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王都へ向けて出発
しおりを挟む「お世話になりました。また機会があれば」
「うむ。お世話になったのはこちらの方ではあるが……いずれまた会えるのを楽しみにしている。ヘルサルやセンテだけでなく、私が治める侯爵領はリク殿達を拒む事はないだろうからな。それに、復興があるため少し難しいかもしれんが……事を構える時はなるべく馳せ参じる所存だ。リク殿だけでなく女王陛下、ひいてはこの国のためにもな」
事を構える、というのは帝国との戦争が開始されたらの話だろう。
まぁもうほとんど避けられる事はなさそうで、時間の問題だろうけど。
ともかく、シュットラウルさんだけでなくセンテの危機を切り抜けた、侯爵軍の兵士さん達が来てくれるのは心強い。
俺やモニカさん達との訓練や演習、実際に多くの魔物と戦った経験が、帝国との戦いで生かされるだろうから。
「私は、ヴェンツェル様と共にか……それとも時期をずらすかはともかく、いずれ王都に戻りますので。また王都で、ですね」
「はい、王都で」
マルクスさんとも再開を約束し、簡単に挨拶を交わす。
「それじゃあ皆さん、お元気で! っと!」
手を振る二人……だけでなく、歓声と身振りなどで見送ってくれる街の人や兵士さん達に手を振り返し、モニカさん達が待つエルサの背中に飛び乗った。
「久々の王都ね。結構長くセンテに滞在していたけど……」
「そうだね。戻ったら色々とやらないといけない事もあるし、のんびりはできそうにないけど、待ってくれている人もいるし、王都に戻ろう。――エルサ、頼んだよ!」
「了解したのだわー! 行くのだわー!」
固定した荷物に寄りかかったりしている人なども多い中、一番先頭でエルサに声を届けやすい位置に座っているモニカさんに声を掛けられる。
頷きつつ答え、エルサに頼んで王都へ向かって出発だ。
ふわり、といつも以上に大荷物、大人数が乗っている重さを感じさせないような動きで、ゆっくりと浮上。
エルサを追うように、少しだけ助走をつけてワイバーン達がリーバーを先頭に飛び始める。
ちなみにリーバーは、なんとなく俺達以外を乗せるのに難色を示したため、兵士さんは乗っておらずフリーだ。
人が多いし、ずっと空を飛び続けているとワイバーンも疲れるだろうし、休憩なども取る予定だからその時に俺やモニカさんなり、誰かがリーバーに乗り換えてみるのもいいかもね。
なんて考えている間に、地上で見送るシュットラウルさん達がかなり小さく見えるくらいの高さまで浮上。
ワイバーンに初めて乗った兵士さん達が多く、そちらは落ちないように気を付けて余裕はなさそうだけど、エルサに乗っている人達は思い思いに地上に向かって叫んだり、手を振ったりしていた。
「それじゃ、移動開始なのだわー!」
エルサが言葉と共に数枚の翼をはためかせ、王都へ向かって移動を開始。
ワイバーン達は、エルサと違って高度を保つのに動き続けないと難しいのか、周囲をぐるぐるとしていたけど、エルサが移動を始めてすぐ後ろを付いてくるように移動し始めた。
リーバーが先頭になっていて、前方にいる俺から見ると扇状に広がっているような感じで、編隊を組んでいるような感じだね。
統率されているなぁ……ワイバーンは群れる事はあっても、ここまで統率されることは少ないらしいけど、リーバーがいる事や復元されて命令を聞かされていた事などから、そういった集団行動もできるようになっているのかもしれない。
「うぐぐ……私もワイバーンに乗りたい。乗って頬擦りしながら干し肉を食べるの……」
「ワイバーンに夢中になっても、干し肉への執着はそのままなのか。だが、諦めろミーム」
「そうよぉ。ミームにくっつかれてワイバーンも困っていたみたいだし、そんな状態で飛ばせるのは危ないわぁ。こっちなら広いし安定しているから、安全よぉ。それにしてもすごいわぁ……」
「これが、ドラゴンで空を飛ぶという事……飛んでいる所を見た事はあるし、ワイバーンが人を乗せて飛んでいるのも見たけど……それ自体が驚く事なのはともかく……」
王都への移動を開始してすぐ、リリーフラワーのメンバーの会話が聞こえて来た。
ミームさんは無理矢理ワイバーンから引き剥がされてエルサに乗せられたため、不満そう……というか羨ましそうにワイバーンに乗っている兵士さん達の方を見ている。
それを、ルギネさんが横から押さえつつ止めていた。
押さえないと、ワイバーンの方に飛びつきそうだからね……それは危険だし、そもそもエルサの結界ではばまれるだろうけど。
ちなみにアンリさんは、エルサに載せた木箱を背もたれ代わりにしていて安定した乗り方をしている。
グリンデさんは、地上を見下ろして何やら言っているようだけど……あまり覗き込むようにしていると、落ちてしまわないか少し心配だ。
まぁエルサの結界が受け止めてくれるから、地面まで落下して激突なんて事はないだろうけど、それでもトラウマくらいは植え付けられそうだ。
「カーリンさんは大丈夫ですか? 高い所に恐怖心を覚える人っているのもいるので……」
「はい、大丈夫です! こんな高い場所から、広く見渡す事なんてなかったので、すごく楽しいです!」
初めてエルサに乗るカーリンさんの様子を窺ったら、元気な返事が返って来た。
高所恐怖症とかではないようで少し安心。
むしろ、目を輝かせてキョロキョロとしつつ空から見える景色を楽しんでいるようだね。
飛んでいるエルサの周囲にはワイバーン以外何もなく、山すらも越えるので多分これ以上見晴らしのいい状況というのはないだろう。
山の頂上よりも高く、視界も開けているからね。
そんな初めて、というか他では経験できない事も楽しめるというのは、ある種の才能かもしれない。
俺も、初めてエルサに乗った時は楽しんでいたけど、それは俺が空を飛ぶ事に対する経験……は飛行機くらいだけど、この世界の人達よりある程度耐性みたいなのがあったからだし。
実際に見るのとは違っても、空の景色くらいなら日本にいれば映像とかでいくらでも見れたからね。
「カーリンさんは、高い場所への態勢があるみたいね。私達は、慣れるのに少しだけかかったけど……」
「今は、以前あったようなとんでもない速度で動かれなければ、平気にはなったがな。最初は、体が震えるのを我慢するのに注力していたくらいだ」
「え、モニカさんもソフィーもそうなの!? てっきり、最初から大丈夫だと思っていたんだけど……」
モニカさん達がエルサに乗っても、怖がっているような様子には見えなかったんだけど、どうやら表面に出さなかっただけで、内心では多少なりとも恐怖心があったみたいだ。
……まぁ、空を飛ぶなんて基本的に考えられなかった事みたいだから、それも仕方ないのかもしれないけど。
あとソフィーが言っているのは、以前エルサが魔力が充実して流れていく景色すらよくわからないくらいの速度で飛んだ時の事だろう。
あれは飛ぶのに慣れていても、怖い人は怖いだろうね……結界があるから安全だし、そこまで風は来ないけど、ジェットコースターに近い恐怖感といったところだろうか――。
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