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シュネーウルフを倒して考える事

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「もしかして、爪が長すぎるとか、鋭すぎるから……?」

 こりずに飛び掛かって来るシュネーウルフを避けながら、動きを観察する。
 すると、呟いた言葉を証明するかのように、着地や方向を変える時などでは常にもたついているようだった。
 爪が地面に突き刺さり、それを抜こうとして簡単に抜けたりして……といった感じだ。
 簡単に抜けるならとは思うけど、多分感覚が違うんだろう。

 これくらいの力で、刺さった物を抜けると頭で考えて力を入れるとする。
 けど、実際にはもっと軽い力で抜ける物だった場合、ちょっとバランスを崩したりするあれかもね。

「っと! ちょっと元気過ぎるから、もう少し弱らせた方がいいか。んっと!」
「GYAHIN!」
「GURU!?」

 何度も飛び掛かって来るシュネーウルフに、鞘を横っ腹や足の付け根辺りに当てていく。
 もたつく事はあっても、さすがにウルフ種なのもあってか、中々狙い通りにさせてくれないからね。
 弱らせて動きが鈍くなったところが狙い目だ。
 いっつも剣で薙ぎ払うばかりだったけど、素早く動く標的の、しかもどこでもではなく一か所を狙って突き込もうとするのって、結構難易度が高いんだなぁと実感。

 これまでいかに自分が雑な戦い方をしていたのかが、よくわかるってもんだね。
 今度エアラハールさんに会ったら、色々と教えてもらわないと。

「まぁ後々の話は置いておいて……っと!」

 考えている間にも、再び飛び掛かって来るシュネーウルフ。
 戦闘中だから当然だけど、向こうは俺が何を考えていようがお構いなしだ。
 飛び掛かってきた一体目を避け、走って来るもう一体を上に飛んで避けながら体を回転させ、体に鞘を当てて弾き飛ばす。
 剣で斬っているわけじゃないから、表面上は土汚れくらいしか見えないけど、内臓などの内面には確実に衝撃がいっているのは間違いないはずだ。

「GURU……」
「GAHU……」

 二体とも呼吸が荒く、舌を出して時折あえぐようにしている。
 毛皮を汚さないためとはいっても、牙や爪を折らないように戦うのは気を遣うなぁ。
 このまま弱らせるのはなぶっているようだし……いや、大きく違わないんだけど。
 でも、結構動きが鈍って来ていて、避けるのも容易になっているから、そろそろ決着をつけようと考える。

「それじゃ……次で決めよう」

 そう呟き、剣を持つ方の手に少しだけ力を込める。
 斬るわけじゃなく突きで止めを刺す事を忘れないよう、頭の中で意識をしながら……。

「GA……GAU!!」
「もう何度もそれは見せてもらったし、動きが鈍っているよ……っと!」

 飛び掛かって来るシュネーウルフに対し、何度も見たのと鈍化した動きだったのを見極めて潜り込む。
 大きく開けた口の下から、喉へ向けて剣を突き出して深々と……突き抜けるまで深く突き刺した。
 飛び掛かってきた勢いのシュネーウルフを踏ん張って受け止め、剣を突き刺したまま力なく項垂れる。

「GYA……」
「GAUWAU!!」
「そっちも、動きを止められたわけじゃないんだよ! せい!」

 小さく息のような鳴き声を漏らしてだらんとしたシュネーウルフには、まだ剣を突き刺したまま、俺の動きが止まったと思ったのか、それとも仲間がやられたからか、駆けて突撃してくるもう一体。
 そちらはこれまでと同じように体をずらして避つつ、今度は体ではなく頭部を狙って鞘を当てる。

「GA……!!」

 短い悲鳴を上げて弾き飛ばされるシュネーウルフは、そのまま大きな体を木に叩きつけられ、地面に落ちた。

「よいしょっと。んっ!」

 弾き飛ばしたシュネーウルフが動かないのを確認し、突き刺して受け止めていた方を地面に横たわらせて剣を引き抜く。
 当然、傷口から血が溢れて来るけど、汚れは最小限で済んだみたいだし、牙や爪は折れていない。
 斬り裂くよりは、かなり綺麗に倒せたんじゃないだろうか。

「さて、こっちは……と。ごめんね……」

 血を流して完全に息の根が止まったシュネーウルフをそのままに、もう一体の方に近付く。
 狙い通り意識が刈り取れたようで、立ち上がる気配はないけどまだ荒い呼吸を続けている。
 少しだけ申し訳ない気持ちになりながら、横たわるシュネーウルフののど元に剣を突き刺して、止めを刺す。
 脳裏に、謝るのは今更だな……なんて考えが浮かんだのは、甘さとかそういうものなのかもしれない。

 襲って来る魔物に反撃する形で倒すなら、何も感じないとは言わないまでも、仕方ないと思えるんだけど。
 でもどうしても、ここまで戦っていて、襲われていたのに、最後は無抵抗になった相手の止めを刺すのは、どうしても気になっちゃうね。
 まぁ、無抵抗にして止めを刺しやすくするために、意識を刈り取ったのは俺が狙った事でもあるんだけど。

「魔物が相手でこれなら、人が相手なら……」

 思い浮かんだ考えを、頭を左右に振って追い出す。
 エルサに言われたから、剣で戦う練習も兼ねて森に来たけど、実は俺の中ではもう一つの目的があった。
 これまで、街に迫る大量の魔物を倒す時には必死だったし、皆を守るためでもあった。
 エクスブロジオンオーガの場合は、爆発する対処を考えてあまりそういった事を考えないようにしていたけども。

 それでも、帝国と衝突するのはほぼ確定事項になっているわけで……もしなんらかの事情で戦争が避けられたとしても、あのクズ皇帝だけは野放しにはできないから。
 だから、人との戦いになる前に魔物と一人で戦って、確実に命を絶つ事を意識的にやっておかなければいけない、と思ったんだ。

「やっぱり、意識しちゃうとなぁ」

 森に入ってかなりの魔物を倒したけど、その間できるだけ深く考えないよう目の前の事に集中してきた。
 ラミアウネの時は、数が多かったのと花粉を吸い込まないようにとか、剣魔空斬を編み出して高揚していたおかげで、あまり意識せずにいられたけど。

「でも、ちゃんと考えていかないとね……」

 姉さんにも言われたし、戦争をする、人と人が殺し合う事に対して、何も考えないわけにはいかないから。
 ……本当は、センテでしばらくのんびりするはずだったから、その時に考えようとしていたんだけどね。
 ロジーナに隔離されたり、魔物が押し寄せたり、意識を乗っ取られたりとか色々あってできなかった。

 だからまぁ、状況的には落ち着いている今が一番いいかなってね。
 モニカさん達も、解氷作業や他の事で忙しくしているし、一人で考えるにはちょうどいいだろうから。

「考え込み過ぎるのもいけないんだろうけどね。あぁそうか、兵士さん達や冒険者さん達に、陽気な人が多いのはそういう事なのかもしれないな……」

 いや、実際どうなのかはわからないけど……魔物や人の生き死にに関わる、というか自分や仲間が命を懸けて魔物や人と殺し合う。
 そんな状況だからこそ、明るく振る舞って呑み込まれないようにしているのかもしれない。
 もちろん性格上、あまり明るくない人もいるし、危険な考えの人だっているけども……。
 そうやって、冗談を言ったりお酒を飲んで騒いで過ごす事で、目を逸らすのではなく押しつぶされないように耐えている……という人もいるんだろう――。


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