヒュドラーの足止めをして疲労は蓄積されているし、私達と違ってヒュドラーとレムレースが連携する魔法攻撃を避け続けていたんだから。
……リクさんと協力して、かなりいいところまでヒュドラーの首を斬って追い詰めた……ってのも、驚きだけれどね。
それだけの事をしているんだから、ユノちゃん一人で結界をどうにかできる力は、今残っていないのかもしれないわ。
「今度は私なのだわ。モニカ、後は任せたのだわ」
「わかったわ。お願いねエルサちゃん……これが終わったら、キューをたっぷり食べさせてあげるから!」
「リクはどうでもいいけどだわ、キューのために頑張るのだわー!」
私の頭からふわりと浮かんで離れ、走っている私に追従するエルサちゃん。
キューを理由にすれば、思う存分頑張れると思ったのだけれど……リクさんよりキューのためにという言葉を残して、ユノちゃんが再び最善の一手で結界を斬り付けようとしている場所へと向かったわ。
……本当はどうでもいいなんて思っていないくせに、リクさんとの繋がりが切れて、あれだけ慌てていたのに、素直じゃないわね。
そこがエルサちゃんの可愛いところでもあるけれど。
「はぁっ! せやぁぁぁぁぁぁ!!」
「せいっ! かぁぁぁぁぁぁぁ!!」
エルサちゃんが向かう先の左右、そこではソフィーとフィネさんが示し合わせたかのように、次善の一手で何度か結界を斬り付け、割れる音を響かせていた。
さらに、幾度も斬った部分が全て交差している箇所、そこへ剣の先、そして斧の刺先で刺突!
深々と内部まで食い込ませていたわ。
ソフィーの剣もそうだけど、フィネさんの斧もヒュドラーが迫る戦いに備えて、ワイバーンの素材を使った武器に変更されている。
それは、フィネさんが得意とする斧の投擲とは違い、長めの柄を持ち、さらに刺先……つまりスパイクと呼ばれる先端部分も取り付けられてるわ。
片刃なのは相変わらずだけど、ワイバーン素材の武器なんてもったいなくて投げられないものね……必ず回収できるならまだしも。
ともあれ、おかげでフィネさんもソフィーと同じように刺突ができるようになったってわけ。
それで、いくら他の人の攻撃に自分達の次善の一手があったと言っても、深く深く……これまで見た誰の一撃よりも深く突き刺したのは凄いわ。
「こちらも行くのだわー!」
ソフィーやフィネさん達の頑張りに負けないようになのか、意気込んだ叫びを発するエルサちゃん。
気合十分みたいね――。
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