1,489 / 1,810
余談の練る練る魔力
しおりを挟む「まず、可視化できるだけの魔力が出せるってだけで、ちょっと異常なのよね。人間だとリクさん以外に見た事がないし。フィリーナとか、エルフは別だけど」
「ん、あぁそうだね」
深く考え込みそうになっていたのを、モニカさんの声で意識を戻す。
考え事は後でいいし、まずは思いついた事を実験しなきゃね。
原因を突き止めたとして、だからどうすればいいかはわからないし、そもそも今は魔法が使えないし焦って考える事じゃない、かもしれない。
「そういえば、人で可視化された魔力を使っているのは……絶対いないわけじゃないけど、ほとんどいないみたいだね」
特殊な例とすれば、ツヴァイやクラウリアさん、それからレッタさんかな。
ツヴァイはエルフだったから除外するとして、クラウリアさんとレッタさんは人間だった。
他人からの魔力供与をされているのを含めるのならね。
あとレッタさんは、魔力誘導だっけ? 魔物に指示を与える時に赤い線のようなものを出していたけど、あれが魔力を可視化したものだとしたら、でもあるけどね。
まぁクラウリアさんもレッタさんも、両方モニカさんは魔法を使っている所なんかを見ていないので、俺以外の人間が可視化された魔力を出しているところを見た事がないわけだ。
その特殊な例を除けば、俺もエルサやフィリーナ達以外では見た事がないから、人間ではかなり希少なんだろう。
絶対ない、とは言えないと思う。
「でも、もしかしたらこれから先、可視化された魔力を人間が扱うのを見れるかもしれないよね? アルネとフィリーナが、魔力を練って魔法を使う研究をしていたし」
俺は見ていないけど、実際それでフィリーナはこれまでは使えなかった魔法を使って、センテでも活躍していたみたいだし。
あと、ツヴァイの研究施設でも、二つの効果を持たせた風の矢みたいな魔法を使っていたから。
「あぁ、そういえばそうね。フィリーナは……ずっと私達と一緒だから研究が進んでいないけど。でも、王都にアルネが残っているから……」
「他に研究する事がなければ……それか、別の研究をしながらでも興味のある事にのめり込んでそうだよね。倒れてなきゃいいけど」
カイツさんもそうだけど、アルネも研究熱心過ぎて寝食を忘れてしまう事がある。
王都……というか王城では姉さんや他の人達が大勢いてくれるから、ちゃんと見てくれているとは思うけど、でもやっぱり心配にはなるよね。
「しばらく会っていないから、王都に戻ったら既に研究が完成していたりして」
「ははは、それなら一気に戦力アップだ」
魔力を練る、という研究はつまり、一つの魔法に込められる魔力の総量を上げるという事。
わかりやすく言えば、大きさの決まっている箱があるとして、乱雑に物を詰め込むのが今の魔法の使い方。
それに対し、箱に詰める物をちゃんと整理して、小さくできる物は小さくするというのが魔力を練った状態だ。
まぁ多少違う部分はあるけど……イメージとしてはそんな感じ。
だから、自身の魔力と周囲にある自然の魔力を集めて練った場合、魔力が多く濃くなるため多分、多くの人が魔力を可視化させる事ができると思う。
ちなみにこれによる利点は、魔法の威力増加、これまで人間では使えなかった魔法が使えるようになる、という事だね。
フィリーナが使っていた、二つの効果を持たせた魔法は多分その副産物だろう。
もしこれが完成して人間にも扱えるように広く普及……少なくともアテトリア王国内で普及すれば、多分これまでとは戦闘の様相が変わるくらいの変化が来るんじゃないかな? と思っていたりする。
まぁ、そうはいっても練る魔力は結局本人の魔力も多く使う事になるので、魔法の連発という意味えでゃ効率が悪そうだけど。
……と考えつつ、魔力を練るのも、想像以上の威力が出てしまうのも、俺やエルサは自然の魔力は使わず、自前の魔力で賄っているというのは、よく考えたらモニカさん達が異常とか言うのもわかる気がするけど。
ともかく、使用魔力量が多くなってしまうというデメリットも当然あるため、実際には俺が考えているよりも影響は少ないかもしれないって事だ。
でも魔力を練って威力を増したり、これまでとは違う魔法を使うか、それともこれまで通りの使い方で数を放とうとするか……戦いにバリエーションが出るのは間違いないと思うし、いい事なんじゃないかな。
「とにかく、帝国が魔物を使って来る可能性が高いし、やれるだけの事はしておいて損は多分ないよね」
「そうね。こちらが強くなれば、当然被害も減ると考えられるわね」
姉さんが女王様で、モニカさん達のように親しくしてくれる人がアテトリア王国に偏っている……他国に行った事がないんだから当然と言えば当然だけど。
だから俺の考えはアテトリア王国側になる。
戦力がアップした事で、もうほぼ戦争は避けられなさそうな帝国相手はともかく、その後に無用な戦いを招くとか、大局的な物の見方は難しい。
まぁまだ二十歳にもなっていないうえ、こちらの世界に来てまだ一年足らずの俺に、そんな広く世界の事やかなり先の事まで見通せ、と言わないで欲しいというのはあるけど。
「ん、できたわ。それで、これからどうするの? まぁ、なんとなく予想はできるけど……」
話が逸れていたのを、モニカさんがグラシスニードルに次善の一手と同じ要領で魔力を通し終わり、準備が完了。
モニカさんの視線が、チラチラと凍った地面を見ている。
グラシスニードルが氷の上を歩くための道具、だとすると予想できて当然か。
「うん、モニカさんが考えている通り、このまま凍った地面に立って……って、歩きにくいねこれ」
「まぁ、ぬかるんでいるし、凍っていない場所はさすがにね」
話しながら、エルサが凍らせてくれた場所に移動しようとするけど、足が上手く進まない。
モニカさんの言う通り、試すために凍らせて融けてを繰り返したせいだろう、ぬかるんだ地面は魔力を通したグラシスニードルにとって、なんの抵抗もなく根元まで突き刺さってしまう。
油断しなくても滑ったりはしないんだけど、当然ながら通常の靴の感覚では歩けないし、わざわざニードルを抜いてから足を前に出す必要がある。
あ、いや、こういう事もできるのか……。
「こうすれば、楽に移動できるかな?」
「……それはそれで逆に移動しづらい気もするけど。まぁどっちもどっちかしら?」
ニードルが地面に突き刺さったるのに、何も抵抗を感じないくらいだったから、もしかしてと思ったけど……魔力を通しているからか、足を上げてニードルを地面から抜かなくても、そのまま前に滑らせるだけで進む事ができた。
単純に、足で土に線を引くような感覚で動ける。
靴底がすり減るから、必要なければ普段はやらないけど、今は魔力が通っているから大丈夫そうだ。
モニカさんも同じようにするけど、どちらが歩きやすいかは個人差があるみたいだね……まぁ重要な事じゃないからどう歩いてもいいんだけどね――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,118
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる