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アルケニー迎撃に備える

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「ただここは何もない……ちょっとした草木くらいはありますけど、そんな張り付いたり移動するような壁も天井もありません。ただ正面から来るアルケニーを迎え撃つだけでいいのですよぉ」
「成る程……正面から来るだけなら、脅威がないとは言わないでもそこまで怖くないと」
「ですねぇ。糸が厄介でしょうけど、壁移動をしないアルケニーならギリギリBランク? もしかしたらCランクくらいかもしれません」

 立体的な動きができない分、討伐難易度が下がると。
 森の中で戦ったフォレストウルフが、木を足場に使わないようなものだろう。
 まぁ俺も同じように使えないわけだけど……さすがに木を足場にするような人は、俺以外にはほぼいないだろうというのは自覚しているし。
 ……身軽な人なら、できなくもないとは思うから、ほぼって事で。

「ありがとうございます。俺も戦いますけど、アルケニーの情報を共有して、皆で倒しましょう」
「了解しましたぁ。二十体はさすがに手間がかかりそうですけど、リク様が戦われるのなら問題ないでしょうねぇ」
「ははは、そうだといいんですけど」

 できれば、魔法で一掃とかしたいけど……俺は今使えない状態だし。
 エルサは最終手段で、王都に行くためにまだ飛んでもらわなくちゃいけないから、あまり魔力を使って欲しくないからね。
 いくらセンテにいる時ある程度温存しながら蓄えていたといっても、大きくなっている今の状態でも、少しは消費しているし、これから先エルサに頼る事が多くなる可能性を考えると、ここでは使いたくない。
 というか、大きさを維持できなくなったら荷物が運べなくなるし。

 アルケニーを放っておいてさっさと王都に向かう、という事もできるんだろうけど……こっちは飛べるし。
 でもそれだったら、近くを通った人が危険だし、そもそもこの先アルケニー達がどこに向かうかもわからない。
 Bランク相当の魔物が二十体前後もいれば、村の一つや二つが壊滅するかもしれないし、今のうちに倒しておく以外に選択肢はないだろう。
 というわけで、リネルトさんにお礼を言ってアルケニーを迎え撃つための準備をする。

 話の終わり際くらいに、アルケニーの気持ち悪い足音が大量に聞こえ始めたって、リネルトさんが耳を抑えていた……聴覚が鋭いというのも大変だ。
 エルサは音の方は気持ち悪いと思っても、大丈夫みたいだな――。


「それじゃ、アルケニーを迎え撃ちます。絶対に単独で戦わないで下さい……まぁ、戦い慣れている皆さんはわかっているから大丈夫でしょうし、油断もないでしょうけど」

 アルケニーの諸々の情報を共有しつつ、全員が武装して迎え撃つ構え。
 班分けもしている。
 俺とモニカさんの二人にリーバー、主に俺がアルケニーの集団の真ん中に突撃し、モニカさんとリーバーが援護の第一班。
 ソフィー、フィネさん、フィリーナとカイツさんの右翼担当第二班に、その二班を援護する形で、ルギネさん達リリーフラワーのメンバーの第三班。
 ユノ、ロジーナ、レッタさんの左翼担当第四班と、右翼と同じく援護する形で王軍兵士さん十名の第五班。

 王軍兵士さん達は四十名を十名ずつの班に別れてもらい、五班から八班まで作ってもらっている。
 残りの六班から八班まではワイバーン達と一緒に、アルケニーを取りこぼさないよう包囲する役目だ。
 班ごとに二名程、それぞれワイバーンに乗って空から急襲する役目があったりもする。
 さらにアマリーラさんとリネルトさんはそれぞれ単独で、遊撃のような形でアルケニーに対処してもらう。

 二人共、誰かと組んだ方がというか、アマリーラさんとリネルトさんで一つの班にと言ったんだけど、こういう広い場所ではむしろそれぞれが自由にした方が獣人としては戦いやすいとか。
 そういえば侯爵軍との演習の時も、アマリーラさんとリネルトさんは別々に戦っていたっけ。
 まぁあれは、相手を撃滅するのではなく訓練だったからっていうのもあったけど。
 ちなみに唯一の非戦闘員であるカーリンさんは、エルサに乗って避難している……エルサの所にいれば、アルケニーに害される事はあり得ないだろうから。

「そろそろ……かな」
「そうみたいね」

 横にいるモニカさんと確認して、遠くへと目を向けると何かが集団で近づいて来るのがなんとなく見える。
 アルケニーだろう。
 カサカサ……という、自然に発生しなさそうな音が離れているこちらに聞こえてくる。
 アマリーラさんやリネルトさんが顔をしかめているし、虫が動いているような音なので気持ち悪いのもなんとなくわかるね。

 ちなみに、班を分ける前にレッタさんに軽く確認したんだけど、近付いてきているアルケニーはレッタさんが関与している魔物ではないとの事だ。
 そもそもレッタさんが狙っていたのはセンテであり、俺なので、こんな王都へ行く途中の場所に魔物を用意する必要はないと言われた。
 ただ、アルケニーが洞窟などの暗い場所に棲息しているはずが、明るく日の光を遮る事がほとんどできないような場所に出てきているというのは、帝国なりが関係している可能性は高いだろうと。
 つまり、何かを狙ってかもしくはただ魔物を解き放っただけかもしれないけど、とにかく復元された魔物の可能性があるって事だ。

「皆準備を! アルケニーはもしかしたら、ワイバーン達のように特殊な性質を持っているかもしれません! 気を付けて!」
「「「はっ!」」」
「もちろん、わかっているさ!」
「先制攻撃は任せて!」

 俺の声に、兵士さん達だけでなく他の皆もそれぞれ頼もしい返事。
 班を分けたからと言ってただ突撃するだけでなく、向こうがただこちらに突撃して来るだけなら、それに備えて先制攻撃を叩きこんでかき乱してから相対するだけだ。
 俺も参加したいけど、できない事だけど……要は、離れているうちに魔法を叩きこんで、少しでもダメージを。
 できれば数を減らせる事ができればってところだね。

「私も準備するわね」
「うん、お願いするよ」

 隣のモニカさんがそう言って、魔法を使うために集中を始めた。
 マリーさんからの特訓で、戦闘中でも問題なく魔法を使えるモニカさんだけど、やっぱりこうして動かずにちゃんと集中する方が魔法の狙いを定めやすいらしい。
 まぁ、そりゃそうか。
 モニカさんだけでなく、フィリーナやカイツさん、それに兵士さん達などの魔法が使える人達が、アルケニーに備えて魔法の準備を開始。

 いつでも魔法が使える状態で、有効な射程距離に入るのを待つ……。
 ちなみに、兵士さん達のほとんどが魔法を使えるらしく、侯爵軍との演習の時程じゃないけどそれなりの大きな規模の魔法攻撃になりそうだ。
 道中に魔物と戦う事を想定してヴェンツェルさんが人選したわけではないと思うけど、軍の中である程度以上の実力者になると魔法が使える割合が増えるのかもしれない。
 魔法も戦闘技術の一つとも言えるし。

「……来たわ!」

 魔法を放つため、俺達より数歩前に出ていたフィリーナの長い耳がピクンと跳ね、アルケニーの到来を告げる。
 いや来ていたのはわかるし、ある程度その姿も見え始めたんだけど、有効射程距離に入ったのを確認したってところだろう。
 耳が動いたのは、聴覚云々だけではないんだろう多分。
 そうして、アルケニーが近付いたのを確認したフィリーナ達が、準備していた魔法を解き放った――。


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