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カイツさんは研究へ

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「なら良かったわ。それじゃ、カイツと言ったかしら? 至急アルネと合流して、今話した魔法具……混ざり物の魔力を判定する魔法具の研究と開発を急いでくれるかしら? 必要な物などは報告してくれれば、すぐに用意させるようにするわ」
「畏まりました! 雑多な事を気にせず研究ができるのなら、喜んで承ります!」
「では私がアルネ様達のいる研究室にご案内致します」
「あ、私も行くわ。村から来ているエルフっていうのが誰なのかも、知っていなきゃいけないからね」
「えぇ、お願いねヒルダ。フィリーナも」

 姉さんの要請で、すぐに研究に取り掛かるらしいカイツさん。
 まぁ、アルネが研究に没頭していると聞いてカイツさんはうずうずしていたからね、仕方ない。
 案内のヒルダさんはともかく、フィリーナは村から来ているらしいエルフさん達に挨拶をするのも目的なんだろう。
 カイツさんは方向音痴を発揮したせいでセンテにいて、俺達も助かったけど……他にエルフの村を出発していた人達は、もっと早くから王都に到着しているみたいだからね。

「あ、そうでした。リク様、ワイバーンも借りてよろしいでしょうか?」
「ワイバーンを? いいと思いますけど、またあっちの研究もするんですか?」

 案内役のヒルダさんに付いて、部屋を出て行こうとしたカイツさんが何かを思い出したように振り返り、俺にワイバーンの協力の許可を求めてきた。
 センテでやっていた、空を飛ぶための方法の研究とかだろうか? まぁやっていた事を見たり聞いたりするに、空を飛ぶための研究には全く見えなかったんだけど。
 皮を剥いだりとか、ワイバーンの特殊な趣味ありきの事ばかりだったし。

「そちらももちろん進めるつもりではありますが、そうではなく。魔物の魔力パターンも見ておきたいのです。あらゆる魔物の魔力をとはいきませんが……」

 魔力パターンを調べるのに、色んな種族のを見ておきたいのか。
 まぁ魔物を捕まえてきて調べる事もできるだろうけど、まずは手短で協力的なワイバーンをというのは手間もかからないからね。

「成る程。それでしたらワイバーンも嫌がらないでしょうし、わかりました。リーバーにも俺が許可した事なども言っておいて下さい」
「ありがとうございます! 決して無駄にはしません! あとできれば、アマリーラさんとリネルトさんも。獣人として……」

 喜ぶカイツさんが、次に視線が据わっている俺のすぐ後ろに立つアマリーラさん達の方へ。
 そうか、色んな魔力パターンを見て、魔物すら必要なら獣人の魔力パターンってのも見ておきたいんだろう。
 獣人にだって、魔力はあるんだから当然だね。

「話を聞いていたからわかるが、獣人の魔力パターンとやらを調べたいのだな? だが私はリク様のお傍に控えておかねばならん。だからリネルトを……」
「はいはい了解ですぅ。名目上リク様のお傍にというのはわかりますが、ここは王城です。何かあるわけもありませんから、行きますよアマリーラさぁん」
「あ、おいこらリネルト。離せ! 私は……」

 自分はここにいて、リネルトさんだけを派遣しようとするアマリーラさんを、リネルトさんが首根っこ賭を掴んで引き摺り始めた。
 戦闘などでは怪力を発揮するのはアマリーラさんなのに、こういう時はリネルトさんの力の方が強いんだよなぁ。
 体格的にリネルトさんが大柄で有利なのもあるかもしれないけど、アマリーラさん自身が全力で抵抗するがないからってのもあるのかな。

「アマリーラさんがリク様のお傍にいたいという気持ちは痛い程わかりますが、今はできるだけ多くの協力をしないといけない場面ですからねぇ。リク様も、アマリーラさんの協力は喜んでくれると思いますよぉ?」
「はっ! リ、リク様……?」
「えーと、そうですね。できれば協力してくれると嬉しいです」
「っ! か、畏まりました! アマリーラ、リク様の為、全力で事に挑ませて頂きます!」

 アマリーラさんの説得のために話を振られた俺は、少しだけ考えてそう言った。
 すると急に引き摺られるままの恰好だったアマリーラさんが急に立ち上がり、直立不動になってカイツさんに協力してくれる事を承諾。
 尻尾もぶんぶん振っているし……なんだか、猫っぽいのに犬みたいな反応だなぁ。
 いや猫も尻尾を振るけどさ。

「では、失礼いたします」

 ともあれ、ワイバーンやアマリーラさん達の協力を取り付けたカイツさんが、フィリーナを連れて意気揚々と部屋を出る。
 最後に、ヒルダさんの言葉と礼の後ゆっくりと扉が閉まった。
 とりあえず、魔法具の研究開発は任せておけば大丈夫そうだね。

「それにしても、帝国はなりふり構わずとにかく我が国をどうにかしようって腹積もりのようね……まぁ、わかりやすくていいけど」
「そうだね……」

 これまでは魔物を使ってだったのに、今は人間を使ってだ。
 その爆発した人間というのが、どの国の人なのかはわからないけど……これまでと違ってもう言い逃れなんてできない事をしでかしている。
 まぁ現状では証拠がないみたいだから、追及がどこまでできるかは置いておいて。
 なんにせよ、姉さんの言うなりふり構わないっていうのは何処か納得できた。

 もしかしたら、これまで何度も企みを潰してた事や、レッタさんが戻って来ない事などで焦っているのかもしれない。
 ツァーレン隊、だったっけ? クズ皇帝から直々に魔力を分け与えられた人達も、逃げ出した人もいてもういないみたいだし……。
 人間を使ってテロを仕掛けるというのは、もはや最終手段なのかもという印象を受けた。

「さて、とりあえず爆発する人間に対する対処方に目途は付いたけど……しばらくはそれでも、厳戒態勢を敷いておかないといけないわね」
「そうですね。冒険者にも、引き続き警戒するように伝えておきます」
「あぁ、それとさっきは魔力を調べる、という方向に話がいったから言いそびれたのだけど……」

 顔を突き合わせる姉さんとマティルデさんに対し、レッタさんが思い出したように声を出した……相変わらず不満顔のロジーナを撫でながらだけど。

「あくまで私が見た研究での段階で、今もそうだとは限らないのだけど。処理を施された人間は、虚ろな目をしていて応答も怪しいわ」
「虚ろな目……ですって?」

 レッタさんの言葉に、姉さんが反応する。
 マティルデさんや俺、他の皆も同様だ……もしかすると、魔法具がなくても見分ける方法があるって事なのかな?

「魔力が混ざった影響なのか、命令が体内に入り込んで人としての意思がなくなったのかはわからないわ。ただ、ぼんやりと夢うつつのような目をしていて、話しかけてもほとんど反応しない、というのが私の印章よ。もちろん、私の知らないうちに研究が進んで改良されている可能性はあるけれど」
「夢うつつ……それらしい人物を見かけたら、爆発する人間かもしれないってわけね」
「ただ、それだけで確実だと断定するわけにもいきませんね……」
「まぁ、あくまで見分ける方法というか、可能性がある人を見つけると考えればいいかもしれないわ」

 難しい表情の姉さんやマティルデさんの二人に、そうレッタさんが付け加えた――。


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