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ロジーナはリク担当

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「まぁ結局のところ、破壊をもたらすために帝国には、ちょっとした協力をしたわ。今回の事でもね。それは破壊神として破壊を促すためなのが目的。でも今は人間の体だから、どうしても破壊をしなくてはとは考えていないわ。自身の体に思考が引き摺られていると言うのかしら、人間らしい自己保身のために動いている、といったところね」
「自己保身?」

 ロジーナは、今の幼い体を誇示するように胸を張って言った。
 けど、人間らしい自己保身って……破壊をしなければと考えない事と、何か関係があるのだろうか。

「人間は他者を許容し、愛を説く。けれど究極的な本質は自己愛の塊。自分が良ければ他人なんてどうでもいいの」
「そんな事は……」
「ないって言い切れる? 余裕があれば、そりゃ他人を助けようとも思うかもしれない。けれど、それは自分が安全である保証があるから」
「それだけじゃないの。人間は自身を犠牲にしても、他者を助ける事ができるの」
「ユノならそう言うわよね。まぁ、この話は決着の付けようがない事でしょう。とにかく、私はそう思っているし、だからこそ破壊を促す事は主体としないわ。まぁ、隙あらばとは思うけど……無理にはとも思わなくなっているのよ」

 性善説と性悪説とかだろうか? いや、ちょっと違うか。
 とにかく、他者を許容できる、助ける事ができる人間もいればその反対もいる。
 考え方次第で色んな人がいるっていうだけの話、だと思う。

「もしリク……できるかは別として、破壊へと傾かせたら自分が危ないわ。今はまず私自身が大事なの。人間としての思考なのもあって、絶対に破壊を巻き起こさなければ気が済まない、なんて思っていないわ」

 つまり、人間の体を持っている事で巻き込まれたら危険だから、破壊神の時みたいな計画は立てないし実行しないって事だろう。
 たぶんだけど、そこに人間としての自己愛みたいな思考にも引き摺られているから、と言いたいんだと思う。

「だが、だからといって……今回センテに魔物をけしかけた事は……」
「それこそ、計画に手を貸したのは確かだけれど、私が実行した事じゃないわ。まぁ、ここでこうして言うだけで、証明はできないのだけど。私は、人間を刺激して起こった事象に対して、便乗してリクを取り込もうと考えていただけ。それに……」

 別にロジーナを責めるいとまではないんだろうけど、ソフィーが難しい表情をして言ったのに対し、ロジーナが反論。
 そして、椅子から立ち上がり自分の体を見せるようにその場で、くるりと一回転。

「こんな幼い少女が、どうして大量の魔物を使ったと思うの? そもそも、こうなってからの私は魔物を倒す方に協力していたわ。さて、どうやって証明して、どうやって罰しようと思うのかしら? あぁそうね、少しくらいは反省しておくわ。リクを変に刺激してはいけないとよくわかったからね」
「ロジーナ、悪ぶるのはそこまでにするの。別にソフィーはロジーナを罰しようとは思っていないの。多分、破壊神だという事と、人間の本質がどうの。それから敵だと考えていた事の、整理がつかないだけなの」
「……そうなのだが、誰かに言われると自分が情けなくなるな。すまない、少々強く言ってしまった」
「別に構わないわ。人間からしたら、それこそ巻き込まれた側からしたら、ここで私がのうのうと過ごしているのが、気に食わない人もいるでしょうから」

 まぁ、被害に遭った人達、家族や友人知人を失った人達もいるからね。
 ロジーナが全ての原因と考えたら、強く糾弾したくなる人だっているだろう。
 ただし、本当にロジーナが原因である事を信じられたらだけど。
 ロジーナ自身も言っていたように、あれだけ大量の魔物が押し寄せてきたという状況を、年端も行かない少女が引き起こしただなんて、本人が言っても信じられないだろう。

 ソフィーはユノの言う通り頭の中で整理しきれず、思わず口を突いて出たというだけだろう。
 謝って頭を下げ、ロジーナが気にしていないようにそっぽを向いて椅子に座り直して、とりあえず終わりとなった。
 ……情けないけど、こういう険悪な雰囲気は苦手だからユノが間に入ってくれて良かった。
 ソフィーも、存在としてはどうあれ見た目は小さな女の子でしかない、ユノとロジーナをあれこれ言うような人じゃないけどね。

「とにかく、ロジーナはただの人間として扱えばいいって事で」
「不本意だけどそうね」

 話をまとめにかかる俺に、不承不承頷くロジーナ。
 今は人間の体を使っているわけだし、破壊神としての力はほぼないと言ってもいいようなので、そこはロジーナもわかっているからだろうね。
 とりあえず、もし何かしようとしていたら俺が対処するという条件で、ソフィー達も納得してくれた。
 何故俺なんだろうと思ったけど、ユノと同等であるなら対処できるのが俺だけだろうからって事らしい。

 ロジーナが何を考えているかわからない部分もあるから、大丈夫という保証はないけど……できれば、何かしなくちゃいけないような事態は避けたいなぁ。
 その後は、センテが最初魔物に取り囲まれ時、俺がしばらく戻ってこなかったのはロジーナ、いや破壊神によって隔離されていたからだという事。
 さらに、隔離されていた中で俺達は半日も経たないくらいしかいなかったけど、外では数十日が経過していた事などを伝えた。
 色々と細かい疑問はあっただろうけど、ソフィー達の理解の範疇を越えている事もあって、こちらは特に大きな問題にはならずに受け入れられた気がする。

 もちろん驚いていたみたいだし、結果論だけど今こうして皆無事で揃っているから、とりあえずそれでいいだろうってね。
 今はロジーナが同じ事をできないというのも、受け入れられる理由の一端かもしれない。
 ただフィリーナだけは、破壊神とはっきり戦って隔離された空間を俺やエルサが抜け出した事にひたすら驚いていた。
 アルセイス様を祀っていて、ソフィーやモニカさん達よりもなんとなく神様というのが意識的に近いからだろうと思う。

 神様と戦って、無事で済むなんてと何度も呟いていたから。
 まぁ無事って程じゃなかったんだけどね……大きな怪我はしなかったけど、俺もエルサも、限界近くまで魔力を使ってようやくだったわけだし。
 ちなみにその時、ロジーナがリクを刺激しない方が良かったと後悔もしていたようだ。
 あれがあったから、魔力弾という魔法とはまた違った、純粋な魔力を使う方法を編み出したからね。

 おかげで、ヒュドラーとの戦いもそれ以外でも役に立っている。
 俺を刺激すると変な事を思いつくから、やるなら何もさせないように破壊するつもりで行かないと……なんて呟いていたのはちょっと怖かったけど。
 変な事って、魔力弾以外にあったっけなぁ? あ、曲面結界とか多重結界の事か。
 多重結界はともかく、曲面結界はロジーナの閃光がなければ考える事はなかったからね……それは、隔離結界にも応用されているし。

 あの時のロジーナは、時間稼ぎをするつもりだったから俺を破壊、つまり殺そうとはしていなかったのが幸いだった。
 あの閃光が、最初から俺の急所を狙っていたらかなり危険だっただろうから。
 最低でも、重傷を負う事は間違いなかったし、治癒魔法を使えるとしてもさらに畳みかけられていたらと思うと……干渉力とかも関係するだろうけど、ロジーナが本気じゃなくて良かったと思う。


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