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他にできる事がないかは要相談

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「……エルフにとっては、魔法が使えなくなるなんて考えたくもないんだけどね。エルフの生活には、魔法が深く根差しているから」

 ボソッと呟くフィリーナ。
 聞こえないように、というよりは思わず口を突いて出た感じだ。
 そうだよね、エルフは一部……エヴァルトさんとか肉体的な方面に傾いた人や、ソフィーの指導で剣などの武器に目覚めた人以外は、魔法を頼りにしているから。
 研究だったり、戦闘も含めた狩りもそうだし、人間よりもはっきりと生活の一部になっている。

 それこそ、武器に目覚めた人達だって全く魔法を使わないわけじゃないし。
 使える人と使えない人が混在していて、それらの人が問題なく暮らせるようにしてきた人間とは、少し違うか。
 だからこそ、俺が魔法を使えなくなった事を気にしていないか、心配してくれていたのかもしれない。

「なんにせよ、もし魔法が必要になった時俺にはエルサがいるからね。頼りにしているよ?」
「ま、まぁ任せればいいのだわ。リクのような失敗も、私はしないのだわ」

 声を掛けながら、頭にくっ付いているエルサのモフモフを撫でると、少し照れているような声でしゃべるエルサ。
 失敗しない、と言った部分でソフィー達が安心したような表情になったのは、少しだけ納得いかないけど。
 俺だって、好きで失敗してきたわけじゃないんだけどなぁ……。

「でもリクさん、リクさんが魔法を使えないんだったら……これからどうするの?」

 どうする、というモニカさんの問いは氷を解かす作業の事だろう。
 俺が原因だから、できれば全力で手伝いたくはあるんだけど、今できるとしたらユノ達と一緒に氷を割るくらいしかできそうにないか。

「うーん、とりあえずシュットラウルさん達と相談しようかな。何か他にもできる事があるかもしれないし」
「……そうね。こちらの作業は私とフィリーナ、それから兵士さん達がやってくれているから」
「リクはおそらく、というか間違いなく自分がやった事だからと気にしているのだろうが、ここは他の者に任せるのもいいのかもな」
「ははは、ソフィー達にはやっぱりバレていたみたいだね」
「私もわかっていたわ。特にリクさんは気にしているような事を、侯爵様達と話していたから」

 苦笑する俺に頷くモニカさん。
 意識を取り戻して戻った日、シュットラウルさん達と全ての原因が俺にあるんじゃないか……という話をしたからだろう。
 モニカさんもあの時一緒にいたし。

「でもリクいなければ、そもそも氷を解かすだの以前に、街にいる皆は全てやられていたわ」
「うん、同じような事をシュットラウルさん達にも言われたよ」

 氷を解かす作業や、そのための準備等々を多くの人にやってもらっているからか、自分の魔法がもたらした結果について、多少なりとも責任を感じていたけどね。
 何も感じないというのは、性分から無理だけど……皆にそこまで言われるのなら、任せておいてもいいかなと思える。
 もちろん、シュットラウルさん達と相談して他に何もやれる事がなければ、ユノ達に混ざって氷を割るお手伝いをさせてもらうけど。

 もうそれなりに魔力も回復しているだろうから、エルサに魔法を使ってもらう事だってできるわけだし。
 何もせずに俺だけ見ている、なんて事にはならないはずだ。

「それじゃ、私達は頑張らないとね」
「そうね……リクが気にしないためにも、早くこの広い凍っ大地をなんとかしないと……あ、リク」
「ん? どうしたのフィリーナ?」

 むん、と気合を入れるモニカさんと、頷いて意気込むフィリーナ。
 二人の様子はとても頼もしい。
 そんな中、何かを思い出したように俺を呼ぶフィリーナ。

「街に戻るなら、カイツにもこっちに来るように行っておいて。どうせ、ワイバーンと戯れているだけで魔力も余っているだろうから、協力しないさいってね」
「ま、まぁわかった。一応話してみる」
「あ、カイツをこちらに寄越す時には、誰か案内役も付けるのを忘れずにね。結界で覆われているから、変なところにはいかないと思うけど……時折、信じられない移動をするから」
「それはまぁ、カイツさんを発見した時によくわかっているよ」

 方向音痴過ぎて、ヘルサルから王都とは逆方向のセンテに来ただけでなく、さらにセンテの外壁を越えたうえで東南の森にいたからね。
 隔離結界の出入り口は一つだけだから大丈夫なはずだけど……カイツさんの案内役は誰かに頼んでおかないといけないと、フィリーナだけでなく俺も思う。

「リク様、私達もご一緒します」
「フィネさんと……ソフィーも?」

 フィリーナと話していざ街に戻ろうとしたところで、フィネさんから声を掛けられる。
 ソフィーも隣で頷いているから、二人共って事だろう。

「私もフィネも、ここではやる事がないからな。まぁ、雑多な事はあるのだろうが」

 そう言ってソフィーが視線を向けるのは、薪というか丸太を運んでいる兵士さん達。
 その人達は運搬役なので青い鎧を着ておらず、寒いからか震えているのがよくわかる……ガチャガチャと金属がこすれる音もするし。

「雑用であればいくらでもあるのでしょうが、私達はリク様達のように氷を割る事もできません。であれば、何か他に手伝える事があればと」
「まぁなければ、あちらの兵士のように雑用でもなんでもやるさ。何もしていないのが、性に合わないだけだからな」
「成る程ね、うんわかった。それじゃ、一緒に行こう」

 フィネさんとソフィーに頷いて、モニカさん達に外の事を任せて街へと向かう。
 二人は雑用がやりたくないとかではなく、他に自分ができる事を探しているんだろう。
 特に、ソフィーは冒険者として長くセンテにいたみたいだから、何かできないかという気持ちに逸っているのも多少はありそうだね。
 だからって、無理な事や無茶な事をやろうとしていないから、俺と一緒にって事なんだろうけど。


「ふわぁ、やっぱり温かい場所が一番なのだわぁ」
「内外でこうも違うとはな」
「一度外に出ればわかりますが、温かい事がこれ程安心するとは思いませんでした」

 隔離結界の中に入って、寒さが遮断された事に声を出すエルサ達。
 焚き火に点火されてからは、ほとんどそこから動かなかったのに……とは思うけど何も言わない。
 それまでや、戻って来る時に寒かったのは間違いないからね。

「それにしても、随分早く扉ができたんだね。ちょっと驚いた」
「私達が外に出る時は、急ごしらえの木の扉だったからな」
「隙間もあって、扉の近くだけでもはっきりとした冷気が入り込んでいましたね」

 シュットラウルさん達がいるはずの庁舎……よりも先に、カイツさんと話すために歩きながら感心するように話すのは、隔離結界の出入り口に設えられた扉の事だ。
 俺達が外に出る時、ソフィーが言うようにとりあえずで作られた、というよりほぼ立てかけられただけの木の扉だったのが、今は金属の扉が作られていた。
 とはいえ、一枚だけだと心もとないうえ、冷気を完全に遮断できるか怪しいため、木の扉はちゃんと寸法などを合わせて外側に、街のある内側に鉄の扉を設えている。
 要は二重扉みたいになっているってわけだね――。


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