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ヘルサル西門到着前

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「久々に戻ってきたな……」
「そうですね。大体一カ月くらいセンテにいましたから」

 小さくなったエルサを頭にくっ付け、ワイバーン達を連れてヘルサルの東門を目指す中、近くなってきた門を見て呟くマックスさん。
 俺はロジーナに隔離されていたから、長期間の感覚は薄いけど……マックスさん達はモニカさん達が開いた結露を利用し、ヘルサルから早いうちに応援に来ていたからね。
 あ、俺が意識を奪われて隔離結界の中に閉じ込めちゃっていた時、外では十日くらい経っていたみたいだから、一カ月半以上はいたのか。
 マックスさんが久々に感じるのも当然だね。

「騒ぎになりかけているわね。ちょっと先に行くわ」
「リクが行くと、もっと大きな騒ぎになるかもしれないからな。頼んだ」
「すみません……」
「いいのよ。ワイバーン達に危険がない事を伝えて来るわ」

 そう言って、俺達の傍から離れて掛けていくマリーさん。
 一緒に、フィネさんも付いて行った。
 俺とマックスさんは、マリーさん達が向かったのを見送ってゆっくりと歩く。
 門では、警戒心が溢れてそうな雰囲気の衛兵さん達が集まっているようで……冒険者さんも混ざっているっぽいかな? とにかく、ちょっとした騒ぎが起こりかけていた。

 俺達の後ろにいるワイバーンを見てだろう。
 センテであんな事があって、さらに今は突然氷に閉ざされているわけで……、衛兵さん達も気を張っていたのだろうし、そんな中ワイバーンが地上からとはいえ近付いてきたら警戒もするか。
 遠目で俺やマックスさん達、人が一緒にいる事はなんとなく確認できたとしても、誰かまでははっきりわからないだろうし。 

 あと、人が集まっている所に事前説明なく俺が行くと、さらに騒ぎが大きくなってしまう可能性があるから、マリーさんとフィネさんが行ったんだろう……マックスさんと目配せのような事をしていたからね。
 一応、それくらいの事は察せられるようにはなっている。
 間違っていなければだけども。

「ガァゥ?」

 俺やマックスさんがゆっくり歩いているのに、マリーさんとフィネさんが先に駆けて行ったのを見てか、リーバーが首を傾げた。
 結構、人間臭い仕草をするというか、通訳なしでも簡単な事を伝えようとしてくれるのはありがたい。

「マリーさん達だけ先に行ったのは、何故かってところかな?」
「ガァウガウ」

 確認をするように聞いてみると、リーバーはうんうんと頷く。
 こういった仕草は、人間と接する中で覚えたのだろうか? 初めて会った時は、ここまで身振りをする感じではなかったと思うけど。
 まぁ、それだけリーバーが馴染み始めているという事でもあると思うから、いい事だと思う。

「マリーさん達は……ほらあそこ。人が集まっているところに説明に行ってくれたんだよ。リーバーもそうだけど、ワイバーん達が急に街の門に近付いてきたら、警戒しちゃうからね」
「ガァ~。ガァ、ガァガァウ!」

 門の方を指し示しながら話すと、リーバーが納得したのか大きく頷き、さらに何やら鳴き声を漏らす。
 何を言っているのかはわからないけど……雰囲気から察するに、自分達も人間がいきなり近付いてきたら警戒するから、とでも言っている気がした。
 ……多分だけどね。

「……完全にワイバーンと意思疎通しているように見えるな」
「そこまでではないですよ? なんとなくくらいです。慣れてきたのもあると思いますし」

 複雑な表情をして呟くマックスさんに、苦笑しながら返す。
 長い付き合いとまでではないけど、何度も一緒に行動しているからね。
 あと、エルサを通してだけど鳴き声を通訳してもらって、会話をした事があるからっていうのも影響しているかもしれない。
 本当になんとなくなんだけど、鳴き声の調子やリーバー自身が醸し出す雰囲気などから、仕草も相俟って多少わかるようになっている気がする。

 リーバーが身振りも加えて、伝えようとしてくれているのも大きいかもしれない。
 とはいえさすがに、犬や猫を飼っている飼い主のように、表情が読めるとは言えないけど。
 ……ワイバーンって表情筋がなさそうだしなぁ。

「しかしまぁ、あれはワイバーンだけのせいではないと思うぞ?」
「え、そうなんですか?」

 溜め息交じりで、マックスさんが門の方に視線を向けながら言って来る。
 ワイバーンは、大きくなった時のエルサ程じゃなくても大きくて目立つし、俺やマックスさんと言った人間と見られる何者かが一緒にいるとはいえ、遠くから見たら警戒して集まってもおかしくないと思ったんだけど……。

「いや、そもそもにもっと目立つ……目印というか、そういったものがあるだろう。リクは、誰に乗ってここまで来たんだ?」
「えっと、エルサですけど……」
「あぁ。今はともかく、エルサはワイバーンより大きくなっていた。門などで見張りをする者の中には眼のいい奴もいる。それにヘルサルでは、何度も見ているのも多いからな」
「それはつまり?」

 確かに近くまで空を飛んで移動してきた時は、エルサはワイバーンより大きかった。
 ワイバーン達を連れているのもあって、いつもより街から離れて地上に降りたけど……目のいい人が見れば、飛んでいる時既に発見されていてもおかしくないかな?
 遠くを見るために外壁の上で監視している人もいるはずだし。

「エルサを見て、それと一緒にいる人間と来れば、導き出される答えは一つだ。まぁ、エルサがリク以外の誰かのものになった……とかなら話は別だろうが、それはなさそうだからな」
「失礼なのだわ。私はそんなに尻軽じゃないのだわ。契約するのはリクとだけなのだわ……そもそも、リク以外とは契約できないのだわ」
「ははは、ありがとうエルサ」
「ふ、ふん……だわ」

 チラリと俺の頭の上にくっ付ているエルサに視線を送るマックスさんに対し、憤慨するエルサ。
 以前ならもう少しそっけない態度をしそうなものなのに、今は俺とだけという嬉しい言葉をもらった。
 手を挙げてエルサのモフモフを撫でると、そっぽを向くような気配……とはいえ、頭にくっ付いたままだし俺からは見えないのであまり意味はないけど。
 あと、俺以外と契約できないというのは、エルサと出会った時に行っていたドラゴンは決まった相手と契約をするとかなんとか……だったかな?

 結構前の事のように思えるから、一言一句思い出せるわけじゃないけど、それらしい事を言っていた気がする。
 直感とか本能みたいなもので契約相手がいるがわかり、契約する事でドラゴンとしての力を存分に引き出す事ができるようになるらしい。
 だからもし俺に何かがあったとして、別の誰かがエルサとの契約を望んだとしても、エルサ自身が嫌がるし契約できない……という事なんだろう、多分。
 そう思う事にした。

「まぁ、仲が良さそうで何よりだが、そういう事ではなくてだな。エルサが飛んでいるのを確認した場合、そこに一緒にいるのはリクだ……というのが、多くの認識だろう。だからつまり、あそこに集まっている衛兵たちは、リクが来たと考えて集まっているってわけだ」
「えーっとそれは……ワイバーンとかは関係なく、ですか?」

 エルサと俺はセット扱いか……いや、否定はしないし、それでいいし、合っているんだけどね。
 つまりワイバーンが近付いて来たから警戒態勢に、というのでないらしい――。


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