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見送りに来る人達
しおりを挟む「さて……と。俺も手伝わないと」
「早く乗せるのだわ~」
「はいはい」
俺達の荷物だけではなく、兵士さん達の荷物もあるためかなりの量だ。
今はワイバーンに乗るため、軽装の兵士さん達の鎧とか、道中の食料とかもあるからね。
まぁ、数日がかりじゃないから食料は本来センテから王都へ行くのに必要な量よりもかなり少ないけど、それでも合計五十人以上なのだから、一食分だけでもかなり多い。
「よいしょ……っと!」
布袋や木箱に入れられた物を、両手に持てるだけ持って大きくなったエルサの背中に向かってジャンプ。
本来なら荷物が重くて、持てる量も限られるんだろうけど俺はあまり重量を感じないというか……感じはするんだけど、簡単に持てるという方が正しいか。
ただ、いくら軽く感じるとはいえ、俺の手は二本。
持てる数や量は限られているからね……多くの荷物を持つ訓練とか、した方が便利かなぁ? いや、あまり必要そうじゃないからいいか。
なんて考えつつ、数度往復して荷物を載せている間にフィリーナ達が兵士さんを連れて戻り、手伝ってくれる。
さらに、なんとかミームさんを引き剥がすのに成功したルギネさんやモニカさん達も来て、エルサの背中で荷物の固定をしてもらう。
あまり激しく揺れる事はないし、エルサが結界を張ってくれるから落ちてもなんとかなるけど、落ちないようにするのが一番だからね。
ちなみに固定化は、荷物をそれぞれ縄などで縛って連結させ、それをエルサの毛の数十本をまとめた所に結び付け、さらに複数カ所繋げてズレないようにするという強硬手段だ。
他にいい方法はありそうだけど、あんまり考えている時間がなかったから、こうなった。
エルサの毛は俺が引っ張っても抜けないくらいだし……さすがに痛がるけど、エルサ自身の了承も得ているので問題ない。
その代わり、休憩の時におやつのキューを多く食べさせる事になっているけども。
まぁキューを食べるだけで受けてくれるなら、安いものかな。
「私は安い女じゃないのだわー!」
なんて、考えている事がエルサにバレて怒られたりもしたけど。
俺の考えている事の一部が契約の繋がりから流れたのか、それとも俺の表情や雰囲気から悟ったのか……まさか心を読んだわけじゃないとは思うけど、
というか安い女なんて言葉、どこで覚えたのか……あ、俺の記憶か。
日本にいた頃ドラマか何かで聞いた覚えがある。
「ふむ、やっておるなリク殿」
「あ、シュットラウルさん。マルクスさんも」
「侯爵様、大隊長殿に敬礼!!」
そんなこんなで、出発する準備がほぼ完了した頃、それを見計らったわけではないと思うけど、センテからシュットラウルさんとマルクスさんが出てきて、声をかけられた。
シュットラウルさん達を見た王軍兵士さん達は、号令の下敬礼。
そのシュットラウルさん達の後ろには、マルクスさんの王軍兵士さんの他に、見覚えのある人達がずらりと並んでいた……街の人達だね。
「うむ……楽にしていい。いや、まだ準備が終わっていないのだろう、続けてくれ」
「はっ!」
手と言葉で兵士さん達に、進めている出発準備を続けるよう促すシュットラウルさん。
成る程、整列して敬礼したり直立不動になったりしている兵士さん達には、あぁやって声を書ければいいのか……。
俺にできるかわからないけど、少し参考になった。
「それで、どうしたんですかシュットラウルさん、マルクスさんも。忙しいのに」
「見送りには行くといっただろう、リク殿? 街だけではない、侯爵領。ひいては国を救ってくれたに等しい英雄に対し、何もせず王都へ向かわせるわけにはいかんからな」
「私は、ヴェンツェル様の代わりも兼ねていますから」
俺としては少し大袈裟だと思うけど、そういうものらしい。
マルクスさんは、ヴェンツェルさんから話を聞いている……というか報せがあったのだろう、来れない代わりも兼ねているようだ。
ヘルサルとセンテの往来が復活してからは、同じ王軍同士で連絡を取るのも容易になったからね。
ヴェンツェルさんの駐屯地からなら、馬で駆ければ一時間足らずでセンテのマルクスさんの所に行けるくらいだし、忙しくなってしまったヴェンツェルさんから代わりにと言われたんだろう。
元々、マルクスs何は言われなくてここに来るつもりだったようではあるけど。
「以前にも正式に礼はしたが、改めて。リク殿、センテを代表して礼も言わねばな。……魔物討伐、まさに英雄の働きと言えよう。リク殿がいたからこそ、失われなかった命も多い。英雄リク殿に最大限の感謝を」
「王軍からも、リク様に最大限の感謝を……」
「「「「「感謝をっ!!!」」」」」
シュットラウルさん、マルクスさんが感謝の言葉と一緒に頭を下げると同時、後ろにいた兵士さんや街の人達が一斉に声を上げて深く頭を下げた。
出発準備の作業に集中していた人や、ワイバーン達が何事かとびっくりしてこちらを見ているのはともかくとして。
えーっと、こういう時は……。
「……は、はい。魔物からの被害を減らし、街や多くの人を助けられた事、俺一人では成し遂げられませんでしたが、その一助になれた事を嬉しく思います」
こうして多くの人が感謝してくれているんだ、慣れないとか謙遜とかをして無碍にしてはいけないだろう。
そう思って、できる限りでそれらしい言葉を並べて頷く。
これでいいのかな? と不安になってモニカさん達の方を見てしまうのは、なんとも俺らしいと言えなくもないけど……ともあれ、頷いてくれたので間違いじゃなかったようだ。
――シュットラウルさん達や街の人達から、改めての感謝を受け取った後、多くの人に手伝ってもらって予想より早く出発準備を完了させた。
荷物が多く、エルサに載せたり一部のワイバーンに載せたりしていたんだけど、もう少し時間がかかりそうだと思っていたから、ありがたい。
最初はモニカさん達と王都に戻るだけだったのに、大所帯になったため、一晩の野営も予定に組み込んだため、かなりの量だからね。
「ふむ、こうして見るとやはり壮観だな。これだけで、一軍の戦力もあると思える。まぁ、そのうちの一人、リク殿だけで一軍どころではないのだがな」
「まぁ俺の事は置いておいて……確かにそうかもしれませんね」
出発の準備が終わり、荷物はエルサとワイバーン達の一部に載せ、兵士さん達はワイバーンに分乗、モニカさん達やリリーフラワーの皆、カーリンさんも含めてエルサに乗っている。
空を飛べる事だけでなく、屈強な兵士さん達やワイバーンも戦えるわけで……勢揃いした壮観さと相まって、シュットラウルさんの言う通り一つの軍が戦いに行くような雰囲気すらあった。
……実際は王都に移動するだけだけどね。
「それじゃ、シュットラウルさん、マルクスさん。それに、見送りに来てくれた皆さんも……」
改めて、シュットラウルさん達に向き合い、最後の挨拶。
いずれ王都に戻って来るマルクスさんはともかく、シュットラウルさんやセンテの人達は今度いつ会えるのかわからないからね。
まぁ、わざわざ街から出てきてくれた街の人達はちょっと離れているから、俺の声が届いているかはわからないけど――。
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