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重い話は途中休憩も必要

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 レッタさんが世界を恨むようになった発端、引き起こされた悲劇の話は続いている。
 ロジーナが言うには、レッタさんによる魔力の誘導が不十分だったかららしいけど、押し寄せた魔物達もお互いを襲い合い、食い散らかして全滅していたんだとか。
 人と魔物が入り乱れて、そしてレッタさんだけを残して全て命を散らして行った。

「そのような光景を見せられたら、確かに世界を乗ろうという考えにもなるのかもしれんな……」

 眉間にしわを寄せて、苦虫を噛み潰したような表情で、声を絞り出すシュットラウルさん。

「言ったでしょ? レッタは思い込みが激しいって。だから、こんな事が起きた世界を呪った。確かに十分だけど……それで話は終わらないの」
「なに?」
「まだ、何かあるのかロジーナ?」
「えぇ。その時のレッタは確かに世界を呪ったわ。けど、それだけでは終わらなかったのよ……とりあえず、一旦休憩した方がいいかしら?」

 それだけ壮絶な事を目の当たりにしながら、まだあるのか。
 ロジーナが話してくれる、レッタさんの過去……これまでの話しでも十分過ぎたけど、まだ続くと言われて俺だけでなく皆が、ロジーナの提案に乗った。
 少し、ほんの少しだけ心を落ち着かせる時間が欲しい。

「お待たせいたしました」
「うむ」
「ありがとうございます」

 シュットラウルさんが、執事さんを呼んで全員分の飲み物などを用意してもらう。
 全員が椅子に座り、先程ロジーナが話した事を考えているんだろう……言葉少なに用意してもらった飲み物を見つめるばかりだった。

「はぁ……少し落ち着いたが、生きた心地がせんな」
「はは、ロジーナの話しの臨場感が凄くて、まるでその場にいたようにも感じられましたから」

 飲み物を一口飲んで、ようやく人心地吐いたのだろう、シュットラウルさんが大きく息を吐き出すのに、苦笑いしながら答える。
 自分の声が少しだけ掠れているのがわかるから、上手く笑えているのかわからないけど。
 ともあれ、ロジーナの話はまるでその場で見てきたかのような、そんな話しぶりだった。
 話し方の上手さもあってか、この場にいる全員が引き込まれていたからね……平気そうな人なんていない。

「……確か、記憶を見たと言っていましたか?」
「そうよ。だから、私にもその時の事は見たように感じられるわ。まぁ、今この体で思い出すと、あまりいい記憶とは言えないけど、神の時には何も感じなかったわね」

 マルクスさんの言葉に頷くロジーナ。
 記憶か……それを見たという事は、レッタさんの経験を映像として見たとか、追体験したとかに近いのかもしれない。
 破壊神だった頃なら、むしろそういった事柄は特に気にせず受け入れられていたんだろうけど、今の人間の体になったロジーナにとっても、あまりいい思いのしない事のようだね。

「モニカさん、大丈夫?」

 俺は用意してもらったお茶を一口飲んでから、、隣に座って顔色を悪くしているモニカさんに声を掛ける。
 お茶を飲んで一息吐いたからか、さっきまでよりはマシみたいだけど、それでもまだ沈んだ表情だ。

「えぇ、なんとかね……魔物に襲われて、という話は父さんや母さんから散々聞かされていたけど、人間がというのがちょっとね」

 マックスさんやマリーさんは元Bランクの冒険者を長年やってきているから、ロジーナが話した事とは違っても、それなりの悲惨な状況を知っているし、見てもいるはず。
 モニカさんが冒険者になると言った時からか、もっと前か……マックスさん達から聞いていたんだろうね。
 でもさすがに、人間がという話はあまりされていなかったのかもしれない。
 野盗に関する話くらいは聞いているだろうけど、今回のような被害に遭った張本人の記憶を覗き込むような、そんな臨場感に溢れた話なんていうのはないだろうから。

「やっぱり、人間が人間をってのはね……」
「そうね。近い話は聞いた事くらいはあるけど、その程度だし。もちろん、人間同士で争うという事も聞いているわ。それでも、目の前でなんてね」
「うん、そうだね」

 沈んだ表情のモニカさんに頷きながら、俺はちょっとだけ別の事を考えていた。
 多分モニカさんは、マックスさん達や他の人達から野盗に襲われた経験とか、襲われた人の話を聞いた事くらいはあるんだろう。
 だけど、本当に悲惨な話は伝わらない……いや、伝えれない。
 ロジーナが話しているのはレッタさんの経験で、レッタさんが生き残ったからこそこうして伝えられているわけで、もし誰も生き残っていなかったら、話しとしても誰にも知られる事はなかったかもしれないんだ。

 もちろん、その後に誰かがそこに行って何が起こったから調べて……という事はあるかもしれないけど、それでも経験した人の話と比べると臨場感がまるで違う。
 まぁ、話しているロジーナ自身が経験したというよりは、レッタさんの記憶を覗き込んで見たという方が正しんだけど、それでも後から調べるのとは全く違うはず。
 精々が、そんな痛々しい事件があったんだと、悲しく思うくらいだろう。
 日本だと、ニュースを見て事件を知る人みたいな……そりゃ感受性豊かで当事者に感情移入し過ぎて同乗してしまい、今のモニカさんのように沈んでしまう人や憤慨したり、立ち上がったりする人もいるかもしれないけど、大半が対岸の火事みたいなものだ。

 この世界だともっと身近かもしれないけどね。
 とにかく、本当に悲惨な話は生き残りがいる可能性が低く、さらに生き残っても話すかどうか、話せるかどうかはその人次第なので、今回のレッタさんのような体験の話はほとんど世に出ない事が多いんだと思う。
 怖い話で、何々を見た後に生き残った者は誰もいない……みたいな話なのに、生き残りがいないのになんてその話が伝わっているんだ? というのと似ているかもしれない。
 違うかもしれないけど。

「リクさんは、大丈夫なの?」

 頭の片隅で、妙に冷静な部分で考えていた俺を窺うモニカさん。
 自分が顔色悪く、沈んでいるっているのに俺の心配をしてくれるのは、やっぱりモニカさんは優しい。

「平気だとか、大丈夫とは言えないかもしれないけど、なんとかね。ちょっとした経験もあるし、俺にとっては魔物も人もあまり大差ないような部分もあって……」
「魔物と人が?」
「うん。モニカさんに話したか覚えていなくて申し訳ないんだけど、俺のいた世界には魔物はいなかったんだ。もちろん、人間以外にも動物はいたけどね……」

 モニカさんに、俺の話を聞いてもらう。
 俺自身が人間だから、もちろん人間と戦うという事には抵抗感があるし、最近薄れてきてしまっている気がしなくもない、倫理観みたいなのももちろんある。
 けど、魔物がいなかったからだろうか……それとも人間が酷い事をする話も聞いた事があるからだろうか。

 地球での戦争の歴史なんかも影響しているかもしれない。
 人間のいい部分も悪い部分も、見ようとすればいくらでも見られたし、対岸の火事ではあってもニュースで事件を知る事もあった。
 それに日本には物語で色んな話があって、もちろん悲惨な話、怖い話とかもあって溢れていたから、多少は平気でいられるのかもしれない――。


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