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安定性と耐久性と生産性

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「うぅむ、もう少しニードルを尖らせるよう、親方衆に伝えておくか。いやしかし、耐久性が気になるところではあるが……」

 自分でも試し、何度か転んだソフィーがしゃがみ込み、地面スレスレに顔を寄せて他の人達が足を降ろした接地面を観察して呟く。
 ソフィーだからいいけど、男がやると状況次第で不審者にしか見えない恰好だね。

「尖らせれば貫通性が上がる代わりに、耐久性が下がるんだったわね」
「そうなんだ?」
「あぁ、リクには言っていなかったか。試作品を持ってきた際、皆には伝えていたんだが……」

 フィリーナの言葉に首を傾げる俺。
 それに対し、ソフィーが思い出したようにグラシスニードルに関する説明をしてくれた。
 それによると、ニードル部分が平たいのは先が削れてしまったり、全体の耐久性を上げるためなんだそうだ。
 そりゃ、尖れば尖る程細くなるわけで耐久性が下がるのは当然か。

 尖らせれば、最初は突き刺さりやすいかもしれないけど、使っていて先が削れば取り換える必要が出て来る。
 ただ、街から離れている場所での作業では簡単に使い捨てるわけにもいかない。
 それに、場合によっては折れる事も考えられるので、何か作業をしている時に折れるのは危険だ。
 だからまずは一番耐久性を備えられる形にしたってわけだね。

「鋭さを求めるか、耐久性を求めるか……悩むね」
「そうだな。まぁ危険が少ない、今で言う結界の出入り口付近であれば作業の効率を考えて、鋭さがあった方がいいのかもしれないが」
「逆に、耐久性を重視して長い作業で使い続けられる方が、ってのも考えられるね。転んでも、誰かが近くにいるわけだし」

 解氷作業が進めば、街からは遠くなるから交換回数を減らせる耐久性の方が、もしかしたら最終的にはいいかもしれない。
 とはいえ少し奥へ進もうと思うと、鋭さがあった方が動くにしても安定するだろうし……どちらが正しいとも言える事ではないように思えるね。

「生産性……多く作る場合は、どちらの方が良さそうなのソフィー?」
「親方衆は、今後を考えると現状が一番だと言っていたが……多少なら改良しても、大きく変わらないとも言っていたか。とりあえず、鋭さを増せば増す程繊細な作業になるから、数を作るのにも手間がかかるとは言っていたな」

 モニカさんの問いかけに答えるソフィー。
 成る程、耐久性も考えた今の平たいニードルが、大量生産に向いているわけだ。
 鋭くする程作業効率というか、生産性が落ちるのか……。

「だったら、センテから氷を解かす作業をする人には、あまり生産数を減らさない程度に鋭くした物を。ヘルサルの方に耐久性が高くて多くの数を用意できる物をってのはどうかな?」
「センテはわかるが……ヘルサルにも用意するのか?」
「父さん達をヘルサルに連れて行った時、何かあったの?」
「何か、というわけじゃないけど……」

 そういえば、戻って来てすぐグラシスニードルを試していたから、ヘルサルでの事を皆に話していなかったっけ。
 とりあえず、簡単にヘルサル側からも解氷作業をしてくれる事、ヴェンツェルさんを始めとした王軍も到着している事などを伝えた。
 一応、魔物の事も軽く触れておいたけど、こちらは大量にいる王軍の兵士さん達がなんとかしてくれるだろうとも。

「そうなのね。父さん、これまで以上に忙しくなりそうね」
「ははは、多分ヴェンツェルさんが獅子亭に行くからね。カーリンさんの事もあるし……獅子亭はしばらく忙しくなりそうだったよ」

 元々獅子亭は連日先客万来で忙しかったけど、ヴェンツェルさんを始め兵士さん達もお客さんになりそうだからね。
 特にヴェンツェルさんは、マックスさんやマリーさんと古くからの友人というのもあるけど、カーリンさんがいるとあって通い詰めそうでもあったし。

「ヘルサルはしばらく、多くの人を受け入れて活気が増すだろうな」
「そうだね……センテから避難して、まだ戻れていない人もいるし。前から活気にあふれた街だったけど」

 魔物に囲まれている時、ヒュドラー戦前とヘルサルからの応援人員は来ていた。
 けど逆に非戦闘員は全員じゃなくとも、ある程度先に避難していた人もいたからね。
 子供や老人などは特に。
 さらにそこへ、王軍の兵士さん達をヴェンツェルさんが連れてきているわけで……。

 兵士さんと言えども、当然ながら飲んだり食べたりする必要はあるし、場合によっては装備を整えたり等々……人が増えれば経済が動く、と言うのかな?
 とにかく、ヘルサルはしばらく好景気になるだろうと予想できる。
 まぁ、その分センテと繋がっていない現状、物資不足が心配ではあるけど……そういった事は、俺達じゃなくてクラウスさん達が考えてくれるだろうと思う。

「まぁそう言うわけで、人の多いヘルサルの方に耐久性が高くて交換回数が少ない、でも早めに数を用意できるグラシスニードルをと思ったんだ」

 あちらは、センテと違ってもっと準備を万端にして氷に挑めるだろうからね、防寒とか。
 あと、行ってわかったけど、センテみたいに周辺が氷に囲まれていないのもあって、地面の氷部分近くでも結構温かい。
 ……普段と比べたら、魔物が逃げ出すくらいには寒いんだけど。

「逆にセンテでは、すぐに物が用意できる分耐久性よりニードルがもう少し刺さって、安定する方が使い安いかなってね。あと……」

 この場でだけど、考え付いた事をモニカさんやソフィーに話す。
 ヘルサルにはワイバーン便でグラシスニードルをまとめて運ぶにしても、すぐに壊れて何度も交換というわけにはいかない。
 けどセンテなら、最低でもその日のうちに代わりを用意できるだろうから。
 とはいえ、ニードルを鋭くすると言ってもし生産性が下がり過ぎては本末転倒、今よりもう少し程度でおさめておいて、こちらも交換するための数を用意できるように最低限にしてはどうか、という考えだね。

「ふむ、成る程な。どちらにも同じ物をではなく、差をつけるか……」
「差、という程じゃないけど……まぁ近いのかな? 一応、それぞれのバランスを取って考えてみたんだけど」

 差と言ってしまうと、大袈裟にとらわれかねない気がするからちょっと気が向かない表現になってしまう。
 どちらが重要で優先するべきというのではなく、どちらも重要だけど場所によって運用法が変わる、というだけの考えだった。
 まぁ、そういう事を差というんだと言われれば、それまでなんだけどね。

「いや、悪くない考えだと思う。実際には親方衆がどう考えるかだが」
「センテは作業に加われない人が物を運べばすぐだろうけど、ヘルサルだとワイバーンに頼まないといけないし、すぐに何度もというわけにはいかないから、リクさんの考えもいいと思うわ」

 納得した様子で何度か頷くソフィーと、俺の意見を支持してくれるモニカさん。
 まぁここで何を考えようと、どうするかはソフィーが言うように親方衆やシュットラウルさん達が考える事でもあるんだけど。
 一応の意見として、考えておくのは悪くないかな? シュットラウルさんやマルクスさんとはヘルサルへ行った時の事を話す必要があるし、その時に聞かれるかもしれないからね――。


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