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三人それぞれの剣

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「私に乗ったまま、魔法は使わないようになのだわ。少なくとも火の魔法は勘弁なのだわー。引火してボーボー鳥になるのだわー」
「いや、ボーボー鳥ってそういうものじゃないんだけど」

 ボーボー鳥って、音の響きから確かに燃えているような印象だけど、実際には違うしそもそも棒棒鶏(ばんばんじー)の間違った読み方で、食べ物の事だし、お腹が空いたのか?
 というかエルサは鳥じゃなくドラゴンで……体が燃え盛っているドラゴンといえば、サラマンダーとかファイアードラゴンまたはレッドドラゴンってところかな。
 あくまでイメージだけど。
 ちなみに、ワイバーンは特に気にしないようだけど、エルサは背中に乗っている人が魔法を使って地上を攻撃するのを嫌っている。

 空を飛ぶためとか、結界の維持に魔法が干渉するから……みたいな話は一切なく、単純に嫌だってだけらしい。
 火の魔法を使っても、エルサは簡単に燃えないだろうし、モフモフの毛は引火性の物じゃないから大丈夫だろうけど、少しでもチリチリになってモフモフが損なわれる可能性もあると考えたら、俺も同意するしかない。
 なら水や氷などであればとは思うけど、エルサが寒くなりそうだから基本的に背中に乗ったままで、魔法を使うのは禁止となっていたりする。
 ともあれあれこれ、そんな話をしながらミタウルスのかなり近い場所に到着。

 高さも二、三十メートル程度に落としていて、ミタウルスの中には俺達に気付いて雄叫びを上げていたり、興奮しているのも散見された。
 さすがに届かないが、持っている武器を俺達に向かってブンブンと振っているのもいるね、威嚇のつもりなのかもしれない。

「っと、このくらいならいいですかね?」
「はい、問題ないと思いますぅ。このくらいの高さなら、落ちても突き刺さりませんからぁ」
「了解です。エルサ、止まってくれ」
「あーいだわ」

 ミタウルスにある程度近付いた所で、さらにゆっくり高度を落としてもらい適当な所でリネルトさんに確認してエルサに止まってもらう。
 どうでもいいかもしれないけど、地面に突き刺さるかどうかが高さの基準なのはリネルトさんのこだわりか何かだろうか?
 それはともかく、目視で大体高さ十五メートル、距離五十メートルといったところだろうか。
 かなり近付いているため、ミタウルスは集団の全てがこちらに気付いており、うち数体はこちらに向かって走ってきている。

「はぁ、ミタウルスは毛の硬さもさる事ながら、その攻撃を避けながら戦うのは骨が折れるのじゃが……こうなったなら仕方ないの」
「ではリク様、行って参ります」
「サクゥッと倒してきますねぇ」
「はい。三人とも気を付けて。何かあれば合図なりしてくれれば、俺も飛び込みます」
「リクが飛び込めば一人で全て倒してしまいそうじゃのう、じゃがそれでは訓練の見本にもならん。まぁワシが危ない時は頼もうかの」

 エアラハールさんがレイピア程じゃないけど細く長い剣を、アマリーラさんが自分の体よりも大きな大剣を、リネルトさんはショートソードよりも少し長めの剣二つを……それぞれ言葉を発しながら引き抜く。
 全員特注と思われる武器で、剣ばかりだけどそれぞれの役割を持っている気がする。
 というか同じ剣でも大きさが違って、よくここまでバラけたなぁ……と。
 わざとかもしれないけど。

「って、リネルトさん。以前見た時とは剣が違いますね?」
「侯爵様のお傍を辞する際に、選別としてもらったんですよぉ。アマリーラさんの持っている剣も、実はそれなんですけどねぇ。見た目はほとんど同じですけどもぉ」
「そうだったんですか……」

 アマリーラさんの大剣は、ヒュドラー戦の時にロジーナが借りた物と違いはほぼわからない……しいて言えば、刃の輝きが日の光を反射してより綺麗に輝いている気がするくらいだろうか。
 対してリネルトさんは、演習やワイバーンに乗って遊撃していた時はオーソドックスな片手剣だったのに、二刀流になっている。
 二刀流といえば、クレメン子爵の所で双剣使いの騎士さんがいたけど、その騎士さんよりも持っている剣は長く重そうだ。

 元々二刀流用ではないんだろうけど、それを軽々と片手で持つリネルトさんはアマリーラさんと同じく獣人なんだなぁと妙に納得。
 というより、小柄なアマリーラさんが大剣を振るうよりも、大柄ならリネルトさんが長めの剣二つを軽々と持っている方が違和感がないか。

「あと、エアラハールさんのその剣も初めて見ましたね。ブハギムノングでは、使っていませんでしたし」
「この剣は昔から愛用している物じゃ。あの時は適当な剣を持って行っておったからのう」

 エアラハールさんの方は剣身が通常よりも細く、俺の持っている白い剣……になる前の黒い剣だったバスタードソードと呼ばれる部類の物よりさらに長い。
 もしかしたら、ロングソードなどの両手剣と同じくらいじゃないだろうか。
 その剣身は研ぎ澄まされているという言葉が似合いそうな雰囲気を漂わせており、美術品ではなく名匠が作った一点の曇りのない刀を彷彿とさせた。
 お爺さんと言って差し支えないエアラハールさんの見た目と相まって、古強者や剣豪という言葉が合いそうでもある。

 もちろん刀と違って反りはないし、片刃でもないから完全に別物なんだけどね。
 さすがにエアラハールさんはアマリーラさんやリネルトさんのように、軽く持っている感じはないけど、それでもその長さの剣を片手で持っているのだから、まだまだ現役で通じそうな姿にも見えるなぁ。

「どれ、それではひよっこ共に戦いというものを教えようかの……よいな?」
「いつでも!」
「任せて下さいぃ」

 小さく息を吐き、アマリーラさん達を窺うエアラハールさん。
 二人が頷くのを確認して、地上のミタウルスを見据えて示し合わせたように三人がほぼ同時にジャンプ!

「ん……?」

 少しだけ、エアラハールさんがアマリーラさん達より遅れてジャンプした気がするけど……まぁ、誤差ってところかな。
 一秒にも満たない一瞬だけ、というくらいで俺しか気づいていない程度だし。
 ともあれ、エルサの背中から飛び降りた三人は、そのままミタウルスが群がる地上へと降り立……たなかった。

「まずは数を減らす、ってところかしら?」
「まぁ数はそのまま戦力になり得るからな。向こうに気付かれているとしても、必ず先制できるという利点を生かしたんだろう」
「それにしても、エアラハール殿の剣は凄まじいですね。あのミタウルスを頭から両断とは……」
「んー、ロジーナなら一手で二体? 私なら三体ってとこなの」
「何を言っているのよ、逆よ逆。私が三体でユノが二体でしょ?」
「ロジーナ様なら、あの程度の魔物全て薙ぎ払うのも造作もない事です!」

 と、三人が降りるついでとばかりに、勢いをつけたままそれぞれ一人一体のミタウルスを斬り裂いたのを見て、モニカさん達が話している。
 皆結構冷静だよね……もっとすごい光景を見た事があるからかもしれないけど。
 あと、ユノとロジーナはあまり張り合わないように、エルサの背中で訓練場でやったような模擬戦を開始して欲しくないから――。

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