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リク護衛依頼
しおりを挟む「本日より、リク様の配下となります。この体、いかようにもお使い下さい」
「アマリーラ様、それじゃ変な意味に取られかねませんよぉ?」
「リク様がお考えになった事であれば、私はどんな事でも受け入れる覚悟がある。問題ない」
なんて、誤解を招きそうな言い方をして、呼び出された部屋に入ってきた俺に跪いたアマリーラさん。
同じく跪きながら、アマリーラさんの隣にいるリネルトさんが注意するように言っても、気にした様子はない。
もうちょっと、そこは気にして欲しいかなぁ……一緒にきたモニカさんの目が怖いから。
あと別に、変な事に使うとか考えてないし。
「えーっと、どういう事ですか? リクさんから、リネルトさんやアマリーラさんがもしかしたら、という話は聞いていますけど……」
俺の隣にいるモニカさんが、こめかみを押さえながら聞く。
レッタさんと話した日、リネルトさんからの話に関しては既にモニカさんだけでなく、ソフィーやフィネさんにも話してある。
だからもしかすると、アマリーラさんとリネルトさんが仲間に加わる可能性があるというのは知っていたけど、呼び出されていきなりというのは予想していなかったんだろうね。
俺もそうだし。
「私達は、これからリク様の護衛依頼を受けて共に行動する事になります。あ、私もリク様の忠実な配下ですので、なんなりとお申し付けくださいねぇ」
「は、はぁ……」
「ちょ、ちょっと待ってください。リクさんの護衛依頼って、どういう事ですか? リクさんに護衛が必要とは思えませんけど……」
「……そこは私も同意するがな。だが、それがアマリーラとリネルトの二人を任せるうえでの、最低条件みたいなものなのだ」
「その、最低条件っていうのは……?」
「うむ、リネルトからの提案なのだが……」
俺と話した後のリネルトさんは、数日かけてシュットラウルさんや執事さん、そしてアマリーラさんを説得したらしい。
その説得方法だけど、一応傭兵としてはシュットラウルさんとの契約で定められている期間は、まだ雇われたまま。
ただし、これまでのようにシュットラウルさんの身辺警護も兼ねて近くにいるのではなく、ある程度自由に行動するのを許可する事で、離れても問題なくなった。
アマリーラさんとリネルトさんは、本来は傭兵の活動がメインではあるけど、一応冒険者登録もしているうえにAという高ランクでもある。
そこで一計を案じたリネルトさん。
冒険者として、俺と共に行動をしてもおかしくない内容の依頼を受ければいいとなったわけだ。
ちなみに依頼主はシュットラウルさんで、国からの依頼という扱いにもなっている。
国の重要人物を護衛して守るため、という名目らしい。
レッタさんとの話で、帝国のクズ皇帝への対処は俺が直接当たるのが一番だろう、という結論はリネルトさんだけでなく、シュットラウルさんも同じ。
ロジーナやユノも一番簡単な手段と言っていたらしい。
だから、これからに備えて俺を護衛すると言う名目も立つとかなんとか……必要性はともかく、国としては帝国に対抗するため、絶対に欠かせない存在にまでなっている、と言われたら俺も納得するしかないよね。
ヴェンツェルさんやマルクスさんも、そしてセンテとヘルサルの冒険者ギルドのマスター二人、さらにヘルサルの代官であるクラウスさんも、この案に賛成したらしい。
これがおそらく、レッタさんと話した日にリネルトさんが言っていた、やりようはいくらでもあるという事なんだろう。
これなら傭兵として契約をしたまま、俺と一緒に行動ができるからね。
それでもアマリーラさんは、他の契約に縛られずに俺の配下になりたいと少しだけごねたらしいけど。
あと、冒険者に出す依頼というかアマリーラさん達が動く名目として、護衛にするか監視にするかと、でちょっとだけ揉めたらしい。
シュットラウルさんやアマリーラさん達としては、俺の行動を邪魔するつもりはなく、監視ではなく護衛。
逆に、執事さんや冒険者ギルド側としては、英雄と言われる最高勲章を持っているとしても国に所属しているわけではなく、あくまで一介の冒険者に過ぎない俺に対して、国が護衛を付けるというのはどうかと渋っていたとか。
俺からするとどっちでもいいような気がするけど、そこそこ大事な事だったらしい。
ただここでさらにリネルトさんの一計、というかアマリーラさんのガス抜きとして、護衛依頼という事にしたみたいだね。
シュットラウルさんに傭兵として雇われたまま、というのに不満が残るアマリーラさんを、監視ではなく護衛とする事で意識を逸らしたんだろう。
アマリーラさんは、もう完全に俺の部下に付いた気分のようで、猫っぽい耳をパタパタと動かしつつ、尻尾を嬉しそうに揺らしていた。
まぁ、アマリーラさんが俺の部下なんかで満足するなら、いいんだけど……俺からは部下とか配下とか、そういう見方や命令をするかはともかくとして。
「まぁ、話はわかりました。二人……特にアマリーラさんの方は、前からリクさんにと言っていましたから。リクさんなら断らないでしょうし、いずれこうなるのかなとは思っていましたし」
事情の説明を受けたモニカさんが頷く。
アマリーラさんやリネルトさんを雇う気は全くなかったんだけど……でも、一応の名目とはいえ護衛としてなら、俺には断れないからね。
あ、もしかしてこれもリネルトさんが考えて、俺が断れない状況を作り出す一環だったりするのかな?
と思って、リネルトさんの方を見てみると、ただ微笑み返されるだけで本当のところはどうなのかわからなかった。
……和み時空とか俺が勝手に言っていたけど、実は直情型のアマリーラさんとは違って、策略家なのかもしれない。
「とりあえず、アマリーラさんとリネルトさんの事はわかりました。けど、俺は部下を持ったつもりも、配下にしたつもりもありませんので。できれば、仲間という事でお願いします」
名目とか色々あるにせよ、あくまで仲間として、モニカさんやソフィー達と同じ扱い、という事にしようと思った。
「はっ、リク様がそうお望みならご命令通りに……」
「いえ、命令というかお願いというか……」
頷いてくれるアマリーラさんだけど、その言葉は仲間ではなく完全に配下のものだった。
そういう事じゃなくて……でも、どういえば伝わるのか。
「リク様、ここは私にお任せください~。リク様のお気持ちはわかっておりますので、アマリーラさんを説得しておきますので~」
「あ、そ、そうですか? わかりました。よろしくお願いします」
「うふふ~、リク様にお願いされました~」
「ず、ずるいぞリネルト! 私だってリク様にお願いや命令をもっとされたいのだ!」
「それは、アマリーラさんが悪いんですよぉ」
「……さっきから、私への呼び方が変わっている気がするのだが?」
「これはですねぇ、私はもうリク様の配下……ではありませんでした。仲間になったので、アマリーラさんと同等かなーと思いましてぇ」
意外と、リネルトさんはこれを狙っていたのかもしれない……アマリーラさんを、様付けではなく三付けで呼ぶ事を。
いや、俺の勘違いかもしれないけど。
ともかく、配下とかではなく仲間としてと言った俺の言葉に関しては、リネルトさんにアマリーラさんの説得を任せる事にした――。
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