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近くてもリクは一部救われている

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 とにかく、俺にとって魔物に襲われるのと、野盗なんかに襲われるのもあまり大差のない出来事のように思えるんだ。
 もしかしたら、魔物だって場合によっては仲良くなれる……みたいな物語を見た事がある影響もあるのかもしれないし、実際にワイバーンとは仲良くやれている。
 まぁ、復元して特殊な再生能力を植え付けられたワイバーンだけだけどね。
 それに、ある程度思い出していたけど、意識が飲み込まれていた影響なのか、日本にいた時の姉さんや両親が亡くなった場面の事も、鮮明な記憶として蘇っていたりする。

 それは、俺自身を庇っての事だったりもしたわけで。
 つまりレッタさんの時と状況は違えど、目の前で大事な人を亡くしてしまう経験をしているって事。
 だから、自分の経験と重ね合わせて、レッタさんに対する同情心はもちろん湧いて来ているけど……でも、モニカさんや他の人達みたいに沈み込んでしまわない程度には、耐性ができている。
 ……こんな耐性、できて喜ぶべき事じゃないけど。

「リクさんも、近い経験をしていたのよね……以前にも聞いた事があるわ」

 俺の考えている事など、記憶も含めて話すと少しだけ優しく微笑んでくれるモニカさん。
 それはもしかしなくても同情からなのだろうけど、少しでも、空元気でも、誰かに意識を向けられる事ができるようにモニカさんがなってくれたら、話した甲斐があったのかもしれない。
 その向けられる意識が、俺にというのも嬉しいからね。
 ……こんな事で嬉しがるのは不謹慎と言えるのかもしれないし、同情なら日本にいた時散々経験してきたけど。

 俺の記憶は、辛すぎて自分で無意識に封印してほとんど忘れたようになっていたけど、周囲に集まる人達はもちろん事情を知っている人が多いわけで。
 よくわからない同情はされてきた。
 記憶が蘇った今なら、それもある程度受ける事はできるけど……あの時はなんで皆から同情されているのかわからなくて、煩わしく思ってしまったりしていたなぁ。

 わからないといった様子の俺を、さらに可哀そうな子、みたいにも見られた事もあったし。
 だから、こちらに来る前は最低限の人付き合い程度で、適当でなんとなく一人で生きて行こうとしていたんだけども。

「まぁ、全く気にしていないわけじゃないけど、それでも誰かを恨んだりとかそう言う事はないし、今はモニカさん達もいてくれるからね。姉さんとも会えたし」

 姉さんの姿かたちは変わってしまったけれど、性格とか話し方、俺への接し方はあまり変わっていないと思う事が多々ある。
 こちらで生まれ変わってからの生活とか立場もあるから、全て同じというわけでもないけど。
 でも、俺は記憶を封印するくらい辛い死に別れを経験しても、再会できたんだから悔やんで誰かを恨んだりもしていられない。

「そうよね……そういえば、リクさんのお姉さんなのよね。普段はあまり意識する事がないけど……というか、畏れ多い方が先に立って意識できていなかったけど」
「ははは。姉さん自身は、そんな風に見て欲しくないと思っていそうだけどね。友人のように接して欲しいんじゃないかな? もちろん、場所次第だけど」
「そ、そうなのよね……結構、親しみを持って近付いて来ていただいているのは、よくわかっているわ。当然、リクさんの部屋以外では、そんな接し方はできないけれど……」

 姉さん、俺の部屋に来ると途端にダメ人間モードというか、リラックスした姿になるからね。
 凛とした、女王様としての威厳とかは一切ない……もちろんそれは俺だけで、モニカさん達にとっては畏れ多いと感じているのかもしれないけど。

「だから、さっきの話の続きじゃないけど……俺は恵まれている方なんだよ。心配しなくても大丈夫」
「ふふ、そうね。リクさんは大丈夫よね。まぁ、別の心配はあるのだけれど……」
「ん?」
「なんでもないわ。でも、リクさんと話せたおかげで、少しだけ気が楽になったわ。ありがとう」

 何かをボソボソと小さな声で呟いていたようだけど、誤魔化すように首を振ったモニカさんは、先程までと違い少し明るい表情だ。
 完全というわけじゃないけど、それでも休憩前よりは気分もマシになってくれたんだろう。
 声を掛けて、話をしてみて良かった。
 そう思い、できるだけ明るい表情を心がけつつ、モニカさんに頷く。

「うん、俺と話してモニカさんが楽になるのなら、嬉しいよ」
「っ……ほんと、リクさんは時折凄い不意打ちを仕掛けて来るわよね」

 顔を上げて、声を掛けつつ真っ直ぐモニカさんの目を見て笑顔を向けると、ババッと音がしそうな程の勢いで顔を逸らされた。
 俺から見える頬がほんのり赤くなっているのを見るに、照れているらしい。

「ははは、モニカさんが元気になってくれるのはこれが一番かなって。自分で言っていて、少し恥ずかしいけど」

 昨夜の事もあって……とまでは言わない、さらに恥ずかしくなってしまうから。
 今この場で、昨夜みたいな心臓の鼓動と顔の熱さを復活させるわけにはいかないし、周囲には他に人がいるからね。
 ロジーナとユノなんて、こちらをジト~っとした目で見ているから、妙な雰囲気にするわけにもいかない。

「リクが……リクが理解しているのだわ」
「なんでエルサが驚いているんだ……」

 俺やモニカさんのやり取りに、愕然とした声を漏らすのはテーブルに乗って、お茶のカップを持っているエルサ。
 ……フーフーして冷ましながらお茶を飲んでいたのに、今は俺を見上げて口を大きく開け、愕然としている。
 そりゃ俺だって、昨夜のような事があったら色々と理解できるようになるってもんだ。
 いつまでも、無自覚鈍感ではいられない……これまでの事を思い出して深く考えてみると、今更感がすごくて残念な気持ちになるけど。

「や、やっぱり偽物なのだわ?」
「本物だよ。でも、そこまで疑う事かなぁ?」
「今までは、見ていて溜め息しか出ないくらいだったのだわ。いつ、リクを蹴って教え込もうかと考えていたくらいなのだわ」

 そういえば、モニカさんと話している時に何度もエルサが溜め息を吐いていたっけな。
 あれはそういう意味だったのか……多分、もう教え込まなくてもいいので物理は勘弁して下さい。

「良かった、良かったのだわ、モニカ。これで見守っていた皆が報われるのだわぁ」
「そんなに喜ぶ事!?」

 うんうんと頷いて、前足で目元を拭って涙ぐんでいるような仕草をするエルサに驚く。
 実際に涙は出ていないけど、それだけ俺の無頓着さというか鈍感さに、やきもきしていたんだろう……というか皆って……あ、うん、なんとなくわかった。
 シュットラウルさんとマルクスさんは、二人で話し込んでいるためこちらを見ていないけど、ロジーナを除いた他の皆……ソフィー、フィネさん、フィリーナ、ユノが俺を見て何やらやれやれと言わんばかりの目で見ている。

 エルサ以外にも溜め息を吐いているのを見た覚えがあるから、皆わかっていたんだろうね、申し訳ない。
 こうして考えると、多くの人……もしかしなくても姉さんやヒルデさんとかにも、心配というかやきもきさせていたのかもしれないなぁ――。


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