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また初めての魔物と遭遇
しおりを挟む「しかし、ラミアウネは蛇の体の方が役に立つものだとはね……しかも、表面の皮ではなくて内部の方が重要だとか」
兵士さん達に任せたラミアウネの回収。
表面が黒焦げのラミアウネが役に立つのか、と少し疑問だったんだけど、蛇の体の内臓とかが作物の肥料になるんだとか。
ヘルサルにある大きな農園と、センテ襲撃やこれからの事を考えると大量の肥料が必要になって来るため、凄く助かるらしい。
粉塵爆発みたいな現象で、外側だけでも黒焦げになって、しかも花の部分は燃え尽きてしまっただけに、やってしまった感はあったけどそうじゃないのなら安心だ。
ちなみに、冒険者ギルドなどで討伐依頼が出た場合、討伐証明部位は顔の一部の花弁だ。
こちらはあくまで、討伐したという証明のためであって、素材を求める依頼だったら蛇の体を持ち帰るみたいだけどね。
あと、ラミアウネは体を両断するか、花弁を全て散らせば倒せるとも兵士さんから聞いた。
両断はともかく、証明部位の花弁を狙う場合は全部燃えてしまわないために、火の魔法を調整しないといけないために難しくなり、あまり受け手のない依頼になるとか。
まぁ蛇の体の方を持ち帰れば、依頼がなくても肥料素材として買い取ってもらえるし、よっぽど余裕がない場合はそちらを持ち帰る事が多いみたいだけども。
さすがに、俺が今回倒したような数が一度に襲って来るような事は当然ないし、大体は群れていても二、三体程度らしいから、複数人で挑めば持ち帰るのも難しくない。
肥料素材としての買い取り価格はそんなに高くないから、結局不人気依頼らしいけどね。
「ん? あれは……」
再出発して森の奥へ進む事約三十分……時計とかないから、あくまで体感だけど。
ともあれ、移動している先から少し右にずれたあたりの、木の枝に複数の黒い影のような何かを発見。
一瞬、エレノールさんが兵士さん達から聞いた、何者かわからない影かなと思ったけど違う。
「確か……シュリーガーラッテ、だったっけ」
シュリーガーラッテ、黒い影に見えたていたのは枝にぶら下がり、閉じた黒い羽が全身を覆っているからだね。
周囲を警戒しているのか、二体ほど羽を開いて顔をキョロキョロとさせている。
まだ俺は見つかっていないようだ……黒い影を発見してすぐ、木の陰に隠れたからだろうけど、シュリーガーラッテは目が良くないらしいっていのもあるのかも。
数は、二十ってところか。
そのシュリーガーラッテ、魔物としては弱い部類で向かって来るのならDランクの冒険者でも、楽々倒せる程度。
ただし、他の魔物よりも群れる習性がある事と、羽で空を飛ぶので討伐対象にした場合は大抵複数人で挑むのが定石。
逃げないようにする役などが必要だからね。
討伐する側の方が多ければ、Eランクの冒険者とかでもなんとかなるらしい……もちろん、慣れないと怪我をする可能性はあるけど。
体の大きさは一メートルあるかないかで、ラミアウネやオークとかと比べると小さいけど、尻尾のないネズミで目がギョロっとしているのは、薄暗い森の中で見るとちょっと気持ち悪い。
この世界だと農家の天敵だったり、色々と不衛生なネズミは忌み嫌われているけど、あまり気持ち悪がられたりはしないんだけど……まぁ他にももっと気持ち悪い魔物とかいるからね、ラミアウネもそのうちの一種類か。
ともあれ、日本では一部で気持ち悪いと言われて、嫌いな人もいるネズミを巨大化してさらにギョロ目で、嫌悪感を彷彿とさせる見た目だ。
その背中からは、体を覆う程の黒いコウモリの羽が生えていて、自由……という程ではないかもしれないけど空を飛ぶ。
要はコウモリの羽をもったネズミだね。
ちなみに噛みつきはするけど、血を吸ったりはしない。
シュリーガーラッテの攻撃方法は、空を飛んでの体当たりで急襲、もしくは噛みつき、それと風の魔法だ。
フィリーナ達が使っていたウィンドカッターという魔法に近いものだけど、あまり鋭くなく服と皮膚を斬り裂くくらいはできても、腕とか指を斬り落とす程ではない、らしい。
そうはいっても、何度も受けたり当たり所が悪かったりしたら危険だけどね。
あと、空を飛ぶと言ってもあんまり高く飛べないらしく、この森で言うと十メートル以上ある木の中ほどくらいの枝が、飛べる最高高度だと聞いている、大体五メートルから六メートルくらいだね。
速度もあまり速くなく、落ち着いていれば空から奇襲されても簡単に対処できるとか。
「確か、基本は遠距離で攻撃しつつ、逃げようとしたら羽を、飛び込んできたら剣などの武器で斬るか叩き落せばいい、だったかな」
シュリーガーラッテは目がいいわけではなく、基本的にネズミの耳で周辺の状況を知るらしい。
とはいえ、その耳も数メートル先の音を聞くくらいしかできず、鋭いと言えるほどではないとか。
だから、遠目に見つけたら音を忍ばせて近付き、羽を狙って弓矢なり魔法なりを使って対処するとか。
高いところにいる事が多いため、剣や槍を届かせるのは忍び寄っていても難しいので、発見した人の得意な戦闘法によって少し討伐難易度が変わったりもする。
「剣しか使えなかったら、大体逃げられるらしいからね……」
なんて呟きつつ、俺が忘れかけて兵士さんが発見して回収してくれていた、ラミアウネと戦う前に地面に突き刺したもう一本の剣を抜く。
ラミアウネとの戦いで使っていた剣は、少しだけ刃こぼれし始めたようだからね……やっぱり、俺はエアラハールさんに言われてやっていた、ボロボロの剣での戦いを訓練としていても、意識しなかったら雑なようだ。
「もう少し近付いて……」
片手に剣を持ち、木の陰に隠れて発見されないよう気を付けながら音を立てないよう、ゆっくりとシュリーガーラッテに近付く。
「あ……って、大丈夫か。はぁ、目があまり良くないっていうのは本当みたいだね」
近づく中で、周囲の……おそらくラミアウネとかを警戒している可能性が高い、シュリーガーラッテの一体と、ばっちり目が合った。
けど、向こうは騒ぐことなくすぐにふいっと別の方へギョロリとした目を向ける。
真っ直ぐ目が合ったはずなのに、俺の事はわからなかったみたいだ……薄暗いし、まだ少し距離があるからシュリーガーラッテにはよくわからなかったんだろう。
マックスさんや、他の冒険者さんと話した時に聞いた話を信じていなかったわけじゃないけど、目が良くないというのは確信を得られた。
「これならもう少し近付け……あ」
目が合っても大丈夫なら、もっと近くまで行っても……と足を踏み出した瞬間、地面に落ちていた枝を踏み折り、パキッ……という音を立ててしまった。
よくある、隠れている人が見つかる時の典型だ。
多少見られても大丈夫、という考えが足下をおろそかにしてしまったんだろう。
その音が周辺に響いた瞬間……。
「KI! KIKI! KIKII!!」
「KII! KIIKII!!」
警戒していたシュリーガーラッテが甲高い声を上げ、周辺にいる他のシュリーガーラッテが一斉に羽を広げた。
見えているのかはともかく、全てが俺に顔を向けているので完全にバレてしまったようだ――。
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