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オークとの遭遇戦
しおりを挟む「お、いたいた……」
木々の合間を縫ってしばらく奥へと進んでいると、複数の魔物が集まっているのを発見した。
「オークがいち、に……十体か。エレノールさんの言っていた通り、少数ではなくなっているみたいだね」
これまで遭遇したオーク……と言っても、ロジーナに隔離される前にセンテの南で戦ったくらいだけど、その時には大体二、三体程度で行動していたのに。
ともあれ、向こうはまだ俺には気付いていない様子なので、ゆっくりと音を立てないように近付こう。
こういう時、気配を殺すってあるけど……どうやればいいかわからないので、とりあえず息を潜めて忍び足で近付くくらいしかできない。
それでも、オークは周囲の気配とかに鈍感なのか、俺に気付く気配はなかった。
どちらかというと俺ではなく、森のさらに奥の方を警戒している様子だ。
ラミアウネに追い立てられて、ここに集まっているのかもしれない。
ゆっくり、ゆっくりと近付いて、後数歩で程度の距離……大体四、五メートルくらいのまで近付けた。
幸い密集している木々で、身を隠すのには苦労しないおかげかな。
逆に、俺からも木の陰に入って見えないオークもいるけど。
そろそろ……と考えて、エレノールさんから受け取った剣二本を、ゆっくりと抜いた……けど。
「GAFU? GA……」
一番近い位置にいるオークが、耳をピクリと動かし、さらに鼻をひくつかせ始めた。
音を立てないようにしていたけど、やっぱり剣を抜く時にほんの少し音が出ていたのかもしれない……俺の耳には聞こえていなかったし、木々のざわめきでかき消されていると思ったんだけど。
「GAFU! GAAA!! GA!!」
「GA! GA!」
「完全に気付かれたね……」
気付かれないように近付いて奇襲を、と考えていたけどどうやら失敗してしまったようだ。
オークは、鼻をひくつかせたまま俺のいる方に顔を向け、木の陰に隠れていて見えないはずなのに、他のオークに伝達。
身を隠しながら、姿勢を低くして木の陰から覗き込んでみると、完全に俺の場所を特定して十体のオークがこちらを見ていた。
「すぐに襲い掛かって来ないのは、ラミアウネを警戒しているからかな?……とりあえず、一度やってみたかったんだよね」
こちらを注視して警戒しているだけで、向かっては来ないオークの理由はともかく、借りた剣を両手にそれぞれ一本ずつ持つ。
以前、クレメン子爵の所で騎士の人達と模擬戦をした時、双剣使いの人がいたのを見て、一度やってみたいと思っていたんだよね。
練習をした事はないし、付け焼刃ですらないけど……数は多くともオーク相手なら試すのにちょうどいい。
「というわけで、ごめんよ!」
「GYA!?」
俺を発見した、一番近くのオークに飛び掛かる。
まずは一番わかりやすい双剣の形……振り上げてクロスするように斬り下ろす。
いきなり飛び掛かられたオークは、俺の速度についてこられなかったからか、驚きの声だけを上げて防御する間すらなく肩口から剣を食い込ませた。
「つっ! っとぉ!」
途中で止まった剣を引き抜きながら、地面を蹴って体を逆さにし、そのまま斬り付けたオークを飛び越える。
体を回転させ、勢い余って飛び込んだ木の幹に着地して、再び軽く飛んでもう一度斬り伏せたオークを飛び越えて、他のオークたちと距離を取る。
俺が地面に降りたあたりで、ズンッと音を立てて斬り伏せたオークが地面に倒れた。
振り下ろした両手、その剣がエックスの形にオークを斬り裂く……と想定していたんだけど、慣れない事はやるもんじゃないね。
オークの半ば、お腹の中心辺りで両手の剣がぶつかり合って止まってしまった。
完全に同時に両手を振り下ろせば、こうなるのも当然か……。
とりあえず、恰好良さそうな事をするにしても両手を同時ではなく、少しだけタイミングをずらさないといけないという事を学んだ。
「ふぅ、危ない危ない。次からは気を付けないと……」
「GAAAA!!」
「GUFAA!!」
俺が呟いている間にも、仲間がやられたからか、それとも敵とみなして闇雲になのか、木々の合間を縫ってオーク達が俺へと迫る。
それからは、左から迫ってきたオークを右手の剣で斬り伏せ、その勢いを止めぬまま回転して、遅れて右から迫ったオークを、左手の剣で斬り伏せる。
うん、一緒にではなく別々に扱うのなら、なんとか使えているかな。
双剣である意味は、あまりないけど……。
「ん! っと、はぁ! せい! っとと……ふん!」
「GA!?」
「GAA……!? FUGA!?」
「GYAA!?」
「GU……FU!」
地面を蹴り、双剣を深く突き刺したオークをそのまま持ち上げて、別のオークに投げつけ、後ろから迫ったオークを躱すために木へ向かって飛び、幹に着地してさらに他のオークに向かって飛び、斬り伏せる。
森の中に、俺の声とオークの悲鳴が響き渡った……。
「さて、あともう一体か……」
「GU……」
あっという間……とまではいかなくとも、大体数分くらいでオークを計九体斬り伏せ、残ったのは一体。
この段階で、残ったオークは恐れをなしたのか、俺を見ながらジリジリと後退して逃げ出そうとする気配。
「とはいえ、逃がさないよ。さっきは失敗したけど今度こそ……っ!」
「GU!? GYA……」
最終的には魔物を一掃するのが目的なんだから、逃がしたら元も子もないし、探す手間になってしまう。
すぐに飛び掛かり、一体目のような失敗はしないよう振り上げた両手を、タイミングをずらして振り下ろす。
綺麗に、とは言い難いけど今度こそ、短い悲鳴を上げたオークがエックスの文字に、剣の軌跡に合わせて分断された。
「ふぅ……うーん、オーク相手だからなんとでもなったけど、思い付きで双剣なんて上手く扱えるわけないかぁ」
オークの血の臭いと、木々の臭いが混ざる中、両手に持った剣を見て考える。
人が一人か二人通るのがやっと、もしくはほとんど隙間がない木々を、足場のようにして動くのは上手くいったけど、双剣はちゃんとできていたかと問われると首を傾げるしかない。
慣れた人なら、瞬時にどちらの剣を振るうかなどを判断できると思うんだけど、初めてやった俺は、オークに対してどちらの剣を使うか、それとも両方使うかなどで悩んでしまって、判断が遅れた部分も多い。
「エアラハールさんに見られたら、怒られそうだ」
特に痛みはなかったけど、オークの体当たりを受けた時もあったし……戦闘中に逡巡どころか数秒程、悩んで動きを止めるなんてもっての他だからなぁ。
モニカさんやソフィー達との模擬戦だったら、その隙をつかれて結構痛い攻撃を受けていたと思う。
……今なら、次善の一手で怪我をするような事もあるかもしれないし。
「あちゃぁ……服、ちょっとだけ切れちゃってる」
袖の一部だけだけど、ほんの少し切れ目が入っているのを見つけた。
オークの攻撃を受けてとかではなく、自分の剣で斬れてしまった部分だ。
刃物を扱うときは、ちゃんと注意しないと自分も危ない……なんて考えつつ深く溜め息。
と、そこで気付いた事が一つ、重大な事ではないけど、考えないとこのまま奥にはいけないかも――。
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