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魔力量の多い者

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「ゴミクズが直接脅したかは知らないわ。それに、あんな奴ら家族を人質に取られたって、素直に従うとは思えないけどね。でも、自分の命のためならなんでもするわ。しかも、従っていれば望んでいた権力やお金が手に入るかもしれないんですもの、従わない理由はないわね」

 クズ皇帝の周りにいる人達は、そうして前皇帝ではなくクズ皇帝の味方をして、前皇帝を監禁したってわけか。
 どこの世界にも、そしてどこの国にもそういう奴らはいるって事だね。
 不幸中の幸いか、アテトリア王国ではバルテルの凶行に連なって、膿のようにそういった貴族は排除されたみたいだけど。

「でもぉ、一人の人間が多くの人間を一度に脅すなんて、できるとは思えませんよぉ?」
「確かに……」

 小さいコミュニティでの話ならともかく、帝国上層部での話だからね。
 脅してでも味方に付けなきゃいけない相手は、一人や二人じゃない事は間違いない。
 それこそ、三桁に上るくらいの数がいてもおかしくない、かもしれない。

「それでも、ゴミクズにはそれだけの力があったのよ」
「まさか、魔物でもけしかけるって脅したんですか? いや、でもその時はまだ確実に魔物を操れるわけでもなかったわけだし……」
「私とロジーナ様が協力するまで、多少魔物の行動を制限したり、特定の場所に向かうように仕向けたり……というくらいはできていたようだけど、それで確実に脅すなんて事はできないわ」

 俺の疑問に目を伏せて答えるレッタさん。
 そういえば、レッタさんが平和に暮らしていた村に、魔物を向かうよう仕向けて惨劇が起こったんだった。

「でもね、魔物を使わなくても脅す方法が、あのカスにはあったのよ」
「それは一体……?」
「人並外れた、魔力の力よ。魔力量、それがゴミクズのくせに、人が束になっても敵わない程だったの。たったそれだけで、周囲の人間は命の危険から自分だけでも守る事しか、考えられなくなったわ」
「魔力量……」

 魔力といえば、俺が他の人達よりもとてつもなく多い。
 その恩恵というか、魔力が多いからこそできた事はこれまでにいくつもある。
 エルサとの契約で、イメージをする事で魔法を使えるようになった、というのも大きいけど。

「正直、リクを目の前にしたら霞む気もするけど、あいつしか知らなかったら恐ろしさしか感じないわ」
「え? レッタさん、俺の魔力量とかもわかるんですか?」
「どれだけ、かはわからないわ。けど、これまでの事を考えたうえで、目にするとね」
「レッタははっきりとじゃないけど、人……だけじゃないけど、魔力がなんとなく見えるのよ。これも、例の特殊能力のだけど」
「そうなんだ……」

 俺を見ながら、溜め息交じりに言うレッタさんに、ロジーナが補足する。
 比べるとクズ皇帝の魔力量は少ないらしいけど、それでも尋常じゃない魔力を持っているのなら、他の人にとって脅威と捉えられてもおかしくない。
 それを前面に出して、他を圧倒するような攻撃的な性格だったりするともう、近くにいる人からすると恐怖でしかないとね、多分。

「リクは、そんな力を持っても誇らず、むやみにふるっていないようだから、今はあまり気にしていなさそうだけど……人は、自分達がどう頑張っても到達できない、勝てないような力を持っている相手には、恐怖するのよ」
「まぁ、なんとなくわかります」

 以前、一度だけ考えた事のある、英雄の孤独。
 そこまで大袈裟ではなくとも、強い力というのは持っていない人にとって脅威になり得るのは当然だし、忌避してしまうものだから。

「本人の性格もあるんでしょうけど、周囲に恵まれているわ」
「それは俺もそう思います」

 だけど、英雄と言われて多くの人に尊敬されているようだけどそれだけではなく、モニカさん達や姉さんなど、優しい人達がいるおかげが大きい。
 力などの強さが優先されるらしい獣人の国ならともかく、人間の多いこの国でまともに過ごせているのは、本当に幸運だと思う。

「リク様はぁ、そのお力で多くの人を助けていますからですよぉ。人を脅して従わせるのと、人を救う人、同じように大きな力を持っていても、全然違いますぅ」
「そうかもしれないわね。ある意味、対照的なのかしら?」

 リネルトさんの言葉に頷き、少しだけ表情を緩めるレッタさん。
 話し始めてから、クズ皇帝に対してだろうけど、憎々しい雰囲気を醸し出す程険しい表情をしていたのに。
 さすが、和み時空……これを言い出したのもこの部屋に来てからだけど、おおむね間違っていないようだ。
 それはともかく、クズ皇帝の魔力が多いという事は。

「俺の事はともかくとして、もしかしてツヴァイ達の魔力が異常に多かったのは……?」
「あぁ、ツヴァイはリク達に捕まったんだったわね。えぇ、全てあのクズの魔力よ。私が魔力を誘導して、体に定着させるの。まぁ、とはいっても必ず定着するわけでもなくて、ちょっと確率を上げるくらいね。合わなければ、体内の魔力が反発しあって……パンッ! よ」

 クズ皇帝がその膨大な魔力の一部を、ツヴァイ達に貸し与えていたってわけか。
 レッタさんが握った拳を開き、パンッ! というのに少し驚いたけど……俺は見ていないが研究者の一人がそうなったのを聞いている。
 どこをどう作用したのかわからないけど、全身から血のようになった魔力になって飛び出したとか……。
 それが人道に悖(もと)るかどうか、というのはここで今話してもあまり意味はないので、頭の隅に追いやっておく。

 復讐の鬼になったレッタさんと、人を犠牲にする事を厭わないクズ皇帝に、人道だとか倫理を問いかけても、あまり意味はないだろうし、余計な話になるだけだからね。
 俺も、そういった人達を諭すような、高尚な考えを持っているわけでもないし。

「それじゃ、もしかしてレッタさんも……?」
「もちろんよ。憎い……憎くて憎くて仕方がない。この思いを忘れないよう、自身の体に刻み込むためにね。計画に必要だったのもあるし、本当にできるかの実験でもあるわ」
「やっぱり……」

 俺の問いかけに、目を大きく開いて凄惨な笑みを浮かべて言うレッタさん。
 その笑みは、喜びとかではなくただただクズ皇帝に対する、復讐心しか感じられなかった。
 この人は、本当に目的が達成さえされれば自分の事はどうなってもいい、と考えているんだろうね。
 だからこそ、ロジーナに傾倒して世界が破壊される方向に行くのであっても、気にしないんだろうけど。

「その魔力を他人に与える方法だけど……」

 興味という程じゃないけど、純粋に聞いてみたくてレッタさんに、魔力の貸与について聞いてみる。
 レッタさん曰く、魔力を与えた方はただ単に魔法を使ったのと同じく消費しただけなので、すぐに回復するとの事。
 だから、どれだけの人に貸与したとしてもクズ皇帝の魔力総量が減る事はなく、危険もないというクズ皇帝にとってはデメリットがほぼない方法というわけだ。
 だからこそ、クズ皇帝もそれに乗ってやろうとしたんだろうけど……総量が減るとかだったら、魔力が多い事を誇って脅すような人物が、実行するわけがないからね――。


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