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大きな音は居場所がわかりやすい
しおりを挟む「……成る程、これは俺達のいる場所もよくわかるね」
トレジウスさんと別れてさらにしばらく。
薄暗くなってきて、そろそろ森の外に向かい始めた頃、遠くの方で大きな音が断続的に聞こえた。
その音の方向に向かって、大分近付いたんだけど……それを示すように、響く音がどんどん大きく聞こえてくる。
音を出している元凶は、カイツさん曰くフィリーナ、アマリーラさん、リネルトさんの三人組らしい。
これまでは、人が複数とか魔物が複数など大まかにしかわからなかったのに、フィリーナ達の事を特定できたのは、カイツさんとフィリーナがエルフだからで、木々を通してなんとなくわかったかららだとか。
アマリーラさん達の事はわからなくても、そこにフィリーナがいるのさえわかれば、一緒に行動しているアマリーラさんとリネルトさんがいるってのも当然わかるからね。
あと、大きく響いている音がフィリーナがいる場所らしいというのも、証明している事になるかな。
フィリーナは、カイツさんのように派手に木々を倒して暴れるなんて事、しないだろうし……アマリーラさんだろうなぁ。
「リクさんの場合は、もっと大きかったような気がするけど……でも、ほんとにわかりやすいわね」
おそらく、というかほぼ間違いなく、木を倒す音の響く方に向かいながら、モニカさんが呟く。
俺の方が音が大きかった、というのは多分近くにいたからだろうと思う。
木を倒す音が人によって大きさが違うとか、ないと思うから……ないよね?
「む、音が止みましたね」
「本当だ。魔物がいたとかですかね?」
「いえ……フィリーナがいる場所とここの間に、魔物はいないはずですが……」
ピタッと、これまで断続的に響いていた音が突然なくなる。
足を止めて、少しだけ待ってみても音がして来ないので、木を倒すのを止めたんだろうと思う。
もしかしたら他に何かあったから……魔物を見つけて戦い始めたから、と考えたけどそれはカイツさんに否定された。
「途端に、どこにいるのかわからなくなったわね」
「音で居場所がわかるってソフィー達が言っていたのも、よくわかるね」
静かに、森の木々のざわめきしかなくなって、アマリーラさん達がいる場所……まぁ大体の方向くらいだけど、それがわからなくなった。
俺がまだ木を斬り倒している時、ソフィー達はこんな気持ちだったんだろうなぁ。
というか俺はあの時、誰かが近付いてくるのを待って木を斬り倒さなくなったけど、俺達が移動したら合流して話を聞けなかったのか。
まぁ、ソフィーとフィネさんなら確かめるために、音のしていた場所には間違いなく来ていただろうけど。
「とはいえ、こちらからはフィリーナの場所がわかるので、問題ありません。行きましょう」
音がなくなっても、カイツさんがいればフィリーナ達と合流するのは難しくない。
案内に従って、フィリーナ達がいるらしい場所へと向かう。
というか、冒険者さん達の中にはフィリーナ達と会った人もいたけど、俺と同じようにあれだけの音を立てていたら、警戒されて離れて行って冒険者と出会えないって事にならなかったんだろうか?
まぁ目印代わりってわけじゃないだろうから、冒険者さんの所に向かおうとする時には、アマリーラさんをリネルトさんが落ち着かせたとかかもしれないけど。
改めてさっきまで響いていた音を思い出し、あんな派手な音が聞こえたら、そこに誰がいるか確信して安全だと考えない限り、近付きたくならないよね。
おおよそ、人が森の中で出す音じゃなかったし。
反省しよう。
「……あ、また音が……って、どんどん近づいているような?」
「そ、そうみたいね。音がこちらに向かっている気がするわ」
少し森を進んだ辺りで、再び断続的に響き始める大きな音。
ドーン! とかミシミシミシ! とか聞こえる大きな音が、だんだんと近くで発生しているように聞こえた。
モニカさんも俺と同じように感じたみたいだね。
「ふむ……成る程。どうやら、フィリーナ達もこちらに真っ直ぐ向かって来ているみたいです」
「フィリーナ達が。という事は、これって……」
近くの木に手を当てて探ってくれたカイツさんによると、フィリーナ達がこちらに向かっているからの音らしい。
でもこの音、さっきまでと違って響く間隔が狭いというか……それこそ、進行方向の木をとにかく倒しているような感じなんだけど。
「リー……さー……!!」
「ん?」
さっきまでのと違い、薙ぎ倒して進むという表現が合いそうな音と共に、遠くから小さな叫び声のようなのが聞こえた。
聞いた事があるような声……?
「リークーさーまー!!」
かなり近くなった、木の倒れる音と共に聞こえるのは俺w及ぶ叫び声。
というかこれって、アマリーラさんの声かな?
叫んでいるような声だけど、倒れる木々の音の方がうるさいから小さく聞こえる程度だけど。
「リク様リク様リクさへぶぅ!!」
「あー……」
「痛そう……で、すむのかしら?」
「まぁ、リク様以外であれば、大きな木を前にすればあぁなるのは当然だろうな」
近づいていた木の倒れる音と叫び声。
もうすぐそこ……というところで、激突音と共に声が途切れた。
なんとなくどうなったのかは予想できるけど、とりあえず確かめるために、音が途切れた場所……激突音の下所へそそくさと近寄ると、一際大きな木の幹にへばりついたアマリーラさんが見えた。
どうやら、真っ直ぐこちらに向かっていたのだけど、この大きな木はさすがに倒せなくて勢いのままぶつかって止まったってところだろう。
「うわぁ……ちょっと見晴らしがよくなった、かな?」
その後ろ……アマリーラさんが来たと思われる方を見てみると、いくつかの木がなぎ倒されていた。
倒された木々は、斬られたというよりもへし折られたという方が正しい様子で、他の木と比べると細めで小さめの木だった。
まぁ、大きな木をなぎ倒しながらはさすがのアマリーラさんでも無理か。
関係ないと思ったけど、モニカさんが言っていた俺の方が木を倒す音が大きかったというのは、木の大きさのせいだったのかもしれない。
基本的に大きい程重量があるわけで、倒れた時の音も大きくなるよね。
どちらにせよ、傍迷惑な事には変わりないけど。
「フィリーナ!」
「モニカ、リク! それとついでにカイツも!」
「私はついでか……まぁ構わんが」
そのアマリーラさんがなぎ倒した木々の向こうから、フィリーナが走ってこちらに来た。
手を振って呼び合うフィリーナとモニカさん。
カイツさんはついで扱いだけど……本人が砕けた口調になるように、気心が知れた間柄だからってのもあるんだろう。
同じエルフで昔から知っているからね、それこそ、数十年どころじゃなく何百年も前から。
……フィリーナが怖いので、あまり生きている年数を考えるのはやめておこう。
「って、あれ? アマリーラさんは木にくっついたままだけど、リネルトさんは?」
一緒にいるはずのリネルトさんが見当たらず、周囲をキョロキョロ。
フィリーナが来た道……アマリーラさんがなぎ倒して切り開いた木々の中、無事だと思われた木にも切れ込みが入っていたり、大きく一部が抉れていたりするのは見つかったけど。
多分、アマリーラさんが殴ったり大剣でなぎ倒そうとしたけど、倒れなかった木々なんだろう――。
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