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レッタさんの過去

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「ではロジーナ殿……できればレッタという人物の事を教えて欲しいのだが?」

 シュットラウルさんが、ロジーナに目を向けて問いかける。
 マルクスさんも同じく目を向け、口を開いた。

「リク様から、共にいたという話は聞いております。話しづらいとは思いますが……」
「特に隠す事でもないし、レッタを庇う気はほとんどないから別にいいわ」

 相手が神様だったと知ってか、マルクスさんが少しだけ恐縮した様子だったけど、その言葉を遮ってロジーナが鼻で息を漏らしながら言った。
 俺がレッタさんに会った時、向こうはロジーナに心酔しているような気がしたけど、ロジーナからするとそうでもないみたいだね。
 ロジーナが話したがらなかったらどうしようかと思ったけど、ドロップキックまでして意識を刈り取ったのを意識が飲み込まれる前に見ているから、ロジーナからしたらあまり重要でもないのかもしれない。
 まぁほとんど、と言っているから一切庇う気がないわけではないみたいだけど。

 ロジーナにとって、レッタさんは他の人間より少しだけ重要な位置にいるのかもしれない。
 それが、自分を慕う相手に対してなのか、利用価値のある人に対してなのかはわからないけど。

「性格については、思い込んだら話を聞かないわね。リクも、それは知っているでしょう?」
「あー、うん。まぁね……」

 チラリと俺を見ながら言うロジーナに、視線を逸らしながら頷く。
 面白いものを見るような笑みをしていたから、俺がレッタさんに謂れのない非難をされていた事を思い出したんだろう。
 ロジーナと一緒にいたからって、どうしてそうなるのか……否定しても聞いてくれなかったし、言う通り思い込んだらロジーナの言葉さえ聞かなかったのは間違いない。
 俺の反応が不思議だったのか、モニカさんがこちらを見て首を傾げているけど、なんとなく目を合わせづらい。

「まぁそれでね、昔ちょっとした事があって世界を呪っていたのよ。多分レッタ自身は、何をされても、何を言われても誰かに話す事はないでしょうけど」
「世界を……? それは穏やかではないな。そのレッタという人物、女性だったか。人間なのだろう?」
「えぇ人間よ。でも人間だって、世界を……とまで大きくはいかなくても、国や他人を呪う事だってあるでしょう? 大体はどうにもならない理不尽が、自分の力でどうにもできない相手からもたらされた時が多いけど」
「それは、確かに……そういった者もいるな」

 ロジーナの言葉に、鼻白むシュットラウルさん……領主貴族という立場にあるから、それが正しいかはともかく恨まれた事があるんだろう。
 思い当たる節もあるようだし。
 それはともかく、世界を恨むか。
 人によっては自業自得と言える事も、他人のせいにして誰かを恨んだりする事だってある。

 自分を恨んで呪ったりなんて事も……外には向かず内に向いていたけど、姉さんと再会する前の俺はそれに近い部分があった。
 人間とはそういうもの、なんて簡単に割り切れないけど、場合によっては他人や国などを通り越して、世界を呪う人だっているのかもしれない。

「レッタさんには、何か世界を恨むような事が?」
「あったわ。どこにでもある話よ。人里離れた場所にある寂れた村で、その村で暮らす人間と、外からやってきた人間、そして魔物が入り乱れた、というだけのね」

 村の人と、外の人、それから魔物……入り乱れたというのはどういう状況かわからないけど、簡単に想像できる範囲では、魔物が村を襲って外からきた人がその魔物を討伐しようと戦った、とかだろうか?
 いや、それだけだったら、世界を呪うなんて考えにはならないか。

「……あまりどこにでもあるとは、考え難いのだが」
「それはこの国の基準。とはいえこの国でも、エルフのように大きな街とは離れた場所で暮らすのもいるようだけど……今は少し事情が違うとはいえね」

 シュットラウルさんに答えながら、チラッとロジーナが視線を向けた先は、フィリーナ。
 少し前までは、人との交流は最低限で森に閉じこもり気味だったこの国のエルフは、人里離れた所に住んでいると言える。
 最近は交流が盛んになって、村としても認められて多くの人が行き交っているようだし、一応魔法技術に関しての取引はあったみたいだけど。

「今も、住居の半分近くが森にあるから、もしかしたら近い状況かもしれないわね……」

 なんとなく想像がついたのか、ロジーナの言葉肯定気味に受けて話すフィリーナ。
 俺の中では、どこか山奥とかそういうイメージだったんだけど、大きな森が点在するこちらでは森の中というのも、十分人里離れたと言えるのか。
 近くの村とも距離があるからね。

「とはいえ、それが……レッタがいた村なのだけれど。もしそこがエルフのいる場所だったら、エルフばかりだったらなんとかなっていたのかもしれないわね」
「それはどういう……?」

 少しだけ、思いにふけるように目を細めたロジーナ。
 フィリーナはエルフと言われたからだろう、気になって訝し気にロジーナを見ている。

「簡単な事よ。エルフは誰もが魔法を使える。しかも人間より強力なね。でも人間は、魔法が使える者が限られている。だから武器を取って、その武器もしくは自分の体を鍛えるのだけれど……たった数十人程度の人間が暮らすような場所には、上等な武器なんてないし、戦える者もほとんどいないわ」

 エルフなら武器を持たなくとも、魔法である程度の事はできる。
 実際に、俺が以前エルフの村……その頃は集落だった場所に行った時、大量の魔物が襲って来るのを何とか耐えられていた。
 数十じゃなく、数百のエルフがいた事もあるけど、あれがもし人間だけの村だったら一夜にして壊滅していただろう。
 だけどレッタさんがいたのは人間の村でだ……戦える人が、という部分はロ―タ君の村を彷彿とさせる。

「ロジーナの話しぶりからは、戦う手段が必要と言っているように聞こえるね。まぁ魔物と言っていたから、事実そうなんだろうけど」
「えぇ。その村は戦う手段をほとんど持っていなかった。場所が特殊で、周囲にほとんど魔物がいなかったのも悪い方向に働いたわね。もう少し魔物がいれば、戦う手段を身に着けている人間もいたかもしれないのに。まぁ、これは結果論だけれど。いたとして、どうにかできたかはわからないわ」
「一体、レッタさんがいた村に何が……? 魔物が襲ってきたとか?」

 脳内で一度は否定したけど、やっぱりそちらの方で考えてしまう。
 魔物と入り乱れてとの事だったので、容易に想像できる事として魔物が襲って来る事だからね。
 ロジーナも認めたように、戦わなければいけない何かがあったわけで……。

「いえ、違うわ。人が襲って来たのよ」
「人が!?」
「「っ!?」」

 肩を竦めるながら、何でもない事のように言うロジーナの言葉に、俺だけでなくシュットラウルさんやマルクスさんが驚く。
 いや、モニカさんやソフィー、フィネさんやフィリーネさんなど、この部屋にいる皆が驚いていた――。


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