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リクとの魔力差
しおりを挟む俺が知覚できるようになった魔力に関してはともかくとして、ロジーナが言うちょっかいというので、今の俺に大きな影響を及ぼした事件、最初はルジナウム、そして今回のセンテ。
それぞれ魔力を限界まで使った事で、どこぞの戦闘民族よろしく魔力が回復すると共に量も増大した。
まぁセンテの場合は、負の感情だとかが渦巻いていた影響で、俺に流れ込んで魔力になっていたというのも大きいけど。
ちなみにヘルサル防衛戦の時は、魔力を限界まで使ったわけじゃないから、魔力増大には当てはまらない。
あの時倒れたのは多分、封印されていた姉さんとの記憶を刺激された事と、まだ魔法に慣れていない時に大量の魔力を一気に使った事、そして自分がやった事の光景にちょっとだけ刺激されたから、だと思う。
「まぁ、帝国のおかげって言うのは嫌だけど、それがあったからってのはあるね。今回は、ロジーナとレッタさんだけど」
俺が魔力を増大させるきっかけになったのは、帝国が仕組んでいた事、そしてロジーナやレッタさんがやった事だからね。
犠牲者も出ているから、手放しで喜ぶわけにはいかないし、俺の魔力が増える事よりも被害が出ない事の方が大事だ。
魔力増大か被害が出ていない状況、どちらかを選べと言われたら間違いなく、被害が出ていない、魔物が押し寄せて来ない方を選ぶ。
もう過ぎた事だから、意味のない想像だけどね。
「はぁ、つつかない方が良かったのか悪かったのか。私としては、あのゴミクズが破滅の道を歩むのであれば、喜べるのだけど」
「そこは間違いないわよ、だってあれとリクは絶対に敵対するしか道がないもの」
「そうですよね。なら、捕まってこうしているのも、無駄ではないという事……ロジーナ様もこうして隣にいてくれますし!」
「いいから、リクの質問に答えなさい。私は、あれを直接見ていないし、詳しくないの。それに、今はレッタの方が魔力を正確に調べられるでしょ。あのアルセイスから目を与えられたエルフよりは劣るけど……」
抱き着こうとするレッタさんを押し留めて、ロジーナがそう言う。
アルセイス様からっていうのは、フィリーナの事か。
まぁ今はいないし、クズ皇帝を見ていないからこの場に限らず、比べるのに一番適した人物はレッタさんなのは間違いない。
「んんっ! 残念ですが、わかりました」
咳ばらいをしつつも、本当に残念そうに言って座り直すレッタさん。
そんなに、ロジーナに抱き着きたいのか……なんか、そっちの方向で上手く話せば、復讐に取りつかれているレッタさんが考えを改める可能性もあるかもしれない。
とはいえ俺に上手く誘導する話術はないし、相手は破壊神だったロジーナだ、下手な事をすると看破されて逆に俺が嵌められそうだからやめておこう。
「……そうね、今のリクを十だとしたら」
そう言って両手を前に出し、パーを作るレッタさん。
全ての指で十、という事だろう。
そして、それぞれの指を順番に畳んでいき……。
「あのカスは三……良くて四、といったところかしら」
「三から四……」
今の俺の半分以下なのは確定しているんだ。
という事は、この世界に来た直後ならクズ皇帝の方が、もしかしたら魔力量が多かったのかもしれない。
しかも、レッタさん達と初めて会ったのはエルサとである前だから……他の人間より魔力が多いとは感じていても、クズ皇帝に匹敵するとは思えなかったと。
だからさっき、今の俺ならこちら側にと言っていたんだろうね。
「まぁそれだけでも、人間が百や二百、束になってかかっても足元にも及ばない魔力量なんだけどね」
「だからこそ、余裕をもって他者を脅し、恐怖で支配する事もできるってわけよ」
「成る程」
つまり低く見ても、クズ皇帝は俺がヘルサル防衛戦でやった事や、王都やルジナウムで戦った時のようなことくらいはできる可能性が高いって事だ。
そりゃ、それだけの魔力があってさらに自信家だったりするなら、姉さんとクズ皇帝が会った時にも世界を手にするみたいな事を言うよね。
できるかどうかはともかく、自分が特別であるという優越感と、尋常じゃない魔力で異常な身体能力で万能感を持っていそうだから。
……似たような境遇、ではないし魔力量が多いという部分が同じ……と考えるのも嫌だけど、一歩間違えれば俺もクズ皇帝みたいな勘違いというか、野心に取りつかれていたらそうなっていたかもしれないと思うと、謙虚に過ごしていて良かったと思う。
周りに、モニカさんやマックスさん達とか、優しい人達がいてくれたのが大きいんだろうけど。
「あれ? でも待てよ……?」
「どうしたの、リク?」
「いや、えっと……」
ふと頭に思い浮かぶ事があって、声を漏らす。
ロジーナがこちらを窺うように声をかけて来たけど、はっきりとは答えずに言葉を濁した。
「魔力量が多くても……」
俺がこの世界に来た時よりも、クズ皇帝の方が魔力量が多かった可能性は高い。
だとしたら、俺と同じような事もできたんだろう、というかそれ以上の事も……なんて考えたけど、よくよく考えるとちょっと違う。
まぁ、身体能力とかは溢れんばかりの魔力で俺以上だったんだろうけど、魔法は別だ。
俺はエルサと契約した事で、ドラゴンの魔法が使える。
人が使う魔法と、ドラゴンの魔法は根本的に違う。
いやエルサから聞いた話や、アルネとの話で、大本は同じかもしれないという可能性があるにはあるけど、そうじゃなく。
エルフが帝国にもいるから当然、利用するなりして魔法技術や理論の提供は受けているだろう。
けどそれはドラゴンの魔法じゃない。
イメージをするだけで魔法を使う事はできないはずだ。
ある程度決まった手順を踏んで、決まった威力と効果の魔法を行使するのが、基本的な人が扱う魔法。
だったら、クズ皇帝には俺と同じ事はできないのか……なら、いくら魔力量が多くても、実際そこまでの脅威にはならないのかも?
それでも、通常と言える範囲の魔力量の人からすると、十分脅威なんだろうけど。
いや待て、そういえば以前……。
「レッタさん、ロジーナ……は、直接会っていないんだったっけ」
とある事に思い至って、レッタさん達に声をかける。
「何?」
「私は、会いたくもない奴に会いに行くような、危篤な考えは持っていないわ」
クズ皇帝、破壊神にすら会うのを嫌がられる。
人の価値観からすると、方向性は似ている気がするのに……まぁ、本当に嫌そうな顔をしているから、煮ているかもと言ったら、ロジーナは怒るかもね。
それはともかくだ。
「その帝国の現皇帝は、ドラゴンの魔法を使ったりしていませんでしたか?」
「ドラゴンの魔法? なんなのそれ?」
「……」
俺の問いかけに、訝しげな表情で首を傾げるレッタさん。
ロジーナは、何か思い当たる事があったのか、押し黙った。
というかレッタさんは、ドラゴンの魔法を知らないのか……てっきりロジーナから聞いていると思ったけど。
でも、俺がエルサと契約しているから周囲に話しているだけだど、知らないのが通常なのか――。
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