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部屋を訪ねて来るモニカさん

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 眠そうなエルサに苦笑しながら、ドラゴンらしからぬ仰向けで油断しきった格好のエルサに対し、お腹の毛を乾かしてやりつつ、少しだけ無言の時間。
 魔法だから、本物のドライヤーみたいなファンの音がないから、静かでゆっくりとした時間が流れる。
 眠くなっているエルサへの配慮だ……もうほとんど目も開いていないし、話しかけるのは悪いからね。

「……ん?」
「だわぁ……?」

 そろそろエルサも完全に寝るかな? と思っていた頃、部屋の扉がノックされる。
 その音に、エルサも夢心地で寝言のような声を出した。

「……リクさん、ちょっといいかしら?」
「モニカさん? うん、いいよ入って」
「遅くにごめんなさい。って、邪魔しちゃったかしら?」

 ノックの跡に聞こえたのは、窺うモニカさんの声。
 音や声よりも、眠気に負けていくエルサにドライヤーもどきの魔法を続けながら、扉の向こうにいるらしいモニカさんに答えた。
 入ってきたモニカさんは、くつろぎ過ぎているくらいのエルサを見て、申し訳なさそうにする。

「エルサももうほとんど寝ているようなものだし、ほとんど乾かし終わっているから大丈夫だよ」

 エルサの毛はほとんど乾いていて、目も完全に閉じていてるし、かろうじて俺の声に前足がピクッと反応するくらいかな。

「そう……」

 気にしないでと笑いかけた俺に対し、ちょっとだけ硬い雰囲気のモニカさん……どうしたんだろう?
 っと、とりあえずエルサの方を終わらせないとね。

「ちょっとだけ待っていてね。うん、よし大丈夫っと。よっ……」

 モニカさんにそう言って、エルサの毛を確認……ちゃんと乾かし終わっていて、至高で究極のモフモフはちゃんと維持されている。
 寝息を立て始めたエルサを、ベッドに運んで毛布を掛ける。

「よし。……座って話そうか。あ、えっと……水でごめん」
「ありがとう、リクさん」

 エルサを寝かせたあと、部屋にあるソファーにモニカさんに座ってもらい、水差しからカップに水を注いで出す。
 謝る俺に、顔を綻ばせたモニカさんがカップを持って一口飲む……少しは、表情というか雰囲気が和ら仲くなったかな?
 こういう時、暖かいお茶が出せればいいんだけど、部屋の中に用意するための物がなかった。
 使用人さんを呼べばすぐに用意してくれるだろうけど、遅い時間に申し訳ないし……モニカさんを待たせるのも悪いからね。

「それで、俺に何か話があるんだよね?」
「えぇ……畏まった話というわけではないのだけど。どうしても寝る前にリクさんと話がしたかったの……」

 ベッドから少し離れたソファー、一つしかないのでモニカさんの隣に座りながら、俺も一口水を飲んでモニカさんを促す。
 畏まった話じゃないというけど、モニカさんの雰囲気はまた少し硬くなった。
 さすがにこの雰囲気で、宿に戻ってきた直後のアマリーラさんに関する話、というわけではなさそうだね。
 
「リクさん……その、ごめんなさい!」
「え!?」

 俺の名を呼び、少しだけ躊躇した後にモニカさんは、ガバっと頭を下げて俺に謝った。
 急な事で、特に謝られるような覚えがなかった俺はただただ驚く。
 いやだって、俺がモニカさんに謝らなきゃいけない事や、感謝しないといけない事はあるけど、謝られる事なんて……。
 もしかして、さっきのアマリーラさんとのやり取りのあとの事だろうか? いや、真剣な様子からおそらく違うと思う。

「えっと……ど、どうしたのモニカさん?」
「私、リクさんに何もできなかったわ。スピリットを召喚した際に、負の感情の事を聞いていたのに……結局、リクさんは意識を乗っ取られてしまって……」
「あー……」

 そういえば、フレイちゃん達スピリットを呼び出して、負の感情の対処を任せた時にモニカさんもいたんだっけ。
 詳細に全てをというわけじゃないけど、ある程度のどうなっているのか、俺に負の感情や魔力の鳴りかけみたいな力が流れ込んでいる、というのは話していた。
 だからモニカさんは、俺がいざ負の感情に意識を乗っ取られたあと、何もできなかったと後悔した……とかかな?

「いや……あれは仕方ないよ。モニカさんは別の場所にいたし、俺も油断していたから。どうしようもなかったんだよ。モニカさんが謝る事じゃない」
「それでも、私は謝りたいの……もっと何かできる事があったんじゃないかって、思ってしまうの」

 あの時、モニカさんにできる事はなかったとは言わない……それは、モニカさんをもっと責める事になってしまうかもしれないから。
 それに、本当に何もできなかったのか? モニカさんが俺へと何かしらの影響を与えて、意識を飲み込まれないようにできたのではないか? という可能性も絶対にないとは言い切れない。
 というか、俺がもっと意識を強く持っていれば……レッタさんの言葉に惑わされたりしなければ、隙を作らずに済んだわけで。

「……謝るのは俺の方だよ、モニカさん。あの場所にいたのは予想外だったとしても、レッタさんがいる事はロジーナとの話からわかっていた。何かしようとしていた事も、目的もなんとなくロジーナから聞いていたし」

 ロジーナの目的や計画、全てとは言えないけど大まかには聞いていたからね。
 もっと警戒していれば良かった事だ。
 それなのに、俺は自分の力を過信して……俺ならなんとかできると考えて、レッタさんのいる場所まで行ってしまった。
 モニカさんが何もできなかったわけじゃない、俺が自分で招いてしまった事なんだ。

「本当に悪いのは俺なんだよモニカさん。今考えるとだけど、兆候は既にあったんだ。それでも何もないと、なんとでもできると考えて、深く注意せずに戦った俺の自業自得なんだよ……」

 本当に、自業自得という言葉が相応しいのかもしれない。
 スピリット達に対処してもらう事で、俺は安心しきっていたのかもしれないね。
 けど今考えるとだけど、兆候は既にあったんだ。
 ヒュドラーと戦う前、ほんの一瞬だけ全てを壊すような強い衝動に駆られた瞬間があった。

 戦闘前で、皆に心配を掛けたくなかったから平気な振りをして誤魔化していたけど。
 それに、本当に負の感情を警戒するなら、ヒュドラーとレムレースを倒す事だけに集中すれば良かったんだ。
 足止めのために、移動しながらそれ以外の魔物に魔法を放つ必要はない。
 そのせいで、スピリット達が対処していたはずの負の感情が、もっと大きくなった可能性だってある……あれは、人間だけでなく魔物の意識や力も混じっていたから。

「だからねモニカさん、モニカさんが自分を責める必要はないんだよ」
「やっぱり、リクさんは優しいわね。そうして、自分を責めて私達は何も悪くないって笑うの」
「それは……だって、俺自身のせいだって思うから……」

 考えている事を話し、謝る必要は一切ない事を改めて言ったけど、少し寂しそうに笑ったモニカさん。
 優しいとかそんなんじゃなく、俺は俺自身が原因で、モニカさん達には何も悪くはないと思っているんだけど。
 でも、モニカさんにとってはそうじゃないみたいだ――。


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