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長くお世話になった宿に感謝を
しおりを挟む「ほら、ユノ。ロジーナも」
「ありがとうなの。楽しかったの!」
「なんで、私が……はぁ」
俺が促すと、元気よく笑顔でお礼を言うユノと、不満そうなロジーナ。
まぁロジーナは無理矢理巻き込まれた感じだから、仕方ないけど……結構楽しんでたように見えたけどなぁ。
レッタさんが、すごく微笑ましいものを見るように観察していたくらいだ。
「遊んでくれたんだから、ちゃんとお礼を言わなきゃダメなの。そんな事もできないの?」
「わ、わかってるわよ! はぁ……世話になったわね。まぁ、ちょっとくらいは楽しかったわ」
ユノが注意する、というか挑発するように言って渋々ながらお礼を言うロジーナ。
お礼になっているようななっていないような……まぁロジーナらしいっちゃしいか。
宿の人達も気にしていないようだし、というかむしろ朗らかにそんなロジーナを見ているようだから。
年齢の高い人もいるから、小さい女の子が強がって虚勢を張っているようにも見えるのかもしれない。
孫や娘を見ているような感覚の人もいるっぽい。
一部の人は、ユノやロジーナを見て涙ぐんでいるし……それだけ皆親しくしてくれたって事なんだろう。
「こちらこそ、ユノ様、ロジーナ様のおかげで宿内の明るい雰囲気を保つ事ができました。センテを取り巻く状況から、街だけでなく宿、そして我々も沈んでしまいかねなませんでしたが、おかげ様で希望を持ってお世話させて頂く事ができました」
「ふふーん」
「ユノ、そこは胸を反らすところじゃないよ?」
宿の人達を代表して、一番年配の男性がユノやロジーナに感謝を伝える。
それを聞いて、ユノが誇るように胸を反らしていたけど……そこは照れるなりなんなり、反応を間違えているとしか思えない。
「ふふ、ユノちゃんは相変わらずね」
「そうだな。これでこそって感じもするくらいだ」
「実際はどうあれ、無邪気な女の子ですね」
「……威厳とか欠片も維持できていないわよね」
「ロジーナ様の威厳溢れるお姿と比べるべくもないですね。でも、可愛いのは確かです」
「なんか、途中から文句を言われているようなの……?」
そんなユノを見て、皆がそれぞれ何か言っているけど……とりあえずレッタさんはユノに一切目を向けず、ロジーナだけをジッと見て言うのはどうかと思う。
そろそろ、レッタさんがロジーナを好きすぎて道を外れそうな気がしているのは、気のせいじゃないかもしれない……。
ある意味、既に道を外してしまったからこそ、ここにいるような気もするけど。
「では、皆様のご健勝、そしてこれからのご活躍を期待しております」
「はい、本当にお世話になりました。ありがとうございます!」
「お風呂が特に良かったのだわ~。のんびりできたのだわ~」
もう一度、宿の人達全員が一斉に頭を下げ、俺達を送り出してくれる。
それにこちらからも、エルサの感想を加えつつ、それぞれお礼を言って宿を出た。
本当に、ここの人達には随分とお世話になった……これからも、高級な宿として多くの人をもてなして欲しい。
なんて考えながら、長期滞在で少し多くなった荷物を抱えて、センテ西門の外へと向かった。
「あぁ、このひんやりとしてすべすべとした感触……癖になる……」
「GA、GAA……?」
「えっと、あれは?」
整列してくれている衛兵さん達に挨拶をしつつ、西門を抜けた先、皆が待ってくれている場所に合流した……のはいいんだけど、リリーフラワーの干し肉担当。
いや、何故か干し肉にばかり執着を見せるミームさんが、今はずらっと集まっている大量のワイバーンのうち一体に抱き着いて、頬擦りまでしている……。
「あんなミームさんは初めて見たわ……」
「干し肉以外の事にも興味があったんだな……いや、ルギネに興味を持ってパーティに入ったのは知っているが、あんな様子は初めてだな」
「私は、干し肉に興味……執着? するミームさんしか見た事がありませんでした」
俺と一緒にいるモニカさんやソフィー、フィネさんも大体俺と同じような感想みたいだ。
まぁ、普段干し肉……と呟くばかりのミームさんが、あぁしてワイバーンに頬擦りするのを見ればそうなるのも仕方ないと思う。
「あ、リク様!」
「リクか……ここに来てすぐ、ミームがあのようになってしまったんだ。私達も驚いているが……」
「ミームはこれまでの経験から、干し肉に対して執着するのは仕方ないのだけどねぇ。あんなにワイバーンを気に入るとは思わなかったわぁ」
先に来ていたカーリンさんやルギネさん達が俺達に気付き、こちらに来る。
俺達と同じように、ミームさんを呆れというか驚きというか、よくわからない表情で見ているようだった。
「以前から、ミームはワイバーンを物欲しそうな目で見ていたわよ?」
「そ、そうなのか?」
「……お姉様は最近、リクの事ばかりだから……」
「い、いや、そんな事はない……はずだぞ?」
「あらあらぁ」
なんて、パーティの人達と話し始めるルギネさん達。
とりあえず、ミームさんが干し肉に執着するのは何か理由があるみたいだけど、今の状況は気にしなくても良さそう……かな?
ワイバーンの方も多少戸惑ってはいるみたいだけど、大丈夫そうだし。
うん、あまり関わらない方がいいという事ではないけど、触れない方がいいかもしれないし、ルギネさん達に任せよう。
「はぁ、このすべすべ、ひんやり感……少し湿っている感じもまたいい……」
「そろそろ離れろミーム、そんなに引っ付くとワイバーンも困ってしまうだろう。いくら友好的で襲ってこないからって……」
「あっちは任せておくとして……」
「そ、そうね。ルギネさん達の方がミームさんの事をわかっているでしょうから」
ルギネさん達がミームさんをワイバーンから引き剥がしにかかっているのを、なんとなく会話で聞きながら俺達は集まっている兵士さん達の方へ。
皆待っているようだし、出発が遅くなってもいけないからね。
「皆、集まっている……いいんですよね?」
「はっ! ヴェンツェル様旗下、王軍兵士計四十名、揃っております!」
俺が来たからか、整列して直立不動になっている兵士さん達、その一番前にいる人に声をかけると大きな声で答えてくれた。
緊張しているとかだろうか? まぁ、確認のために大きな声を出すのはいい事かな。
……ここまで大袈裟な反応でなくてもいいんじゃないか、とは思うけど。
「ヴェンツェルさんはいないんですね?」
あの人の事だから、見送りと称して来ていてもおかしくないと思ったんだけど……カーリンさんもいるわけだし。
「はっ! 私がこの隊の全権を任されております! ヴェンツェル将軍閣下は、リク様と同行する我々が抜けた後……」
など、硬い返事をする兵士さんから詳しい話を聞くと、ここにいる一足先に王都へ戻る兵士さん達は隊長格の人ばかりで、実力者が揃っているらしい。
まぁセンテやヘルサルでこれ以上何かが起こる事はなさそうだし、もしあってもヴェンツェルさんとマルクスさんの王軍兵士、シュットラウルさんの侯爵軍兵士がいるため、どうとでもなるからと思われる――。
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